期待値を下げて利益を出す ~スカイマークエアラインの正しい経営判断~

2012年06月02日 09:57

スカイマークエアラインのサービスコンセプトが話題になっている。

すでに目にした方もいるかもしれないが、簡単に説明すると「子供がわめこうが、CAの服装・髪形がちょっとおかしかろうが、接客が多少悪かろうが、苦情は受け付けない。価格を下げる分サービスは最低限しか提供しないから期待してくれるな。文句があるならお客様相談センターか消費者センターへ行け(つまり機内でCAに苦情を伝えて余計な時間・手間を取らせるな)」という随分思い切った内容だ。


これは酷すぎるという指摘から、安いんだからこれで十分という意見、中にはこれは違法行為だ、というよく分からない話まで飛び交っている。

自分としては「コンビニとか吉野家で接客が悪いとキレてるような客は相手にしたく無いという事なんだろう」と思ったが、すでにそういうコメントはいくつも出ているので、違った視点で話を進めたい。

以前、好んで良く行っていたチェーンの定食屋があった。味も良いし値段も安い。牛丼屋ほどではないが混雑時でも料理が出てくるのも早い。しかし、ある時まったく混んでいないにもかかわらず30分以上待たされた事があった。頼んだ料理はいつもと同じだ。自分としては期待が裏切られたわけで、かなりイラっとしたのを覚えている。結果としてそれ以降ほとんど行かなくなってしまった。偶然その時に料理の提供が遅かっただけかもしれないし、価格と味を考えればそれでも悪いお店で無い事は間違い無いが、期待値が高くなりすぎていたわけだ。

逆に言えば、安い代わりにこの部分には問題がある、と事前に分かっていればあきらめも付く。自分がたまにいく中華料理屋は安くて旨いがサービスは最悪だ。気性の荒い客なら店員とケンカになってもおかしく無いレベルだが、自分としてはそのお店にサービスは一切求めていないので問題ない。友人を誘っていく時も事前に説明をするが、毎回「期待」を裏切らず対応が悪いので「ね、言ったとおりでしょ?」と話のネタになる位だ。

一方、サービスも売りにしてしまうと、サービスレベルが下がった時に客の期待を裏切る事になり、それはトラブルにつながって客も離れてしまう。航空会社の比較対象といえば、日本人にとっては多くがJAL・ANAだろう。JALもANAもサービスレベルは相対的に見て高いだろうし、仮にトラブルがあってもそれなりに誠実に対応してくれるに違いない。間違っても消費者センターに行けなどといわないだろう。

高度な接客レベルを維持するための教育コストやきめ細かな対応は運賃に転嫁されていることを意識している人は少ない。チップ文化が無いせいだろうか、多くの人が丁寧なサービスは無料だと思っている。しかし、接客スキルというのは人間の無意識の部分(喋り方や立ち方、表情など)にまで踏み込まざるを得ない部分があり、一度教えれば終わりというものではない。人によって適正の有無も随分差があるし、身だしなみの徹底という最低限の部分ですら人間を相手にしている以上簡単ではない。全ての従業員に高度なレベルを維持させるのは簡単な事ではないわけだ。これらの手間は全てコストに転嫁される。

コンビニや吉野家のように、低価格のお店でもそれなりに丁寧な対応をするのが日本の企業だ。安いのだから、というのは売り手の甘えだと思われてしまっても仕方が無い。だが、スカイマークエアラインはそうは考えなかった。

適切に、かつ早急に客の過剰な期待値を下げる事。

これはスカイマークエアラインにとって重要な経営課題だったに違いない。期待値というのは恐ろしいもので、実際のサービスレベルと同じか、それ以上に売り上げに影響する。三ツ星レストランや高級ホテルならば、期待値を可能な限り上げて集客し、それに応える事で売り上げを獲得する。これが繰り返されてゆけば高い期待は信頼感・ブランドとなり、本来の価格よりもプレミアムのついた値段でサービスを提供できるようになる。一方スカイマークエアラインはその真逆だ。

うちはサービスを売りにしません。価格だけを売りにします。文句のある人は来ないで下さい。

これは経営戦略としてもある意味正しい。低価格しか求めていない客は一定数居るからだ。ブルーオーシャン的に言えば、顧客にとって重要度が低い、あるいは必要の無い機能は大幅に減らすかばっさりカットする、というやり方だ。

ただ、いきなりこれをやると航空会社として標準的なサービスを想定している客とのコミュニケーションに齟齬をきたすだろう。それを防ぐためには会社の経営方針を、どう解釈しても誤読しようが無いほど明確に説明する必要がある。公表されたサービスコンセプトが開き直りなどと批判されているのも、誤解されないために小学生でも分かるほど直接的な表現を用いているからだろう。

期待値が最初から低ければ客が失望する事も無い。どの会社でも出来る戦略ではないが、割高な大手が寡占状態の航空業界では「低価格」という一つの武器だけで十分に戦っていけると経営陣は判断したに違いない(もちろん、トラブルを頻発させて安全コストまで削っているのか、と批判されないように注意しなければいけない事は言うまでも無い)。

個人的な事を言えば、自分のお店はそれなりに高い代金を頂いているので、接客には気を使っているし、それ以上にレッスン内容には妥協していない。高級ホテルや三ツ星レストラン等にもぐりこんで高度な接客とはどういうものなのか、短期間でも良いから修行を積んでみようか、と本気で考えた事もある。結局その企みは実現しなかったが、コンシェルジュやホテルマンが書いた本を読み、なおかつホテルやレストランとはまた違ったFPなりのホスピタリティとはどういうものなのか?という事を常に考えている。

お客様は神様です、は間違い無い。だが「神様」への奉仕には色々なやり方があって良い。ビジネスの世界の「神様」は一神教ではなく八百万(やおよろず)と相場が決まっているのだから。

今後スカイマークエアラインの経営判断がどのような効果生むか、注目したい(あまりの反発の大きさにすぐに引っ込める、という情けない結果に終わる可能瀬もゼロでは無さそうだが・・・)。

*追記
ちょっとだけ気になる点としては、現場のCAさんがこれだけフリーな状態でどのような接客をするのか、という部分だ。予想通り無愛想になるのか、それとも適度にカジュアルな対応でかえって人気が出るのか……出張の多い方等はたまに利用して変化を観察してみてはいかがだろうか。新たな試みによって生まれるサービスの形は何かビジネスのアイディアにつながるかもしれない。

中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長
ファイナンシャルプランナー
シェアーズカフェのブログ
ツイッターアカウント @valuefp

中嶋 よしふみ
ファイナンシャルプランナー シェアーズカフェ・オンライン編集長

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