美貴亭食中毒事件と「やぶへびコンプライアンス」リスク --- 山口 利昭

2012年06月14日 10:31

藤本美貴さんをイメージキャラクターとした焼肉店「美貴亭」の食中毒事件については、あまりにも反響が大きく、当ブログのネタとしては「ふさわしくない」と思いましたので、もうブログネタにはしないつもりでおりました。しかし、ご承知のとおり本日の急展開にビックリしておりまして、もう一回だけこの事件について触れておきたいと思います。

ニュース等で皆様ご承知のとおり、「美貴亭」を実際に運営していた会社の代表者の方が本日(6月13日)、労働基準法違反で逮捕された、とのことであります。美貴亭の食中毒事件に関連して、というわけではなく、京都や神奈川で経営している「ガールズ居酒屋」で未成年者を雇用し、よろしくない格好で客に飲食物を提供させた、とのこと。京都府警と神奈川県警の合同強制捜査ということだそうですが、美貴亭事件と実質的経営者逮捕との時間的な近接性は単なる偶然とは言えないと思われます。


単なる偶然ではないと考えますと、ふたつの可能性があります。ひとつは美貴亭食中毒事件の捜査を展開しているなかで、たまたまガールズ居酒屋の経営状況を調べていたところ、労基法違反の事実が発見された、というもの。そしてもうひとつは、美貴亭食中毒事件の真相究明のためには、どうしても実質的経営者の強制捜査が必要となり、「すでに把握していた」ガールズ居酒屋の労基法違反容疑の事実を活用して身柄を確保した、というもの。新聞ニュースだけでは、いずれかは不明であります。しかしビジネス法務の視点から本件を考えますと、いわゆる「やぶへびコンプライアンス」事例の典型例かと思います。

もうすでに当ブログでは何度か解説させていただきましたが、「やぶへびコンプライアンス」というのは、1.事件や事故を原因として企業が行政当局による調査対象になってしまったところ、それまで社内で眠っていた不祥事が行政当局やマスコミによって掘り起こされてしまって、むしろ眠っていた不祥事が発覚することで企業の信用が毀損されてしまうケース、2.行政当局が「違法状態」にある企業をそのままマークしておいて、一般国民や消費者に(当該違法状態とは別件の)被害が生じたり、苦情が出てきた場合に、その「違法状態」を活用して被害の拡大や事故の発生を未然に防止するケースなどが典型であります。いずれのケースも、発端となる問題が生じることで、「この程度なら大きな問題にはならない」と考えていた不正が突如、後戻りできない企業不祥事として大きな問題に発展してしまうものです。

たとえば1.の事例は、昨年の東京ドーム事故や天竜川川下り事故などにみられます。遊戯施設の事故によって、その事故の本当の原因は不明なのですが、事故調査の時点で行政規制や社内ルールに反する施設運営の実情が明るみとなり、これをマスコミが大々的に報じることで「こんないい加減なことをしているから事故が起こる」と一般国民に認知されるものであります。事故の原因が不明であり、その責任主体はどこにあるのか不明であっても、こういったニュースによって企業の信用が地に落ちる、というパターンです。

2.の事例は、風俗店などが軽微な消防法違反の状況にあることを警察が認知しておき、風俗店に対する町民の苦情が出た場合に、苦情対応を主たる目的として、別件(消防法違反)で検挙する、というパターンであります。警察行政の在り方として、企業における形式的な違法状態を把握しておくことで、その営業から生じる国民生活への侵害行為に備える、というものです。

最近のクラブ規制も、取締の主たる目的は大麻や脱法ハーブなどによる薬物犯罪を検挙するというところにあるが、とりあえず摘発がしやすい風営法違反(営業許可の必要な風営法上の「接待」にあたる、というもの)として立件するという流れであり、2.の典型例といえます。ひょっとすると「コンプガチャ問題」も、賭博的な(射幸性の高い)行為が行き過ぎてしまったので、景表法違反という「より立件しやすい違法行為」を問題視して、こちらを前面に出して本来規制すべき「賭博性の高い営業活動を抑止する」ということが目的だったのかもしれません。

企業コンプライアンスの視点からすると、企業内において「これぐらいなら軽微な違法であり、とくに問題となることはない」と思料できるような形式的違法行為はそのまま放置することなく、早めに社内で対応せよ、という教訓であります。美貴亭食中毒事件がなければ、実質経営会社の社長さんが、いきなりガールズ居酒屋の件で逮捕されることはなかったかもしれません(よくありますように、食中毒事件で企業不祥事が発覚しますと、いきなり内部通報や内部告発が増えますが、そういった告発が警察に届いた可能性も考えられます)。また労基法違反の状況をすでに解消していたとすれば、(立件できるだけの証拠が把握できないという趣旨から)食中毒事件の捜査に活用されることもなかったかもしれません。

上場会社においても、この「それだけでマスコミが騒ぐような不祥事とはいえないけれど、別の不祥事が発生した場合には、合わせ技一本で企業の社会的信用が地に落ちてしまう」といった類の不祥事を、社内に抱えているケースが結構多いはずです。「合わせ技一本」によって苦しい立場に追い込まれることがないよう、「やぶへびコンプライアンス」のリスクについては平時から留意しておきたいところであります。


編集部より:この記事は「ビジネス法務の部屋 since 2005」2012年6月14日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった山口利昭氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はビジネス法務の部屋 since 2005をご覧ください。

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