オンラインギャンブリングの問題は世界から日本も近く巻き込まれる

新 清士

国内の風営法の問題については、本日(23日)の日経新聞電子版の連載に書いているので、その周辺の事象として海外のソーシャルゲーム(ソシャゲ)とオンラインカジノの関係性を個人的な意見として改めてまとめておく。

■いい加減、ソシャゲの監督官庁の曖昧さはどうにかすべきだ


今回のコンプガチャ問題の解決を真面目に指摘しておくと、監督官庁の不明瞭さが続く限り、どこからでも規制という攻撃は来ることは今後も避けられない。ソシャゲが消費者庁が監督官庁になることはあり得ず(消費者保護のための省庁だから)、総務省、経産省、国家公安委員会(警察庁)のどこかの管轄になる。今までが曖昧なまま来すぎてしまった。

すでに、総務省系のスマートフォンのフィルタリングのEMA(モバイルコンテンツ審査・運用監視機構)の審査をグリーが受けていることをプレスリリースで出しているが、その効果には私は疑問を持つ。コンプガチャ問題については無力だった。また今後も厳しいだろう。携帯電話だけがソシャゲではないからだ。そして、では防止策というと、結局、審査を厳しくするという方向にしか働かない。

この曖昧な状態が継続される限り、いつでも、規制の領域が、社会的な批判を通じて、拡大される可能性は残る。それに対応するためには、6社連絡会なのか、家庭用ゲーム機の業界団体のCESAや、独立系のオンラインゲーム業界団体のJOGA(日本オンラインゲーム協会)なのか、もしくは、独自のソシャゲの業界団体を作り、明瞭に特定の監督官庁を持つしかない。監督官庁として、ベストなのは、規制よりも産業を育成する方向の存在である経産省が望ましい。

■発展途上国にも拡大するであろうRMTとギャンブル問題

日本の情報通信政策は曖昧であり、この状態が続くことは、数年以内に国境を越えて否応なく入り込んでくるオンラインギャンブルなどの問題に日本の行政は対応できなくなる。アイテムを換金できるRMT(リアルマネートレード)問題とオンラインギャンブルは表裏一体の面を持ち、今後さらに接近してくるだろう。ただ、間違って頂きたくないのは、それは私自身がギャンブルを解禁すべきと思っていることを意味してない。既存のゲームが好きな人間には、違和感があるだろう。

ただ、否応なく将来的に巻き込まれるということを指摘しておきたいのだ。RMT問題やオンギャンギャンブリングは、韓国で大問題になり、禁止ということで決着が付いている。しかし、ソシャゲの参入コストが低下しつつあり、発展途上国を含め広がると言うことは、同じ問題が生まれるということだ。それぞれの地域の国内法で取り締まれるのかはまだわからない。世界が、インターネットと、ソーシャルゲームに飲み込まれるということは、こうした「地下経済」を基盤とする、「反社会的な勢力」も入ってきやすい環境も整うと言うことだ。

■米企業はオンラインカジノのディファクトスタンダードを狙う

今回、シンガポールで開催されている、Casual Connect Asiaに参加していても、「オンラインギャンブリング」が次の時代の大きなチャンスだと、主張している米M&Aの企業の人がいたことや、インドネシアでもオンラインギャンブリングの地下経済の成立が示唆されたことには強い印象を受けた。これらは、ギャンブル性を完全に排除するような社会を作ることの難しさを強く感じさせるモノだった。

私はギャンブルを一切やらないので、ギャンブル好きの人の感覚はまったく理解できないのだが、それらを完全否定するような完全な無菌状態の世界はできないのだという現実には、戸惑っている。

一方で、アメリカの企業は、将来的にオンラインギャンブリングの分野で、世界的なディファクトを取ることを念頭に置いている。また、中国もマカオを中心にこの分野に関心を持ち始めている。行政当局が規制を緩める可能性は高い。それが社会的に健全であるかどうかは、議論が分かれるだろうが、税収増加のためには必要悪と見なされていることは忘れてはならない。要するに極端にいうと、制度を整え、全世界からお金を払ってくれる人を集約化したいのだろう。

■日本でも今後数年で巻き込まれるオンラインカジノ問題

これは、日本の特に既存のゲーム業界の人にとっては、あまりに違和感のある議論で、ピンと来にくい方も多いと思う。直感的に嫌悪が先行する人も多いだろう。私自身もこの問題を調べるまではそうだった。だが、ソシャゲとオンラインカジノの問題は、今後数年で、必ず急接近していくのは間違いないだろう。それが望む望まないに関わらず、カジノへのニーズがある限り、なくなることはない。そのため、日本国外の動きが日本に影響を与え始める。ゲーム内の換金性を求めることを、日本ローカルで、完全に撲滅することはできないだろう。

そのためには、日本国内の論点整理を進めて、どう対応するべきかを今から用意しておく必要がある。監督官庁を業界として早期に定め、こうした問題に対して、議論する用意をしていく場が必要になってくるだろう。

総務省、警察庁、消費者庁は、規制という方向で、基本的に思考をする。産業の発展を志向するのは、経産省であり、こうしたところと、議論を積み重ねた方が良い。JOGAは、監督官庁を持たないで、各省庁とできるだけほどほどの距離を置き、独立性を保つというスタンスを取ってきたが、多分状況はそういうことを許さないところにまで問題が拡大するのは、2~3年も掛からないように思う。風営法を管理する国家公安委員会が、オンラインカジノに対して、より踏み込んだ判断を行うような時期もすぐに来るだろう。

■国内のソーシャルゲーム各社が殴り合いをしている場合ではない

DeNAとグリーなどプラットフォーム6社による協議会は、業界団体といったところまでたどり着けるのかは、現時点では未知数だ。特に2社の間は、裁判を抱え、犬猿の仲であるのは知られているとおりだ。両企業間での、裁判を取り下げるといったような和解を進めるような作業も必要なのではないかと思う。もう、そういう殴り合いをしているような時期ではなくなってきている。業界自体が危機へと向かいかねない。早期に、業界としてまとまり、社会的な問題にもっと積極的に取り組む時期だ。

シンガポールで、アジアや欧米の企業と議論していると、今回のコンプガチャ問題についての認識は、あくまで日本国内の地域限定の現象としか基本的に考えていない。そのため、自分たちのソシャゲビジネスに影響が出るとは考えていない。ただ、今後の海外戦略を広げていく上で、躓いたという印象はあるようだ。同時に、さらなる行政当局の介入があるのではと、日本に対して厳しい観測も述べている企業もあった。

繰り返すが、国際競争力を日本のソシャゲが持ち続けるためには、ローカルな行政当局の規制の拡大は望ましいことではない。もちろん、登録1割以下のユーザーに売上を依存している基本無料のビジネスモデルには、世界中のソシャゲがいびつなビジネス構造であるという批判は多い。もっと新しいビジネスモデルを開発するべきだという議論は、05年頃から、韓国でも繰り返され、今はアメリカでも議論が出ている。しかし、実質としては新しい課金モデルに対しては、答えが出ていない。一方で、パッケージ時代に戻るとももう信じられていない。

■オンラインギャブルゲームと一般のゲームとは違う

よく知られているように、アメリカでのARPU(一人上がりの月次売上)は、2-3ドルと日本が400円以上といわれていることと比べると、極めて低い。そのため、より収益性の高いカジノビジネスへの傾斜の背景も理解できる。高いARPUが期待できることを各社は知っているからだ。しかし、コアなゲーマーにとっては「ジンガポーカー」も「ジンガビンゴ」も退屈なゲームに映る。ギャンブルに向いているゲームと、ゲームとしてのおもしろさを追求しているゲームとは、まったく違う。

ただ繰り返すが、どこかでソシャゲとギャンブルの問題は急接近するタイミングが、海外から来る。突然、そのときに行政当局が動き出しても、もう遅い。日本のIT政策の長期的な戦略のなさと、所轄官庁の曖昧さは、お互いの足をひっぱり、一方的に巻き込まれるだけになり得るということは念頭に置いておいた方が良い。ソシャゲ業界の方が、危機感を持って先に動かなければならない。今回のコンプガチャの問題で終わりではないのだ。