民主制から独裁へ

池田 信夫

きのうの日経新聞に、おもしろい記事が出ている。種類株を使って一般株主の権利を制限するグーグルや、創業者が独裁的に経営したアップルの経営は、株主に不評だが業績は好調で、株主民主主義として評価の高いヤフーやソニーが苦戦しているという話だ。これは当然だ。資本主義は、もともと独裁的システムだからである。


現代の企業理論では、資本家の独裁がもっとも効率的なガバナンスだと結論している。これは現実の企業をみれば明らかだろう。社長を選挙で決める株式会社はない。労働者自主管理や「日本的経営」はそれに近いが、いずれもうまく行かない。それはすべてを決定してリターンを取る資本家がいないため意思決定が複雑になり、資本蓄積のインセンティブが低いからだ。

生協のような民主的なNPOは、単純再生産にはいいのだが、成長するためには利潤を最大化する資本家が必要だ。株式会社では資本家がすべての決定権をもち、労働者はそれに従うか辞めるかの選択しかない。これは独裁だが、労働者にはexitオプションがあるので問題はない。他方、exitできない国家では民主制によってvoiceで異議を申し立てる必要がある。

・・・というのがこれまでの常識だったが、Dysonのいうように21世紀の都市が企業に近づいてゆくと、両者の違いはなくなる。都市がNPOのように単純再生産するのではなく、世界の他の都市と競争して人口を引きつけ、成長しなければならない時代には、そのガバナンスも企業に近づく。つまり都市のインフラに投資する資本家が市長を任命し、市民は多くの都市の中から好きな都市を選んで住む。いやなら出ていけばいい。

都市国家が合併してできた主権国家は、高コストで非効率になった。先進国の国民負担率は50%を超え、公的部門が経済の重荷になりつつある。他方、都市国家や小国が高い効率を上げている。世界の一人当たりGDPの上位はルクセンブルクやカタールなどの小国ばかりで、アジアでも香港やシンガポールは日本とほぼ同じだ。こうした国(地域)の共通点は、民主的な政府がないことだ。

日本でも、ユニクロやソフトバンクなど、独裁的な企業ほど高い業績を上げているのは偶然ではない。日本の企業は労働者のexitオプションを奪って組織に囲い込み、民主的に経営してきたが、そのコンセンサスの強さが足枷になってグローバル競争から脱落し始めている。水平分業が進む世界でもっとも重要なのは意思決定のスピードであり、大組織を民主的に運営する企業モデルはもう古いのだ。

橋下徹市長を大阪市民が歓迎しているのも、何も決まらない行政にうんざりしたからだろう。地方議会なんて無駄の最たるものだ。民主制の時代は終わった。21世紀は独裁的な企業と都市のグローバル競争の時代になるだろう。