「若者には介護をさせない」ー熟年ベンチャー「かい援隊本部」の船出から高齢化社会の未来を考える

2012年04月06日 08:30

老驥(ろうき)櫪(うまや)に伏すとも志は千里に在り

烈士(れっし)の暮年(ぼねん)壮心(そうしん)已(や)まず
-曹操
老いたる名馬は馬小屋に繋がれていても千里を駆けようとする気概を持っている。志高い者は晩年になっても意気盛んなものだ。

高齢者が日本の問題を解決する「当事者」になる

日本が迎えつつある高齢化社会。暗いイメージが先行する。年金、財政、産業構造、貿易、金融資産などの各種統計とその先行き予想は頭を抱えたくなるようなものしかない。


しかし65歳以上と定義される高齢者とされる方とお話をすると、年齢で人間を区切るのはばかばかしいと思えるほど元気な方ばかりだ。この力、特にビジネスの創業や支援で、経験と知恵を活かせないだろうか。日本には人材、特に働かない高齢者という残された宝があると、発想を転換できないだろうか。

私がこんな問題意識を持っていると「大人の社会起業」で期待できる人に出会ったので紹介してみたい。

「若者に介護はさせない。2025年の介護分野における100万人規模の人手不足の解決を図る」。こうした大義を掲げた介護人材派遣業の株式会社「かい援隊本部」(本社東京都品川区)が、2012年4月1日に活動を開始した。

同社のビジネスの特徴は、「元気高齢者による高齢者の介護」。団塊の世代が80歳前後になる2025年に日本は深刻な介護スタッフ不足に直面する可能性があるという。「若い世代は介護以外の場で働いてほしいです。いろんな問題をこれまでの日本では先送りの名目で、次の世代に付け回してきました。私の世代の問題は私が解決に向かわせたいのです」。創業者の新川政信(にいかわ・まさのぶ)会長(60)は話した。

介護分野での人材派遣業では類例のない毎月の研修を行う教育に力を入れる体制をつくった。介護をする人、される人の年齢が近いゆえにコミュニケーションを取りやすく、共に心と体の負担をかけない介護ができると期待できる。

さらに年金受給者層の人を介護スタッフとして報酬を伴う社会貢献活動にいざなうことで収入と活力の維持を図る。目標は「2025年までに100万人の介護スタッフの派遣・育成を行う」と壮大だ。

新川会長は「本当に社会の役に立つなら収益も上がり、税金もたくさん払えるはず」と語り、株式会社の形で介護ビジネスに挑む。「高・介併進策」と名付けた介護の人手不足解消と高齢者の生涯雇用のステージの確保、補助金なしで社会に負担をかけない社会性、知識や経験を持つ元気高齢者の力を活かすなど、さまざまな社会に役立つ工夫をビジネスプランの中に盛り込んだ。すでに介護施設と契約を結び、滑り出しから多忙になった。

「当事者の時代」(光文社)というジャーナリスト佐々木俊尚氏の本が好評だが、傍観者であることを止め、当事者になろうとする高齢者たちが生まれつつある。

「かい援隊本部」の起業は定年の後から

新川会長、斉藤幸三社長は共に60歳。2人は明治安田生命の幹部を務めた。そこで学んだ人材育成のノウハウを活かしながら、定年後に社会起業を行う。

新川氏に私は個人的にも交際いただいている。生保業界で営業畑を歩き、生保レディーを励ましながら、実績を重ねて来た。大変な仕事だと思う。さまざまな経歴を持つ契約社員の女性たちを束ね、一丸にさせる。新川さんは腰が低い一方で、親分肌でもあり、そうした場でいかにも慕われそうなリーダーだ。同じように介護でも人を訓練し、現場に送り込むことも上手にできそうだ。

新川氏と斉藤氏は3年前にビジネスモデルを構想。新川氏は60歳を機に、社会起業家を育成するビジネススクールである社会起業大学(東京都千代田区)に調査研究の総仕上げのために入学した。20-30代の学生が多い中で、その在校生たちが競う「ソーシャルビジネスグランプリ2011夏」で最優秀の起業プランに与えられるグランプリを受賞した。60歳以上の「第二の人生」で、2人は自ら新しい生き方、働き方を作り出そうとしている。ちなみに私ははその4期生だった。

同社は4月1日にプレス発表会と設立記念パーティを開催した。社会起業大学の田坂広志名誉学長、田中勇一理事長も出席し、元日本テレビアナウンサーの松永二三男氏の司会の下で、約200人の集まったイベントは盛況となった。

新川会長は「このままでは家族の介護・看護のために、若者の仕事が奪われます。一方で団塊の世代が80歳を迎えようとする2025年には介護難民があふれかねません。それを元気高齢者の力でなくしたいのです」と起業の大義を強調した。

参加者は「60歳からの社会起業」「若者に介護をさせない」という同社の取り組みに関心を寄せ、誰もが応援をしていた。シンクタンク・ソフィアバンクの代表で、社会企業家の意義を世に訴えてきた田坂広志氏もエールを送った。「私も60歳。未だ修行中の身ですが、この年だからこそ、これまでの人生の経験を活かし、何らかの貢献ができると思います。立ち上がったかい援隊を支えたいと思います」。

司会の松永氏も60歳。「同世代の心意気に応援しようと思った」。(ちなみに筆者は小学校低学年のころ松永氏のプロレス中継を楽しみにしていた。)会場には60歳を超えて起業したライフネット生命の出口治明社長(63)、高齢者の派遣業の高齢社の上田研二会長(74)も訪れ「成功を祈ります」とあいさつ。来場者は盛り上がった。

こうした人々の姿を見て、働く場さえあれば高齢者は何度でも立ち上がれると私は思った。また新川さんの個性と掲げる大義の純粋さのためか、集う人のまなざしは暖かい。2006年のライブドア事件の後で、日本の一部に「ベンチャー企業はうさんくさい」というおかしなイメージが広がった。

これは困った潮流だが、こうした雰囲気は一部の行儀の悪いベンチャー企業の経営者が荒っぽい商売、成金めいた行動をした報いでもある。どんな事柄にも、段階がある。「大人」が相応のことをすれば、社会はそれなりに処遇するものであると、改めて認識した。

民間に雇用を強制させる国の政策の危険性

今年1月6日、厚生労働省の労働政策審議会が、希望者全員を65歳まで雇用するよう企業に求める内容の建議を大臣に提出した。

年金財政の危機が迫る中で、65歳まで雇用を確保することが重要だという政府の考えは分かる。しかし、それは一企業に負担を課すことでは達成できないだろう。企業は今いる少数の正規雇用の社員のみを守り、正社員への登用の道を狭めてしまうだろう。これは結果として、全体の雇用を縮小させてしまう。

簡単な答えはない。社会全体で受け皿を作らなければならない。期待したいのは、「かい援隊」のような高齢者に的を絞り、社会問題を解決する一方、雇用を生む民間企業だ。

「かい援隊」は坂本龍馬の海援隊に言葉の音を合わせたが、新川さんがイメージしたのは、幕末、庶民兵で組織された高杉晋作の奇兵隊だそうだ。長州の正規軍を支援したが同じように「人を支え、国を支えたい」という。

もはや国には頼れない。志を持った在野の人々こそ、社会問題を解決していく。新川さんを初めそうした志を持つ人を、私たちは応援したい。

石井孝明 経済・環境ジャーナリスト ishii.takaaki1@gmail.com

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写真 左から3人目がかい援隊本部の新川政信会長、右端が斉藤幸三社長、左から新川氏を支援する社会起業大学の田中勇一理事長と田坂広志名誉学長

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