インフレが遠のくアメリカ --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

14日に発表されたアメリカの5月の消費者物価指数。市場予想を下回る0.3ベーシスポイントと下げ、年間換算のインフレ率は1.7%となりました。月間の下落幅としては約3年振りになります。主たる要因はガソリンのマイナス6.8%が圧倒的に大きく、他の消費財のプラス要因を打ち消してしまいました。


ここから類推するとガソリン価格、ひいては原油価格の下落がアメリカをプラスの方向に導くと同時にオバマ政権も当然ながら当面はそちらに誘導する政策を取り続けるでしょう。ほんの数ヶ月前、原油価格がニューヨークでバレル当たり100ドルを超えていたとき、アメリカ国民は政府に対して死活問題であると高騰するガソリン価格に対して強い非難をしてきました。

が、さまざまな要因がもとで全体的に原油安のバイアスがかかり続け、今や83ドルを切る水準にまで下ってきているのです。大統領選を決定づけるのに極めて重要なガソリン価格が国民に安心感をもたらす水準まで下ってきたのは、少なくともヨーロッパ発の激動の中でアメリカが落ち着きを維持できるという意味で安心感があるかと思います。

私はこの原油安に関して三つほど今後を占うポイントを指摘しておきます。

一つ目はイランとの不和。私は最悪のシナリオの場合、夏にかけて問題勃発もありうると思っていましたが今のところ平静を保っています。外交的にはむしろ、シリアをめぐる駆け引きが欧米と中露で白熱していますのでイランのプライオリティが低いという感じもいたします。また、対イランに強い姿勢を見せるイスラエルはアメリカの共和党からの支持をもらっているものの大統領選の結論を見ないことには本格的に動き出せないということがあるかと思います。イスラエルも賢いですからアメリカの援助なしに独力で国際世論の非難を浴びながら単独行動に出る愚かさはないと思います。

二つ目は原油価格、資源価格の下落は仮想敵国になりつつあるロシアの足元を揺るがす意味合いが大きいと思います。ロシアの株式市場は資源価格の低迷もありこの1年で30%以上も下落しており「経済帝国」を政権支配の足がかりとするプーチンにとっては不都合であります。さらにシェールガスによる資源革命は中長期的に明らかに資源価格のバイアスを下に下げる可能性があります。つまりロシア叩きには資源価格の下落、シェールガス革命はきわめて有効であります。

三つ目はアメリカが流動性の罠から脱出困難になる可能性です。資源価格がインフレにもたらす影響は大きく、仮に長期的に資源価格が低位安定するならアメリカのコアインフレーション(資源価格と食料を除く物価)は日本同様大きく浮上する可能性が少ないとみられます。今後、アメリカが製造業の輸出競争力強化のため、人件費を削るなどの変革がおきれば日本同様デフレの可能性も否定できないことになります。

インフレ恐怖症が流動性の罠、そして長期デフレに向かうというシナリオは決して日本の政策運営だけの問題ではなく世の中の進むべき方向なのかもしれません。一方、資源大国に見られる独裁制はより薄まり共和体制が強まっていくことになるでしょう。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年6月16日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。