都市経営の破壊的イノベーション

池田 信夫

けさから、橋下徹氏のツイッターがすごいことになっている。税制については大阪市特別顧問の土居丈朗氏から「アゴラ」に投稿があるので、私は原則論の部分でコメントしておこう。


私の「大阪市をチャーターシティのような都市国家に」という提言について、橋下氏は「目指す方向はそちら」と言いつつ、コンピュータを例にとって

メインフレーム型のシステムにおいて、ある一部の地域だけ独自のシステムを導入することはできない。それをやろうと思うと、結局基幹システム全体をいじらなければならない。今の日本の統治機構のシステムだとある一部のエリアだけが独自のことをやることができない。

というのだが、コンピュータ業界の教訓は逆だ。マイクロソフトはIBMのメインフレームをいじるのではなく、PCという新しい分野を創造したのだ。IBMはDOSをメインフレームに統合しようとしたが、マイクロソフトはそれを拒否し、最終的にはIBMを超える大企業に成長した。OSのような大きなレジーム転換は既存のシステムの手直しでは不可能であり、むしろPCのようにまったく違う破壊的イノベーションのほうが現実的なのだ。

これは民主党のいうように日本を「地域主権」にしようという話とは違う。Krasnerも指摘するように、国家主権は武力と徴税権を独占するための組織的な偽善であり、その偽善の分け前にあずかろうという発想では最初から敗北している。

「道州制」も同じである。私は1985年に、奥野国土庁長官、細川熊本県知事、横路北海道知事などの出演で道州制をテーマにした特別番組をつくった。結論は全員一致で道州制には賛成だったが、それ以来まったく動いていない。それは中央の権限を委譲するという発想だから、権限をもっている官庁が反対したら何もできないのだ。

そうではなく大阪都が独自に行なう政策を具体的に決め、「**法の適用除外にする」という規定を列挙した特区法案をつくるのだ。すべての法律について例外にする必要はなく、たとえば「大阪在住の国民の所得税・法人税は大阪都が徴収して政府に『交付金』を払う」という規定をつくればいい。これは『もしフリ』で本橋知事が実行する政策である。

もちろん霞ヶ関は、この法案にも反対するだろう。そこで橋下氏が絶大な人気を利用して「次の総選挙では特区法案に賛成の党と連立する」といって各党と政策協定を結べばいい。みんなの党などが議員立法で国会に出せば、可決される可能性もある。道州制のような大規模な改革ではなく、たかだか大阪府民900万人の実験だから、府民が望めば実現は不可能ではない。

こうした改革ができる都市は多くない。東京は国政と一体なので無理だし、それ以外の地方都市ではインパクトがなくて広がらない。大阪には、かつて堺という自治都市があり、一向一揆の伝統もある。その人口は、最近よく賞賛されるスウェーデンとほぼ同じだ。北欧の教訓は、行政の最適規模は人口1000万人以内だということであり、この点でも大阪はベストである。

20世紀に支配的だった垂直統合型の巨大企業が没落したように、21世紀の国家もモジュール化し「脱統合化」するだろう。2050年には、世界の人口の7割は都市に住むようになると予想される。それを経営するのは20世紀型の官僚や議会ではなく、橋下氏のようなベンチャー首長だ。今は大阪が世界の先頭に立って都市の新しいビジネスモデルを創造する絶好のチャンスである。