FacebookのIPOは確実に失敗した。では、IT業界はバブルなのか? --- 楠木 秀憲

2012年06月16日 17:46

2012年5月18日に米国でFacebookの株式公開(IPO)が実施され、時価総額8兆2000億円の企業が誕生したことはまだ記憶に新しい。そしてその直後に株価が暴落し、株主による訴訟問題にまで発展していることも周知の事実だ。

売り出し価格38ドルだった株価は一旦45ドルまで上昇したがその後は下落の一途を辿り、日本時間の6月15日時点では28.29ドルをつけている。世界に革命を起こすはずだった期待の超新星は、一ヶ月足らずで25%の下落に見舞われたわけだ。あれだけ期待されていたFacebookのIPOは、何故失敗したのだろうか。


■IT業界の不確実な未来と、そこに対する過剰な期待

Facebookは現在世界で最も成功しているソーシャルネットワークサービス(SNS)であり、その登録人数は2012年の4月に9億人を突破した。これは国家に例えるなら中国、インドに次ぐ世界三位の人口を誇るコミュニティである。

Facebookはそのユーザー数の多さと実名制という特徴から、広告マーケティングのみならずあらゆるビジネスチャンスが潜むと考えられており、例えば2012年5月にはFacebookからドナー登録の申請が可能になるというサービスが実現されて話題をさらった。これは、Facebookが世界を変えるに可能性に満ち満ちていると信じこませるには十分なインパクトを持った発表だった。

誰もが知っている通りIT業界は他のどんな業界よりも変化が激しく、それゆえどんな突拍子もない未来予測でも実現不可能だと否定することが難しい。Facebookもまた、そのような不確実な世界において魅惑的な未来予想図を描くには十分すぎる可能性を秘めたサービスだったのだ。

■夢に賭けるプライマリーマーケットと、現実を見るセカンダリーマケット

そうやってIT関係者やユーザーのみならず多くのプロ投資家達をも虜にしたFacebookのIPOは、しかし手痛い現実を突きつけられることになった。IPO時点では1000億ドルと騒がれたFacebookの企業価値も一ヶ月でその1/4が失われ、今でもその企業価値には投資家から疑問符が投げつけられている。

その原因は、将来の可能性から企業価値を算出したプライマリーマーケット(発行市場)と、現時点での収益性に着目したセカンダリーマーケット(流通市場)の評価方法の違いにある。確かにFacebookが無限大の可能性を秘めていることは否定できないが、現時点(2011年度)ではFacebookの売上高は42.7億ドルで純利益は10億ドル、これに比べて企業価値1800億ドルのGoogleが売上高379億ドルで純利益は97億ドル。

しかもGoogleは広告という安定的な収益源を確立していてFacebookはまだ収益方法について手探り状態であることを考えると、Facebookの時価総額1000億ドルは素人考えでも非現実的で、夢想的だとしか言いようが無い。

■IT業界はバブルか?

では、IT業界はバブル状態なのだろうか。投資マネーがその行先を探していて、夢見がちなIT業界に、現実に即していない過剰な熱狂を生んでいるのだろうか。

これは半分正解で、半分は間違いだと考えている。つまり、IT業界にも現実的な値付けが行われている企業と、そうでない企業が存在するのだ。Facebookは、明らかに後者だった。

現実的な値付けが行われているか否かは、つまりは収益源を確立しているかどうかということである。例えばTwitter社の共同設立者として有名なジャック・ドーシーが2009年に立ち上げた決済サービス「Square」は、確実な収益モデルを持っていてる。「Square」はスマートフォンに小型の専用機器を接続することで小規模な商店や個人でもクレジットカードによる決済を可能にするサービスで、収入源はその手数料だ。

Facebook等のソーシャル系サービスに見られる「ユーザーが集まるから広告収入でなんとかなるだろう」という甘い考えではなく、予測可能で確実な収益源を持っており、このような企業に対しては正当な評価が下せる。つまり、バブルは起きない。

このように、IT業界と言えどもその全てが過大評価されてるわけではなく、バブルの様相は限定的だ。逆に言うと、正確な投資判断ができればIT業界は未だに魅力的な投資先だとも言えるのではないだろうか。

楠木 秀憲(くすのきひでのり)
京都大学経済学部

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