21世紀のケインズ 第五章 ケインズの流動性選好と雇用

小幡 績

相場師ケインズの流動性選好こそが、ケインズの財政政策の本質だという議論が多くの人に理解されないのは、なぜだろう。

ひとつには、彼らには先入観があり、相場師が嫌いなのである。

同時に、ひどい場合には、ほんとうのケインズを知らないどころか、ケインズは正義感の強い左派の政治家みたいな経済学者というイメージを持っている。

ケインズは相場師で耽美家であり、遊び人なのである。

そのような偏見を捨てて考えれば、相場師ケインズの流動性選好こそが財政出動であることほどシンプルな議論はない。


流動性選好と雇用がケインズの一般理論の要だ。

古典派は、財市場だけであり、財市場は表舞台だが、そこは表層であり、深層は、資産市場における流動性選好と労働市場における失業にある。

それこそが問題なのだ。

なぜなら、経済は、資本と労働を投下することにより生産が行われるからであり、生産されたモノを消費するからである。

生産が低下するとは、経済の拡大をもたらす、資本と労働が有休してしまうということであり、経済の発展を阻害する根源である。

なぜ生産が低下するかというと、有効需要が減るからである。それは流動性選好によるもので、投資のタイミングを待っている。その結果、投資は控えられ、経済は縮小均衡となり、資本収入も労働収入も減り、消費も減る。縮小均衡における、逆乗数効果である。

だから、ここで一発、無駄な公共事業を行い、政府が無駄な支出をすることによって、それが無駄な投資であり、生産力の上昇をもたらさなかったとしても、それをきっかけに、投資が、底打ち感から動き始め、生産が再開し、雇用が生まれ、それが消費になれば、有休だった労働と資本が動くことにより、経済は再拡大をはじめ、物価水準がどうであれ、経済は実質的に成長するのである。

有休していた資本と労働が経済に動員されることにより生み出された付加価値、GDPの増加が、無駄な公共事業の支出を上回れば、無駄な公共事業は有効需要を生み出すことにより、経済を復活させた立役者となる。

これがケインズの財政政策である。

穴を掘って埋める無駄なモノでさえ、経済の役に立つ状況があり得る。だから、政府は財政政策を行うべきであり、もちろん、どうせやるのなら有効な公共事業を行った方がよい。無駄なものですら役に立つのだから、有効なモノであればもっと役に立つ。

しかし、大恐慌において大事なのは、一刻も早く有休となっている資本と労働を動員することであるから、本当に有効な公共事業はどれか考えているよりも、とにかくやることが重要なのである。

しかし、経済が回り始めれば、無駄なモノは直ちに止め、有効な事業だけをやるべきなのである。