とち狂った電力行政をどうやって正常化させるか?

山口 巌

大飯原発再稼働関連のニュースが相変わらず世の中に溢れている。この夏の電力需給が最も懸念されるのは関西電力管内であるし、「時の人」、橋下大阪市長が頻繁に批判のメッセージを発信しているので、結果、国民の耳目を集めるのは当然と言える。


しかしながら、批判を恐れず言えばこれは部分的な話に過ぎない。肝心の話は、飽く迄、とち狂った電力行政をどうやって正常化させるか?に尽きる。

偶々であるが、昨日のアゴラ記事、東京電力が家庭用電気料金を7月から平均10.28%値上するに対し、辻先生よりコメントを頂戴したので、それに対する私の応答も含め参照し、議論を進めて行きたい。

辻 元 ・ トップコメント投稿者 ・ 54歳
申し訳ないが、山口さんのこの記事には論理がない。 電気料金の値上げは高コスト体質によるものだと主張されるのなら、その証拠を示して議論しないと単なる印象論でしかない。  これでは、大衆迎合の官僚たたきにしか見えない。 

山口 巌 ・ トップコメント投稿者 ・ ファーイーストコンサルテイングファーム 代表取締役
きちんと説明しようとすると矢張り記事を書かねばならず、余りに判り切った話なので正直気が進みません。過去、官僚主導の事業で何か成功し、国民を幸せにしたものが有るでしょうか?全て大赤字で結局「税」で尻拭いをしているのでは?過去の経験則で充分と思いますが。。。

辻 元 ・ トップコメント投稿者 ・ 54歳
山口 巌さん 政府が民間の事業に手を突っ込んで上手く行った例はないし、そうするべきではない、というところまでは賛成です。 しかし、今回の値上げは燃料費の増加によるもので、認めざるを得ない。実質国有化のせいで値上げが起こったと考えるのは無理でしょう。

「政府が民間の事業に手を突っ込んで上手く行った例はないし、そうするべきではない、というところまでは賛成です。」

⇒最も重要な基本的な価値観に就いては一致している。

「実質国有化のせいで値上げが起こったと考えるのは無理でしょう。」

⇒この部分は辻先生の誤解である。私の記事を今一度読んで戴ければ一目瞭然であるが、私が指摘したのは飽く迄将来の話として、国有化に依る高コスト体質の蔓延とそれがもたらすであろう、更なる電力料金の値上げを予測したに過ぎない。別の表現をすれば、「飲酒運転」に依る事故の可能性を言ったのであって、個別、特定の事故原因を飲酒に断定した訳ではない。

「今回の値上げは燃料費の増加によるもので、認めざるを得ない。」

⇒実はこの部分が今回の記事を書くに至った動機である。非常に重要な話なので、国民の認識を揃えると共に、取るべき対応は何で?、その為に必要な国民的議論は何か?を説明する。

先ず第一に、今回の値上げは燃料費の増加によるものでは無く、福島原発近隣住民への「賠償費用」捻出の為のものの筈である。何故、こういう誤解が生じるかと言うと、政府の説明が余りに判りにくく不明瞭だからだろう。或いは、マスコミが話の中身を自分なりに咀嚼し、国民に判り易く説明する努力を放棄しているからかも知れない。

私が、昨日のアゴラ記事で参照した下記スキームを咀嚼戴ければ一目瞭然と思う。政府保証で金融機関から「賠償」に必要な融資を引出し、電力料金の値上げで返済するスキームになっている。このスキームだと、「賠償金額」は雪だるまの如く膨らみ、結果、電力料金は果てしなく値上がりすると苦言を呈しているのである。

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仮に、燃料費の増加が第一の理由であれば、少し古い資料で恐縮であるが、関西電力、四国電力、九州電力と言った、原発比率の高い電力会社が、もっと早く、大きく電力料金の値上げに動かねばならない理屈である。

原発依存率power_station_comp02

今一つ主張したいのは、「本当に電力料金の値上げを認めるしかないのか?」、「政府は電力料金値上げ回避の為、真剣に考え議論してきたのか?」と言う疑問である。

私は、電力行政「とち狂い」の出発点は、菅前首相に依る恣意的な「浜岡原発停止」にあると考えている。従って、過去何度も政府に依る検証を訴えたが、野田首相は「消費税増税に政治生命を賭す」以外の日本語は全て忘れてしまったかの如く、この件は、全く興味が無い様である。

従って、政治が当てに出来ない以上、「司法」に白黒付けて貰うしかないと考えている。

具体的には、中部電力が国を相手取って「浜岡原発停止」に依って生じた損害に対し損害賠償を行うべきと思うのである。勝訴に至るか否かは、当時の中部電力経営陣の経営判断に於ける任意性の有無と思う。

中部電力は昨日浜岡原発の全炉停止を決めた。こんな事を個人的に要請する菅首相も異常だが、了承する中部電力もどうかしている。正に破れ鍋に綴蓋と言った所だろうか?経緯を振り返れば、中部電力は真面に反論すれば菅首相を英雄にするだけではなく、自社を悪者にしてしまう、困った状況に追い込まれた訳である。今回の様に了承されて良し。拒絶されて更によし。成程、巧いトラップを中部電力に対し仕掛けたものである。流石にテレビカメラの前でむしゃむしゃ貝割れ大根を食べた位の実績しかないにも拘わらず首相に迄登りつめただけの事はある。政治的能力は皆無であるが悪知恵が呆れる程働く。

私は、終始一貫中部電力の「浜岡原発停止」を支持するものではない。しかしながら、当時の謂わばヒステリー状態とも言える世相を考慮すれば、経営陣に任意性は無かったと思う。

更に、私は当初より政府による対中部電力支援の裏約束があったと考えている。

注目されるのは来月の株主総会で中部電力がどの様な今季予算を提出するかである。政府の支援がなければ当然数千億円の赤字となる筈である。株主による株主訴訟、経営陣に対する損害賠償請求は確実である。一方、政府支援の約束を取り付けていたとすればこれは当然政府の問題となる。今後の補正予算に繰り込む必要が出て来るが国会で否認すべきである

昨日の毎日新聞、<枝野経産相>「浜岡再開の確約知らない」中部電と食い違いを読む限り、海江田前経産相の確約があったのはほぼ事実と思う。

中部電力浜岡原発(静岡県御前崎市)が運転停止した昨年5月、中部電が当時の海江田万里経済産業相から得たとされる「運転再開の確約」について、枝野幸男経産相は11日の閣議後会見で「そうした約束は聞いていない」と述べた。中部電はこの確約を浜岡再稼働の根拠の一つとしているが、経産相の発言によって事実上のほごとなりかねず、再稼働は困難さを増しそうだ。「確約」は、津波などへの安全対策が完了し、原子力安全・保安院の評価・確認を得た時は運転を再開できる--との内容。海江田経産相(当時)が直接約束した、と中部電の水野明久社長が昨年5月9日の記者会見で明らかにしていた。これに対し、当時官房長官で、昨年9月に就任した枝野経産相は11日、「(就任時に)そのような引き継ぎは受けていない。(当時の)官房長官としても そうした事実は把握していなかった」と述べた。「確約」を巡っては、現政権も拘束されるとする中部電に対し、 菅直人前首相は毎日新聞の取材で「(中部電の)ある種の希望」と話すなど、見解の相違が表面化している。

一方、中部電力の株価は震災直前に比べ、半分程度迄下落している。従って、中部電力の株主は中部電力経営陣の背中を押す意味で、経営陣を「忠実義務違反」で株主訴訟を起こすべく準備すべきである。

昨年の東北大震災は日本に取って誠に不幸な災害であったのは事実である。しかしながら、東北と言う地域限定であり、一過性の話に過ぎない。

しかるに、浜岡原発の停止と言うボタンの掛け違いから始まり、全国の原発を停止させ、遂には、東京電力の国営化と言う暴挙に至っている。何としてもこの誤った潮流にブレーキを懸ける必要がある。先ずは掛け違ったボタンを一旦全て外す必要があり、「浜岡原発」関連の訴訟が最善と考えるのである。

山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役