アメリカの高齢者用住宅協同組合 --- 中谷 孝夫

2012年05月15日 07:30

先進国のどの地域社会でも高齢化問題が極めて重要になっています。この高齢化社会の問題は、家計、医療、生活環境等の面で、色々な形で表面化しています。この高齢化社会問題の解決の一端を、ミネソタに35年住む我家の実例に即して、紹介したいと思います。


退職生活をしていると、最初に問題になるのが、毎月の生活費でしょう。資産額が膨大な家計は問題がないでしょう。

ところが平均的な家庭で、まず問題が起こるのは、個人資産の構成の問題です。退職生活を送っていると、毎月の支出で、流動資産の比率が段々低下していきます。逆に言えば、毎月の現金支払いで流動資産の割合が低下し、固定資産、特に住宅資産の割合が着実に上昇し続けるわけです。

具体的な例で説明しましょう。ある一家の主人が60歳で退職した時、預貯金等手持ちの流動資産が4000万円と現在住んでいる住宅の推定売却価格が4000万円で、資産合計が8000万円ある仮定しましょう。それ以外の予定収入は、国民年金の月6万円があるとしましょう。

仮に老後のアルバイトもなく、預貯金の金利はゼロと仮定する方が現実的でしょう。生活費は切り詰めて、年に250万円と仮定すれば、預貯金の取り崩し額は、国民年金の72万円を考慮に入れると、年に178万円、月に15万円になります。

退職生活は、時間がありすぎるので、意外とお金がかかります。この仮定では、主人公が10年経って70歳になった時点での預貯金額は、2220万円、75歳では1330万円、80歳では僅か440万円に減少していると推計されます。

現在の高齢者社会では、80歳の高齢者などは沢山いるわけです。ところが、この主人公の試算も住宅を考慮すれば、総資産は、70歳で6220万円、75歳で5330万円、80歳で4440万円になるので、何とか生活が出来るわけです。

問題は、80歳の時点での資産の構成の中で、固定資産比率が90%と極端に高くなっている点です。この問題解決の一助として「高齢者向け住宅共同組合」が考えられたわけです。もちろん、住宅を安価に提供するという目的以外に、高齢者同士が協同して、色々なプログラムを通じて、余生を楽しく過ごすという大きな生活充実目標があるわけです。

一般的には、個人が流動性比率を高める手段としては、
• 現在の持家を売却して、安い家屋やコンドーに移転する。
• 持家を売却して、賃貸の家かアパートに入る。
• Reverse mortgageと言う「住宅抵当の借入金」を確保する。
等の手段が考えられます。

通常アメリカでコンドーを購入するという場合、共同住宅という不動産を購入する場合と「協同組合」の場合のように、組合員として、協同組合の持ち分を購入する場合があります。

実は、我々の場合は、「協同組合」に参加することに決め、「7500 York Cooperative」の協同組合員の持ち分を買ったわけです。このCoopの評価は、”the most successful senior cooperative in the country with over 500 applicants for membership on the wait list” というものです。

40年ほど前に組織されたこの協同組合は、最初アメリカ政府のHUD-Housing and Urban Department, 即ち都市住宅省からの借入金で、現在の広大な所有地と大きなビルを2棟建設しました。その後の運営が成功した結果、現在ではアメリカ中だけではなく、海外からも見学に来るほど評判が良いようです。

コンドーを購入する場合、大切な要素の一つとして、修繕積立金が幾らあるかという問題があります。この協同組合は、150万ドルもの積立金があります。我々が、ここに入居するのに8年以上も待った甲斐があったわけです。

待ち時間が8年に渡る長期期間であったため、我々は、もうあのコンドーには入れないかもしれないと感じるようになっていました。

突然昨年の11月の初めに連絡があり、我々が入居を希望していたユニットに空きがあるとの知らせがありました。家から10分ほどの距離にあるそのユニットを見て、直ぐに入居の決定をしました。

ところが、アメリカの住宅市場が低迷しているため、持家の売却に時間がかかり、ここへ正式に入居したのは、今年の4月9日になってしまいました。売却した持家の価格も、住宅市場がピークであった2007年の推定価格に比べると、40%も下落してしまったわけです。

それでも、入居費用や一軒家維持の困難を考えると、採算的には、この移転は極めて有利なものでした。ここはミネアポリス郊外の西南に位置するベッドタウンのEdinaと呼ばれる人口5万人程度の市です。その他、隣接するEden PrairieやChanhassenは、CNNの投票で”The Best Place to Live in America” に選ばれたことがある好環境の地域です。

この協同組合は、40年前に建設した2棟のビル内に337室があるので、全体の発行組合持株数は337株ということになります。即ち、各入居者は協同組合の持分を1株づつ所有しているわけです。

ユニットは、原則的に1ベッドルーム、2ベッドルーム、3ベッドルームの3種類があります。我々が希望していた3ベッドルームは、全体で18ユニットしかなく、年平均2ユニットしか回転がありません。その結果、待機期間が平均10年にもなるわけです。このような状態なので、入居した後、入居者の皆さんから大変羨ましがられたわけです。

会員権の価格は、今年の年頭時点で、3部屋が7万8千ドル、2部屋が6万ドル、1部屋が4万5千ドルと、極めて買い易い値段に設定されています。会員権は、自動的に毎年2%ぐらいの率で上昇します。

仮に会員が死亡した場合など、会員権は組合から自動的に資産受取人に支払われるので、現金化は極めて簡単です。この水準の会員権価格だと、売却した家屋の何分の一ぐらいで済むわけです。毎月の家賃は、3部屋で1950ドル、2部屋1400ドルでドル、1部屋で1050ドル程度ですので、持家を売却すれば、手元資金に十分余裕が出来るわけです。参加希望者の要件は、年間所得が3部屋は最低5万8千ドル以上、2部屋は4万8千ドル、1部屋は3万ドル以上、また犯罪歴がないことです。

新しい転居者が決まると、カーペットを新しいものに取り換え、壁を入居者の嗜好に合うような色に塗り替えてくれます。普通入居者は、台所の床を張替えたり、調理台を新調します。台所の改造費は入居者負担です。このように入居にあたって、色々改造をするので、40年経った部屋でも極めて快適になります。

待機時間は、1部屋だと2か月ぐらいで入居が可能なようです。個人的に話した入居者の前歴は、典型的なアメリカの中間階級で、ツインシティーの著名な会社、General Mills, Honeywell, American Express等で働いていたエンジニァー、弁護士、財務担当者、牧師等といったところです。

偶然にも、我々の入居時期に、僕のかつての同僚が、奥さんを亡くしたので1部屋に移転してきたので、友人も出来たわけです。土地柄、入居者は北欧系やドイツ系のアメリカ人が多く、マイノリティーは我々だけです。

協同組合制度なので、アメリカ人と同程度の会話力が不可欠な点は、明白でしょう。ロビーや廊下に出ると、多くの人々に話しかけられるので、孤立して生活をする危険は全くないような状態です。設備は、集会場、図書館、運動機械室、レストラン、サロン、コンビニ、訪問客室など完備していて、ホテルのような感じです。従業員も多く、問題があれば、直ぐに駆けつけてくれます。従って、特別の問題があれば、その部分は個人負担です。

ここは協同組合なので、旅行、音楽会、ビンゴー等の催しものを通じて、たくさんの人々と知り合いになれます。会員は、お互いに極めてフレンドリーな態度です。協同組合の運営は、9人制のBoard of Directors、即ち運営委員会と9つの個別委員会で運営されています。

この協同組合の形態を日本でも、もっと活用して土地利用の効率化、耐震対策、高齢者の活動的な余生の過ごし方などの観点から、一考の価値があると思います。特に、低金利の時代にある日本にとって、このプロジェクトを実行する余地は十分にあると思います。

協同組合のウェッブ・サイト

2012年5月13日 ミネアポリス市にて
中谷 孝夫(なかたに たかお)
View from Lake Minnetonka ミネトンカ湖畔からの日本観察記
在米45年の元ウォール街の証券アナリスト
著書「アメリカ発21世紀の信用恐慌」2009年刊行

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