太陽光の買い取り価格42円は不正な利益誘導だ

池田 信夫

再生可能エネルギーの全量買い取り制度(FIT)を議論していた経産省の調達価格等算定委員会は、太陽光発電の買い取り価格を42円/kWhで20年間とする「委員長案」を発表した。これは最終決定ではないが、枝野経産相の了承が得られればこのまま決まる。この法外な価格は、いったいどういう根拠で決まったのだろうか。


植田和弘委員長は記者会見で「価格は一貫してヒアリングを通した費用を積算し、事業リスクを発電ごとに個別で見る考え方で決定し、諸外国との比較を行っている。高くもなく低くもなく、施行後3年間は例外的に利潤を高める、という意図を反映した価格」と述べた。これが業者の意向を反映していることは間違いないが、「諸外国との比較」ではどうだろうか。

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これは調達価格委員会の資料に書かれたドイツの買い取り価格だが、太陽光の最小規模(0~30kW)でも24.43ユーロセント(26.1円)である。イタリアやフランスもほぼ同じだ。尾崎弘之氏も指摘するように、40円以上の買い取り価格は金融危機で太陽光バブルが崩壊する前の水準である。

ドイツでは財政危機でFITへの補助が大幅に切り下げられ、全量買い取りも中止された。このため太陽光パネルも値崩れして、2011年には前年の半値になり、Qセルズやソリンドラなどのパネルメーカーが次々に倒産している。ところが孫正義氏は民主党の勉強会で、バブル崩壊前の2009年の数字を出して「ヨーロッパの平均買い取り価格は58円だ」と宣伝している。最近は「政商」として政治家をだます手口も板についてきたようだ。

特に奇妙なのは、植田委員長の「施行後3年間は例外的に利潤を高める」という言葉である。特定の業者への利益誘導で産業振興を行なうのは、一昔前のターゲティング政策の手法だ。こうした政策がことごとく失敗してきた歴史に、経産省は学んでいないのだろうか。

追記:調達価格委員会の資料によると、ドイツのFITによる一般家庭の負担(2011年)は14.7ドル/月で、孫氏の「最初だけ月500円」という話も嘘である。