日本ではなぜNPOが育たないのか

2012年07月01日 14:06

橋下市長の文楽協会とのバトルが「補助金打ち切り」という事態に立ち至ったようだ。私は大阪の状況はよく知らないが、けさの彼のつぶやきはささやかなNPOを経営している私にも関係があるので、少しコメント。

文楽協会は、一億の金を集めるのにどれだけの苦労が必要か、それを経験させるか、そのようなことを知っている者で構成せざるを得ないだろう。民間人なら誰でも知っている。一億のスポンサー料、寄付を集めることがどれだけ大変か。金を集める苦労を知らないのは外郭団体の特質だ。


普通のNPOが、1口1億円の寄付を集めるのは不可能である。世界一の大富豪ビル・ゲイツ氏でもそんなに出してくれないし、出したあとも定期的に成果の報告を要求される。もちろん成果が出なかったら、寄付は打ち切られる。

ところが文楽協会に代表される公益法人は、天下りを受け入れる代わりに大口の補助金を無条件で保証される。政府のつくった公益法人は、100%補助金で経営されているものも多い。こうした「半政府組織」が非営利活動をクラウディングアウトしていることが、日本でNPOが育たない一つの原因だ。

もう一つの問題は、寄付を非課税とする条件がきびしいことだ。これはNPO法の改正で多少はましになったが、基本は課税で、いろいろな条件を満たさないと非課税にはならない。財務省はいまだに「政府の管理していないNPOは信用できない」という姿勢だ。寄付が非課税になると、公益を隠れ蓑にした天下り先がなくなるからだ。

最大の問題は、個人がNPOに寄付する習慣がないことだ。欧米では、ある程度の収入がある人は寄付することが社会的な規範になっている。これはキリスト教の伝統で、むしろ株式会社のような営利組織がプロテスタント教会をモデルにしてできたと考えられている。NPOのほうが古いのだ。

日本の場合、大口の寄付は企業献金だから、株主との利益相反が生じる。フリードマンも指摘するように、企業の経営者が寄付するのは、株主の金で名誉を買うモラルハザードである。公益を実現することは政府の役割であり、その役割を経営者が行なうことは株主に対する私的な課税である。また原子力のような政治的にセンシティブな問題には、企業は金を出さない。

非営利活動の経営は営利活動よりはるかにむずかしく、株式会社のような標準的な制度がない。一つの解決策は、政府が公益にかなうとみなす活動の消費者を補助することだ。文楽の場合についていうと、交響楽団や小劇場も含めた芸術バウチャーをつくって、一定の基準を満たす公演のチケットを半額補助するといったやり方が考えられる。この場合も審査の段階で政府の裁量が生じるが、文楽協会のように無条件の「眠り口銭」を渡すよりましだろう。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!
池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑