財政再建の必要性とセイフティネットの維持について

2012年05月01日 12:30

私事ではあるが、私の母は介護認定を受けている。 先日、ケアマネージャーの勧めもあり、足腰が弱った母のために、家の玄関にステップを設置した。 

このステップの価格は18000円程度、設置費用は5000円で、約23000円の出費だが、その9割は、後に払い戻される。 

さて、持ってきたステップを見ると、ホームセンターでは5000円もしないと思われるもので、設置も簡単なL字金具をねじ止めする10分程度の作業だけなので、5000円も払う必要はないように思われた。  このように、介護事業は、非効率であり、生産性は低い。もっと効率化したらどうだろう? 


セイフティネットには金が掛かる

しかし、良く知られるように、介護業界は人材難である。なぜなら、暮らしてゆけないほどの低賃金だからである。私の知るケアマネージャーの方も、「仕事は選ばなければいくらでもありますよ」と言う。 

効率化を図れば、事業自体が成り立たなくなる可能性があるだろう。そして、その結果、介護事業自体がなくなれば、大きな社会的な損失が発生する。 例えば、働ける人が、介護を必要とする親族のために働けなくなる、といったことである。 これは部分最適化が全体最適化にならない典型例である。

このように一見、非効率に見える歳出でも削減しようとすれば、その裏には多くの人の生活があり、削減は簡単ではない。    
  
感情的な増税反対意見

今、財政危機から、消費税増税が議論されている。 しかし、これには国民の間で多くの反対意見がある。 私も、財政再建には関心があり、アゴラにも、財政再建について寄稿しているが、コメント欄には(特にブロゴスに転載されたものには)増税反対のコメント(しかも罵詈雑言が多い)が並び、その多くは、「税金を上げる位だったら、政府は税収の範囲でやれ」といった感情的なものである。 

こういった増税への反対意見を述べている人たちにとって、歳出削減というと、不当な利益を得ている役人の給料を減らす、といったことのようだが、現実は違う。財政再建には23兆円以上の財政改善が必要で、これは、国債費を除いた国家予算の3分の1に当たる。 私も公営バスの運転手と、私営バスの運転手の格差是正といったことには賛成だが、いくら無駄を削っても兆という単位の金額を絞り出すのは至難の業だ。  

だから実際に増税幅を小さくして財政再建しようとすれば、社会保障も大きく削らなくては、ならない。介護事業は殆ど成り立たなくなり、大量の失業者を生むことになるかもしれない。健康保険の自己負担はずっと大きくなり、殆どの病気は自己負担10割になるかもしれない。 病気なのに病院に行けない人が沢山出るかもしれない。 こういった歳出削減には、増税に反対していた人たちも怨嗟の声を上げるだろう、「こんなことは頼んでいない」と。

財政再建はなぜ必要か

そもそも何故、財政再建は必要なのだろうか。 今の財政の状況は、簡単に言えば、政府が国民の金融資産を国債や地方債を発行して借り上げて使ってしまい、それを本当に返せるのかが怪しくなってきたという状況である(その原資は税金しかない!)。

よく、高齢者の貯蓄を消費に回せば景気が良くなる、ということを言う人がいるが、
実際には高齢者の貯蓄は、かなりの部分、金融機関を通して、政府が借りてしまっており、高齢者が大々的に貯蓄を取り崩せば、実際には金がないことが顕在化する。 つまり財政破綻が起きるのである。 あると思っている金(もしくはその確たる裏付け)がないというのが、現状である。

深刻なのは、今後、日本経済が発展しようにも、政府が赤字の穴埋めのために巨額の借金をしているために、企業が投資に回す資金が足りなくなるということが起き得ることで、原発停止による燃料費の増加もあり、経常収支の黒字が縮小している現在の状況では、益々その可能性は大きくなっている。   実際、政府債務が大きいと経済成長が阻害されるという論文がある:「高債務の先進国、成長大幅鈍化も」  

財政再建は、日本経済の発展のために、どうしても必要であるし、財政破綻が起きれば、そのダメージは計り知れない(ギリシアと違い、これほどの経済規模の国の財政破綻を助けてくれる国はいないだろう)。 

財政再建とは何か

短期的に見ると、今の我々の生活は、将来世代への負担の先送りをして、今の水準なのである。 だから、財政再建をするということは、将来世代への負担の先送りを止めた分だけ、生活水準が下がるということだ。  

      生活水準の低下分 = 税負担増 + 受益者負担増

なのである。大雑把に言って、国民一人当たり年間20万円以上の負担増をしなくてはならない。 これをどう切り分けるのか、我々は決めなくてはならない(これは財政破綻が起きてもほとんど同じである)。 

この金額は巨大に見えるかも知れないが、国民負担率(税と社会保障負担の所得に対する割合)で見ると、世界的に見て、日本は小さい。実際、フランスが60%台、ドイツが50%台なのに、日本は40%強しかない。
238

(財務省ホームページから、23年度)

 高齢化の進む日本の国民負担率がこれほど小さいので、財政危機だといえる。

といった外国人の見方は当然のことだ。 

社会的弱者を包摂するためには、税負担増を大きくすればよいし、自己責任社会にするというのなら、受益者負担を増やせばよい。 問題の本質は、財政再建するかどうか、どのくらいの負担をするかではなく、大きさの決まっている負担を、どのように税負担増と受益者負担増に切り分けるかだけである。

問題は歳出削減と増税のバランス

とはいえ、税負担と受益者負担の配分は、そんなに自由ではない。医療制度や介護事業を破壊しても良いということにはならないし、税負担にも限界がある。 上に述べたように、セイフティーネットを破壊しないように注意をしつつ、有益な議論がなされることを願って止まない。

追伸 松本徹三氏のツイートを無断で引用させて頂きました。 もし不都合があればお申し出ください。 

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