法科大学院の闇 (続編)

山口 巌

時事通信の伝える所では、86%が定員割れ=12年度法科大学院入学者―文科省との事である。

国の法科大学院73校の2012年度入学者のうち、86%に当たる63校で定員を下回ったことが14日、文部科学省のまとめで分かった。定員割れは前年度より4校増加し、35校は定員充足率が50%未満だった。定員充足率が最も低かったのは神戸学院大(神戸市)の6%で、定員35人に対して入学者は2人だった。東北学院大(仙台市)が7%、駿河台大(東京都)が10%で続き、国立大で最も低かったのは新潟大(新潟市)の14%だった。全校の定員は前年度比87人減の4484人。入学者数は同470人減の3150人で、ピークだった06年度の54%に落ち込んだ。入試は受験者数1万6519人に対し合格者数は6522人で、競争倍率は2.53倍。文科省の補助金削減基準の一つである「2倍未満」は13校だった。 

この記事を読む限り、何処に問題があると言うより、法科大学院のシステムに根本的な制度設計の誤りがあると思われる。ちなみに、文科省が一昨日公表した関連資料も併せ読んでみたが、同様の印象と言うか、寧ろ問題の重篤さがより赤裸々である。そして、昨年一月にこのテーマを取り上げ、アゴラ記事、法科大学院の闇 を投稿した時よりも状況は悪化している。

法科大学院制度は実質破綻しているのであるから、元の制度に戻すべきと言った安直な考えに走るのではなく、一度立ち止まり、何故、懸る事態に陥ったのか冷静に検討すべきと思う。

先ず、この制度を成功さす為の必要条件としては、平均で卒業生の70%程度を司法試験に合格さす事と、不合格者が「法」の専門家として役所、一般企業で職を得る事が実現されねばならない。露骨に言ってしまえば、政策的に「司法試験バブル」を発生させ、大量の弁護士を誕生させると共に、試験に失敗した者にも役所や企業でセカンドチャンスを与える必要があると言う事である。

今一つの必要条件は、大量に誕生する弁護士の活躍場所の確保である。「弁護士バブル」を発生さすしかないのでは? 具体的には、現在企業法務が担当している「法」に関する案件の切り替え営業をするしかないのではと思う。 「法」に係る一切合財を引き受けるサービス提供企業として、企業に売り込むのである。

さて、現実はどうであろうか? 文科省の資料が極めて冷徹に語っている。

司法試験の合格率は平均で20%強である。しかも、不合格になった受験生の役所、企業への就職は厳しく、その後の消息不明の割合が大きい(資料6-1 Page14)。法曹へと進む道が断たれ、フリーターとなりコンビニのアルバイトで食い繋ぐ生活かも知れない。

これでは、法科大学院への進学は一種の「ギャンブル」である。それも負ける確率の極めて高い。人気を喪失し結果、記事にある様に入学者が右肩下がりで減少している訳である。一方、司法試験合格率の高い大学に人気が集中する事から、86%もの大学で定員割れが生じている。「箱」(教室)を確保し、教師のシフトを組み、回しておけば金(授業料+国の補助金)になると、大学は安易に考えたに違いない。非難されて当然である。

一方、新司法試験に合格し、司法修習を終えた弁護士には本来バラ色の夢が待っていても良さそうなものであるが、現実は厳しい。弁護士の卵、就職難 修習後の未登録、過去最悪の2割との事である。弁護士としての雇用の創出の失敗である。いや、失敗と言うよりも雇用創出努力の不在と言った方が妥当かも知れない。

既存の弁護士事務所が旧態依然としたやり方を踏襲する限り、新たに誕生する新弁護士の全てを吸収する事は不可能である。本来、弁護士会は法科大学院制度に賛成したのであるから、自らを改革し、業務の革新、拡大に依り、新人弁護士の受け皿を作るべきであったと思う。

結論として言える事は、「箱」、詰まりは、法科大学院だけを作っても、整合性が取れず何れ破綻する運命にあった。「司法試験改革」と「弁護士事務所業態改革」をセットで行う必要があったと言う事だと思う

それから、「甘い」と言う批判はあるだろうけれども、法科大学院に進学すれば弁護士になれると信じ、進学した若者の数は決して少なくない筈である。結果、このシステムの犠牲となり、司法試験不合格、消息不明と言うのは、余りに気の毒な話と思う。

山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役