フランス大統領選が示唆する日本の進路

2012年05月03日 23:43

今年の3月に共同研究のためフランスに2週間ほど出張した。 フランスは大統領選挙の真っ最中で、いたるところに選挙ポスターが貼られ、テレビでは、毎日、サルコジとオランドの動向を放送していた。 

興味深かったのは、パリ第7大学に貼られたサルコジ大統領のポスターは、悉く引きちぎられていた一方、オランド候補のポスターは無傷だったことだった。 サルコジは学生から嫌われているのだ。 実際、先ごろ行われた投票でもサルコジがオランドに水を空けられ、近々行われる決選投票でも、恐らくサルコジは再選されないだろうという予測が圧倒的だ。 これは何故だろうか?

ここでは、ヨーロッパ各国のグローバル化への対応を通して、日本の進むべき道について考えてみたい。  


経済成長と格差拡大のトレードオフ

サルコジが批判されているのは、いろいろな理由はあるが、彼の志向する新自由主義的経済政策への批判だろう。 サルコジの政策は、「もっと働き、もっと稼ごう」というスローガンからも分かるように、新自由主義的なものだ。 簡単に言えば「寛容すぎる社会保障がフランス経済の足枷になっている」というのがサルコジの主張であり、それが、金持ち優遇と批判されているのだ。

こういった新自由主義への批判は、移民の排斥を主張する極右政党のルペン候補が大きく票を伸ばしたことにも表れており、サルコジは決選投票に向けて、こういった国民の声に配慮して、移民の規制を打ち出さざるを得なくなっている。

しかし、サルコジの政策は、少し以前にドイツであった構造改革に端を発したものである。  

2005年ドイツのシュレーダー首相は、600万人にも達した失業者を減少させることを政策の第一目標にし、、このために、労働コストを減らすために、社会保障サービスを大幅に削減する改革に踏み切った。 企業が雇用を増やすように仕向けるためである。 

年金の支給開始を65歳から67歳に引き上げ、物価スライドもなくした。 さらに、年金を支える人口の減少に合わせて、年金額の伸びを抑制するシステムを導入した。

失業保険も、生活保護と同じ水準とした。 日本円で3-4万円ほどである(他に家賃補助も出る。 ドイツ製造業の平均時給は約20ユーロ、約2000円である)。

しかし、こういった政策のために、失業は減少したが、非正規雇用が拡大し(ドイツは解雇規制が厳しく、労働組合が強い)、格差が広がった。実際、2008年の時点で、未成年のおよそ6人に1人は親と同時に生活保護を受けている(ドイツではHarz IVという制度で子供も親と同時に生活保護を受けられる)。 ドイツにおける格差拡大については「ドイツにおける貧困の現状と対策の課題」に詳しい。

実はサルコジが新自由主義的な政策を志向するのには、上のシュレーダー改革で「ドイツの労働コストが下がったのにフランスの労働コストは逆に上昇している」  という正当な理由があるのだ。

現在、ユーロ安で潤うドイツ経済ではあるが、その蔭で格差の拡大、貧困層の拡大という代償を払っている。

グローバル化の影響

このような社会保障の削減、規制緩和といった小さな政府を志向する政策が英独仏で行われたかというと、これは、簡単に言えば、グローバル化のためである(イギリスも同様の改革を行っている)。

ベルリンの壁の崩壊、ユーロの導入などによって、グローバル化が加速し、ヨーロッパ域内での賃金の平準化圧力が高まり、東欧の安い労働力の出現により、西欧諸国で産業の空洞化が起こり、失業率が高まったために、必然的に起こったと考えるのが正しいだろう。

つまり、これは社会をこうしたいといった意図的な変化というより、経済環境の変化により今までの社会システムが維持できなくなったために起こった変化と見るべきだ。 

その結果、失業は減ったものの非正規雇用が拡大し、格差が拡大したことは事実である。
実際、私個人の実感として90年代初めと現在のドイツを比べると、現在はかなり社会が疲弊しているのを感じる。 しかも、これはギリシア危機以前からの印象である。 一言で言えば、社会に余裕がないのだ。街にはホームレスが目立ち、移民が増え。ドイツのタクシードライバーはほとんどがトルコ人である。 多くの人の収入が減少し、国内に職がないため、ドイツ人が海外に出ることも確実に増加している。 大学の図書館の書架には空きが目立つようになった。

フランスを見ても、かつてのフランス映画全盛の時代の作品を見れば、当時のフランス社会と今日のフランス社会の違いは、誰の目にも明らかだろう。 能天気に夏のバカンスを楽しむ余裕はなくなっている。    
 
経済成長のためには、海外の安い労働力に対抗するために、社会保障を削減し、労働コストを下げることが必要だが、その反面、労働が二極化し、格差が拡大し、民衆の不満は高まる。かつてのようなヨーロッパの手厚い社会保障システムは姿を消しつつある。 

以上の西欧の政治経済情勢は、東欧を、中国などの東アジアの国々に置き換えて、日本にも、そっくりそのまま当てはまる。 小泉構造改革もドイツのシュレーダー政権の改革と重なる。、

日本の課題

以上の観察から、これからの日本の課題を読んでみよう。 上で見た
 
   社会保障の削減 ⇔  経済成長の拡大

というトレードオフの関係は

   格差拡大 ⇒  失業の減少

という関係に読み替えられる。 現在の日本は、非正規雇用は拡大しているが、ドイツのような大きな社会保障の削減は行われていない。 これは、政府が財政赤字を拡大して、社会保障の削減を先送りしていたからである。しかし、財政赤字の問題は最早、一刻の猶予も許されない状態にまで追い込まれている。

理想をいえば、社会保障の拡充も経済成長も同時に達成できればよいのだが、現状では全く不可能な話だ。 国民全体が、納得するような政策というのは、資源やエネルギー、食糧の有限性から、世界経済のパイが大きくならない現状では存在しない。 格差の拡大もある程度は受け入れなければならないだろう。

経済がグローバル化している現状では、我々は、労働コストの低下、格差の拡大という痛みを受け入れつつ、社会保障を削減し、財政再建をし、グローバル化に対応せざるを得ない。 政治の役割は、社会保障の削減と税負担のバランスを取りつつ財政再建をし、経済成長の下地を作ることである。 

追伸 フランスにおける移民排斥を訴える極右勢力の躍進やドイツにおける社会主義政党の躍進、ネオナチズムの台頭は、社会の不満を体現したものと言えるだろう。 日本で、反グローバリズムを標榜する中野剛志「TPP亡国論」のような本が売れていることも同じ文脈で捉えることができる。 しかし、日本だけグローバル化に背を向ければ、破滅しかないことは明らかだ。 

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