日本の上場企業経営者へ贈る5つの言葉 --- 小松原 周

アゴラ編集部

資本市場に係る仕事をしている筆者のような者でなくとも、日本経済に閉塞感を感じている人は、今や多数派であると思われる。海外から日本のニュースや政治家の発言を見ていると、日本の現状及び未来に対して悲観的な言葉は数多く聞かれるけれども、それは未来を良くするために行う現状認識でも、危機感を共有することでの奮起でもなく、時に諦めや破滅願望的なトーンにさえ聞こえる時もある。


先日、アメリカ人の同業者へこのような話をすると、それが株価の上がらない最大の理由だと彼は答えた。一番悲観的になっているのは、私たち自身であることが、彼らからすると何とも不思議に映るのであろう。確かに、奥ゆかしく繊細な日本人は、出来ていないことを出来ていると言う程の厚かましさを持ち合わせていないが、出来ていることまで出来ていないと言う必要もまったくない。

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図は日本経済への世界の評価がどのようなものであるかを見るために、東証平均株価(TOPIX)の推移をドル建てに再計算して見たものである。ドル建てにするのは、日本株の最大の取引主体である外国人投資家の視点で株価を見るためである。

確かに、リーマンショック後の日本株のパフォーマンスはS&P500と比べると大きく見劣りするが、その大部分は、もう一方の図にあるように、日米のGDP成長率差が反映されていると考えることが出来る。

しかし、別の言い方をすれば、2004年からリーマンショックまでを見た場合、日本株と米国株は実質的に同等の評価を得ており、GDP成長率も米国とそれ程大きな差があった訳ではない。震災などの不幸に見舞われたことを割り引いて考えれば、失われた20年と自分達で切って捨ててしまう程、世界の投資家は日本を低く評価してきた訳ではない。

この数年は、特に日本の政治の主体性のなさが露呈されることとなった。未曾有の危機の発生後、米国とFEDは極めて大胆で、ある意味で自己中心的な救済策を取ったが、一方で日本の政策はいつも後手に回っていたため、結局そのシワ寄せを受け止める役目を負わされた。

トヨタのリコール問題が発生した時、米国政府はGMやフォードを助けるために、豊田社長を米国公聴会で詰問するショーを展開したが、日本政府がトヨタの援護に回ることはなかった。日本の企業は寒風吹き荒び、援軍の見込みもない環境の中、それでもよく耐えてきたと言えるのではないだろうか。

日本企業は米国企業と比べて、製品もサービスもクオリティーで劣っているとは思わないし、先人たちが築いてきた日本ブランドは未だ健在である。投資家として、筆者は日本と米国の数多くの企業を見てきたが、経営のプロである日本の企業経営者へ進言できることなどあまりないかもしれない。ただ、投資家の視点から、見せ方をもう少し工夫するだけで随分と評価のされかたが変わるのではないだろうかと思うことがあるので、ここに述べさせて頂きたい。

1)決算説明会や投資家向け説明会を日本語だけではなく、英語でプレゼンをする機会を設けて下さい。日本株の最大の顧客は外国人投資家です。英語で伝えるホスピタリティーを持って下さい。

2)企業戦略にフォーカスして話して下さい。日本のアナリストは重箱の隅を突付くような質問ばかりしてきますが、これに対応する必要はありません。むしろ何をドライバーに企業収益を増加させていくのか、その道筋をハッキリと示して下さい。

3)将来の夢を、ご自分の言葉で熱く語って下さい。社長のリーダーシップと思いが伝わらない会社に投資しようとは思いません。投資家は将来、どのように会社が変わるのかにベットしているのです。例え英語が下手でも、まったく気にしません。

4)数字でコミットして下さい。達成すべき定量的な数字を示して下さい。そしてそれが達成出来なければ、辞すると投資家の前で明言して下さい。経営者がリスクを負っていない会社に、リスクマネーを投じることは出来ません。

5)買収防衛策は入れないで下さい。あなたの会社は上場企業です。市場から資金を調達できる代わりに、常に監視され評価される立場にあるのです。経営者が投資家を選ぶなど、あってはならないことです。

投資家として冷静な目で見て、過少評価されている日本企業はたくさんある。より良い明日のために貢献できる技術やサービスを持つ企業が正しく評価されていないことは、社会全体にとっても大きな機会損失である。「私達はここにいるぞ!!」と、思いの丈を叫んで、もう一度世界の投資家を振り向かせて欲しい。切にそう願っています。

小松原 周(あまね)
アナリスト/ファンドマネージャー