藤井聡京都大学教授の列島強靭化計画について

2012年05月06日 18:00

生活保護削減、防災に200兆円集中投資 自民次期衆院選マニフェスト概要判明

2012.4.6 01:14 (産経新聞)

 自民党が9日に発表する次期衆院選マニフェスト(政権公約)の概要が5日、分かった。デフレからの早期脱却を目指してインフレ目標を2%に設定、大規模災害に備えた社会資本整備に200兆円を投入するなど「経済や災害に強い自民党」を打ち出した。生活保護の見直しも盛り込み、民主党政権のばらまき体質との違いも鮮明にする。

 デフレ脱却策としては、政府と日銀の政策協定により、欧米並みの2%のインフレ目標を導入。実質成長率3%、名目成長率4%を「巡航速度」とし、大胆な金融緩和措置を実行する。大規模な法人税減税や投資額に応じた損金算入を認める投資減税も盛り込む。

 また、東日本大震災発生を受けて災害に強い国土や社会をつくる「国土強靱(きょうじん)化基本法」(仮称)の制定を明記。平成24年から10年間を重点投資期間と位置づけ、特別国債を発行して道路、港湾、上下水道、通信といったインフラ整備に200兆円規模の集中投資を実施する。

 職業訓練や自立支援プログラムを充実させることにより生活保護からの脱却も促進。自民党が綱領に掲げる「自助」を基本として、「もらい過ぎ」が指摘される生活保護の給付水準を引き下げて所得の低い就労者との所得水準の不均衡を是正する。

 9日の全国政調会長会議で発表後、都道府県連などの意見も取り入れて、最終案を取りまとめる。

というニュースがひと月ほど前にありました。 


このマニフェスト原案を見ると、藤井聡、京都大学工学部教授の「東日本復活5年計画、列島強靭化10年計画」 に沿ったものになっています。 藤井教授は、国会に招致され、発言されるなど、一定の影響力を持つ人物のようです。  

この計画の骨子は、要するに日銀と政府のアコードにより、巨額の資金を捻出して、全国で防災のための公共事業を大々的に行おう、というものです。 特に注目される部分を抜き出すと: 

「東日本復活5年計画」の円滑な遂行を、著しく阻害する要因がいくつか
考えられる。その中でもとりわけ重要なものとして、

① 「増税」
② 「TPP」等の過度な自由貿易の推進

以上の「東日本復活5年計画」の財源確保のために、以下の3つの対策を行う。

①日本銀行との協調(アコード)を前提とした「震災復興国債」の発行による資金調達。
②「所得移転」(子ども手当・高速道路無料化等)のための財政支出からの転換による資金調達。
③「被災地への所得移転」のための特別税制(寄付金税額控除、および、被災地特別減税)

とあり、懸念される長期金利の上昇については、 

ただし、数年に渡る大量の震災国債の発行によって、その供給量が需要量を超過するケースも考えられる。その場合、長期金利が上昇していく(つまり、国債の価格が低下していく)状況も想定されるため、金融市場における需要を支えるために、日本銀行の積極的な国債の買いオペレーション(市場に既に出回っている国債の購入)を同時に行う事が必要である。つまり、政府と日本銀行が十分に協調(アコード)しながら、国債を発行していく体制をとることが不可欠である)。

となっています。

藤井教授自身、本も出版され、メディアに登場し、持論を展開されているようです。 

さて、私は、この藤井教授の提案は、実際に実行すれば、日本を破滅させる危険なものだと思います。 

上のビデオをご覧になれば、お分かりのように、藤井教授の発想は、「需要が足りなければ、政府が埋めればいい」、「そのために資金が足りなければ、日銀にファイナンスさせればよい」という単純なものです。 このような考えをされるのは、藤井教授が、政府は国民とは別に存在する第三者であるという根本的な誤りをおかしているからでしょう。  

つまり、「需要が足りなければ、政府が埋めればよい」という表現は誤りで、「需要が足りなければ、国民全体で金を出し合って需要を埋めよう」というのが正しい表現であり、このような考え方が持続的な経済成長につながらないことは、経済学を持ち出すまでもなく、中学生レベルの常識で分かることです。 

また、日銀による財政ファイナンス(財政法第5条で禁止されている)が、上手くゆくはずがないことは、このオペレーションが何らの富も生み出していないことからも、また、もう少し詳しくは、東大経済学部の岩本康志教授の「国債の日銀引き受けについて」  をご覧になれば明らかでしょう(引き受けと買いオペの増額とは等価です)。 フリーランチはないのです。 

失礼ですが、藤井聡教授の「東日本復興5年計画、列島強靭化10年計画」は荒唐無稽なものである、と言わざるを得ません。  

現状の日本経済を直視しよう

現在の日本経済を取り巻く状況は、非常に厳しいものがあります。 国際競争力を失いつつある製造業、GDPの2倍を超える政府債務、急速な高齢化、どれも、一朝一夕に解決できるような課題ではありません。 

今、必要なのは、「国民の意識改革」 であり、長期にわたる改革が必要です。 

上に取り上げた、藤井聡教授の提案されている財政拡張による経済発展、あるいは同じ研究室の、中野剛志准教授の「TPP亡国論」に見られるような、自由貿易の推進はデフレを悪化させるといった、おかしな話(「中野剛志氏の陳腐な重商主義」 参照)が出てくるのは、社会に鬱積する不満をバックにした、ドイツ、フランスにおける移民排斥を訴える極右勢力、社会主義化を目指す極左勢力の台頭といった現象を彷彿させます。

私には、失礼ながら、藤井、中野両氏の主張は、単なる現実逃避としか受け取ることができません。 少なくとも、もう少し、国際的な視野が必要でしょう。  

日本の知性は大丈夫なのか

しかし、このような藤井教授の主張が、自由民主党のマニフェストに大幅に取り入れられているというのは、何を意味するのでしょうか。 特に、藤井聡氏は京都大学工学部の教授という立派な肩書を持ち、責任ある立場です。 次の2つのいずれかでしょう。

(1) 日本の知性の劣化が進み、一流大学の教授といえども、信用できない状態になっている。 自由民主党も知性の劣化が進んでおり、正確な判断能力を失っている。

(2) 藤井教授は、自らの提案に正当性がないことは認識しているが、土木学会などの利益を代表して発言しており、自由民主党も、おかしいことは分かっているが、支持団体の繋ぎ止めのためにマニフェストに入れようとしている。 

このどちらもということも考えられますが、藤井教授がご自身の提案を著書や、メディアで大々的に宣伝し、自民党もマニフェストに入れようとしている、ということを考えると、私には残念ながら(1)の可能性が高いような気がします。 「欧米並みの2%のインフレ目標を導入。実質成長率3%、名目成長率4%を「巡航速度」とし、大胆な金融緩和措置を実行する。」というマニフェスト原案の文言を見る限り、自民党は経済成長を政府が制御できると考えているようですが、そのような経済理論は存在しません。 藤井教授、自民党ともに荒唐無稽な主張をしていると言わざるを得ません。  

私個人としては、こういった日本の知性の劣化をまざまざと見せつけられるのは、耐えられない思いです。 自民党にももっとしっかりしてほしいと思います。 

良識をもった経済学者の方々も、知らぬふりをするのではなく、おかしなものはおかしい、と発言して頂きたいと切に思います。

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