アコーディアゴルフの乱(その1─株主優待と利益供与) --- 山口 利昭

2012年05月16日 11:32

企業コンプライアンス・内部統制・ガバナンスに関連する事件として、最近注目されているのがアコーディアゴルフの乱であります。当初、東証一部のアコーディア社の内紛かと思われていた事件が、実は(この内紛は)別のゴルフ場運営会社による買収(事業統合)に絡むストーリーの一環である、との話が浮上してきました(週刊東洋経済における金融ジャーナリスト伊藤歩氏の記事が参考になります)。しかも、その渦中に法曹界の大物の皆様方が役員候補、リーガルアドバイザーとして多数登場されることも重なり、内容が興味深くなるにしたがって、到底私のような一介の法律家がコメントできるような「かわいい事件」とは言えなくなってまいりました。


アコーディアの現経営者に対立する大株主オリンピア社は、アコーディアゴルフを変えよう、をモットーに「アコーディア・ゴルフ株主委員会」を設立し、HPを立ち上げ、会社側からのリリースに対抗するリリースを毎日のように発信しておられます。私の周辺では、どうもオリンピア側に賛同される方が多く、アコーディアの現経営陣に好意的な見方をされる方が少ないのが現状です。もうアコーディア現経営陣側としては、出すものは全部出しちゃったのでは?といった感想を漏らす方もいらっしゃいます。

オリンピア側に有利な見方をされる方々には申し訳ないのですが、そのような見方に同調してしまっては、このブログのおもしろさは全くありません。ここはむしろアコーディアの現経営者側にとって有利な事情を探ってみたいと思います。

ところで、オリンピア側(株主委員会)が5月15日付けにてアコーディア社取締役指名委員会宛てに送付した書簡によりますと、オリンピア側としては、アコーディア経営陣側が4月下旬に突如、株主優待制度を公表したことを問題視しておられます。この時期の株主優待券の配布行為は、会社法120条1項によって禁止されている「株主への利益供与」に該当するものであり、刑事罰にも匹敵するコンプライアンス違反である、とのこと。6月の定時株主総会に向けて、大株主から株主提案権が行使された直後に、会社側が株主優待制度(3000円相当のゴルフ施設利用券)を公表したのは、現経営陣にとって株主総会を有利に進めることを目的としたものであり、平成19年のモリテックス事件判決の趣旨からみても会社法が禁じている株主への利益供与に該当する、といった内容です。

本件につきましては、最終的にはプロキシーファイト(委任状争奪戦)による力関係で決着がつくものだとは思いますが、なるほど、会社側の株主優待制度に関するリリースを読みますと、保有株式に応じて株主優待券を交付しますとあり、この時期に優待内容を決定したとなりますと、アコーディア・ゴルフ株主委員会のおっしゃるとおり、かなり問題があるようにも思えます。

ただ会社法120条1項は「株式会社は、何人に対しても、株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与をしてはならない」と定めるものであり、たとえば議決権行使にあたり財産上の利益を供与した場合にはこれに該当することはモリテックス事件で東京地裁が述べたとおりです。しかし今回は、すべての株主に対して、しかも保有株式数に応じて優待券を配布する、というものですから、「議決権を行使する株主」といった特定株主を対象としたものではありません。したがって、これを120条1項の「株主の権利の行使に関し」と言えるかどうかは微妙です。モリテックス事件判決では、とくに会社側、株主側どちらの提案に賛成するかは関係なく、会社の現経営陣側が議決権を行使することを条件に500円相当のクオカードを贈呈することが「利益供与」と認定されました。そこでは「株主の権利の行使に関し」という文言の解釈は特に問題にはならず、原則として「利益供与」に該当するものの、例外的に「利益供与」に該当しない「正当理由」があるかどうかが詳細に検討されています。アコーディアの事案では、そもそも「株主の権利の行使に関し」といえるかどうかが問題となるものですから、モリテックス事件が参考となる事案といえるのかどうかは微妙です。

次に、この会社法120条は会社に対する禁止行為とともに、利益供与が行われた際の関係者間の民事上の権利義務関係を規整したものですが、同法970条では、株主への利益供与に関与した者に対する刑事罰が設けられている、ということをどう考えるのか、という問題です。120条の文言を緩やかに解釈してよいか、という点です。会社法970条では利益を供与した者だけではなく、(情を知っていながら)利益を享受した者に対しても刑事罰が課されています。刑事罰が課されるわけですから、「株主の権利行使に関し」なる条文の解釈にも罪刑法定主義による明確性が求められます。さらに970条では、特定の利益享受者が処罰対象者として予定されていることも重要です。もちろん民事と刑事では条文の解釈を異にしても理屈の上では問題ないかもしれません。しかし、120条と970条の文言を別々に解釈する、というのはいかにも美しくありません。モリテックス事件判決が、「原則として利益供与に該当する」としながら、「例外的な場合」として利益供与に該当しない特別な事情を慎重に検討したのも、こういった970条と120条1項との関係があるため、と解されます。970条が存在する以上は、120条1項の「株主の権利の行使に関し」なる条文も、文言に忠実に厳格に解釈するほうが妥当なのではないかと思います。

最後に、アコーディアの一般株主に対して、現経営陣の上程議案に賛成してもらうことを目的とした「人気取り」のための施策ではないかとの疑問が生じます。そもそも会社法120条1項が「株主への利益供与」を禁じている趣旨は、(昔は総会屋対策と言われていましたが)会社運営の公正性、廉潔性を維持するためと言われています。大株主と現経営陣が対立する構図にある状況で、来るべき総会で(一般株主の方々に)現経営陣の味方になってもらおうといった目的で会社資産をばらまいたのであれば、会社運営の公正性・廉潔性といった視点からは問題かと思われます。しかし、アコーディア現経営陣側からのリリースによりますと、従来からも株主優待制度は採用していたのであり、昨年は震災直後ということもあり差し控えていたとのことです。また(これはそれほど説得的ではありませんが)次年度以降も同様の優待制度を続ける、と公表しています。つまり、こういった株主優待制度が特別に実施されたものではなく、長期保有のために株主へのサービスの一環として行われていたのであれば、単なる人気取りのために行ったとは言えないのではないでしょうか。

ほかにも監査役選任に関する問題点や従業員からの賛同の意思表明に関する問題など、この事件には興味深い論点が「てんこもり」ですが、明日は(明後日かもしれませんが)「その2」としまして、社外取締役さん方に焦点を当ててみたいと思います。アコーディアゴルフ社の社外取締役の方々が、この騒動の中で前半戦の主役を演じているわけですが、社外取締役は果たして自社の不正調査を公正に行えるのか、第三者委員会に任せるべきではないのか、といった論点に踏み込んでいきたいと思っております。


編集部より:この記事は「ビジネス法務の部屋 since 2005」2012年5月16日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった山口利昭氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はビジネス法務の部屋 since 2005をご覧ください。

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