各都市の幸福度を伸ばし日本全体の幸福度を上げ、経済成長を目指す路線 --- 田原 健央

アゴラ編集部

日本の未来にはいくつか候補があるが、そのうちの一つは日本を幸福な国にしていくことである。実際「日本を幸福にしたい」と思っている人は多い。最近ブータンが注目され関連書籍もヒットしていることや、内閣府が幸福度に関する研究会を開いたことはその表れだろう。


幸福度を高めていくという目標自体は望ましい。ただ、そこに至る道には、国全体を一律に幸福にしていくという現在政府が取り組んでいる路線の他にも、各都市が幸福度を高める努力を行いその総和として日本全体が幸福になっていくという路線もある。

個人的には、この両者は並行して行ったほうがいいと考えている。地方の実情はそれぞれ異なるが国は大きすぎて小回りが利きにくく、国が一律で幸福度を高めようとしても大して効果が出ない可能性があるからだ。

もし仮に各都市が幸福度を高める努力を行う路線を取る場合、参考になるのが『住民幸福度に基づく都市の実力評価―GDP志向型モデルから市民の等身大ハッピネス(NPH)へ』という本である。
本書はNPHという新しい幸福度の考え方を提唱し、日本の政令指定都市のうち17都市(※1)について30の定量的な指標(※2)で分析し、それぞれの指標について当該都市が相対優位(上位5位以上)にあるのか相対劣位(下位11位以下)にあるのかを調査している。
このデータを元に相対優位指標数割合から相対劣位指標数割合を引いた値をグラフにしたところ、次のようになった。

graph

※1:近年政令指定都市に指定されたばかりでデータが少ない岡山市・相模原市・熊本市は除外
※2:各指標については本書か、「市民の幸福度(NPH:Net Personal Happiness)評価に基づく、生活者起点の公共経営」を参照(※注意:PDFファイル)

言うまでもないが、幸福度というのはどうしても定量的に評価するのが難しいし、限界がある。このグラフも各都市の幸福度をあくまで相対的かつ近似的に表したものであり、正確な数値は分からない。グラフによると左の浜松市や新潟市は幸福度が高く、右の堺市や大阪市はそうでないことになるが、もちろん大阪に住んでいて幸せな人もいれば、浜松に住んでいて幸せでない人もいる。

ただ、仮にこのような指標があれば、各都市が幸福度を高めようと努力する場合の目安になる。そのための問題提起の意味もこめて、このグラフを作成した。

なお、もし仮に各都市がそれぞれの幸福度を高める努力を行っていき、その総和として日本全体の幸福度を上げていくという路線をとる場合、
(1)都市の幸福度を測定することができる精緻な指標を用い、日本の各都市における幸福度を評価していくこと
(2)この指標の数値を上げるよう都市の努力や都市間の競争を奨励すること
(3)この努力・競争の際、放漫財政にならないようきっちり国がシーリングをかけること
などを行わねばならない。

特に注意すべき点は(3)だ。幸福度を高める政策を各都市が進める場合、財政に過度な負担がかかる可能性がある。しかし、日本は既に莫大な債務を抱えており、政府に新たな負担をさせるのは危険だ。幸福度を高めようと努力し大規模な財政出動を行った結果、財政破綻してしまったら元も子もない。
これを避けるには、
・大規模な財政出動を行わず知恵を使い低コストで幸福度を高める努力を行うこと
・NPOなどが政府に頼らない社会保障インフラを構築すること
・財政健全化に向けた努力を行い、財政の持続可能性を確保すること
などの試みが必要になるだろう。

ちなみに、上記のやり方で幸福度が上がった場合、高い確率で経済成長が進む。

そもそも真に経済成長を進める政策を導入するための最大の障害は、競争に負けたときに生きていけないことに対する各個人の不安感である。この不安を減らすためには日本の貧弱なセーフティネットを整えることが必要になるが、日本は財政が厳しいので困難だ。これが日本で経済成長を真に進める政策への反発が大きくなる、大きな理由になっている。

これに対し、上記のやり方で財政に悪影響を及ぼさずに幸福度が上がったら、セーフティネットが整備される(セーフティネットは幸福度を構成する大きな要素)。これによって、真に経済成長を進める政策を実行しやすくなる。

北欧は良い例だろう。北欧諸国は幸福度が高いが、実は真に経済成長を進める政策や経済体制を導入している。このことは、北欧諸国がGDPや一人当たりGDPを、リーマンショック時を除きここ20年間伸ばし続ける大きな原動力となった(なお、これはブータンも同じだ。あののんびりしたイメージのあるブータンは、実は30年間GDPを伸ばし続けている。)

幸福度を上げることは、経済成長を進める原動力にもなり得るのである。

(本文について私の認識違いや勘違いなどもあるかもしれませんし、今後ご意見をいただく中で考えが変わるかもしれません。さまざまな方から学び考えを深めたいので、ご意見、ご批判等、お気軽にご連絡いただけたら幸いです)

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