サイエンス的思考のススメ

MATSUMOTO Kohei Ph.D.

初稿になるのだが、自己紹介代わりに本稿を。これは以前小生のwebで公表したものである。が、周知の事実であるにしてもそれを踏襲している論客を余り見かけない。方法論として意外と知られていないと推察し、認知も含めて再掲する。


D1000402去年の3月11日東日本大震災以降、ほぼすべての皆さんが、特に福島第一原発事故の放射性物質に関してどの様に評価したらよいのか、どう行動するべきなのか、それこそ十人十色で解決を探ろうとしていました。

それ以降私も色々観察していましたが、現実は最初にバイアスがかかったり、べき論がベースにあったり、方法論を間違えてしまい結局得られる解も適切ではない、という導き方が非常に多い印象です。

そこでひとりでも多くの人にサイエンス的思考を薦めたいと思い、ここに記します。別にこれは今始まった思考方法ではなく昔から、あるいは小学校の頃から教わってきた論理の進め方にほかなりません。ひいてはこの手法を以って多くのリテラシーが進むことを願うばかりです。

1. 何が問題なのか、何がこれまでわかっているのか

科学論文で言うところのIntroductionです。これまでわかっていること、それで何が不明な点なのか、何を知ろうとしているのか、そのためにどの様なツールを使うのか、そして何が新しい事なのかを考えるべきです。

2. どの様な方法を使うのか

これはSamples, Experimental and Methodの部分。どんなツールをどの様に使ったのか、どの様な測定機を使ってどの様に用いたのか、その方法は妥当であるのか、何回測定したのか、を誰が見ても追試ができるように、具体的に述べることです。

3. データを提示する

論文で言うResultsです。データは嘘をつきません。記録としてオフィシャルなものとなります。2.の方法に基づいて得られた結果はオリジナルです。すべての議論のベースとなりうるものであり、共通言語となります。

4.そのデータがどの様な意味を持つのかを話しあう

まさにこれはDiscussionです。日本人が最も苦手な部分です。巷でよく議論するTV、ネット番組とかありますけどほとんどが言いたい放題発言しておしまいってパターン。これでは何も伝わりません。即ち論点がフォーカスされていない、ということになります。

ここでは議論する順番、そこから得られる結論は何か、を丁寧に、しかもシステマティックに話し合います。記述、口頭関わらず、その論点から一歩もずれないこと、その時点でscientificな思考ではなくなるからです。その論点についてのみ結論を出すようにして、それが達成できたら次の論点に移ります。すべてが終わったらそれらを総括して結論を導き出します。最初に結論ありきでもダメです。これもその時点で科学的では無いです。結論ありきのTVの番組制作は歪曲の極みです。的確な問題設定、プロセス、科学的議論に基づき忠実に議論された結論、まさにこれは科学論文にほかならず、です。

5.信頼に足るソースを提示する

最後に参考にしたソースを明記するべきです。又そのソースは信頼出来るものなのかどうなのかもオーディエンスが評価できるし、それを見てその思考方法が適切であるかどうかが判断できます。逆に言うと論者はできるだけ信頼に足るソースを提示する必要があるわけです。そうでないと本論の前提が揺らぎかねません。その様にして知識が蓄積されてきたわけです。

~以上。

この1年余りで多くのトラブルを抱えてしまった日本ですが、ピンチはチャンスというようにここで飛躍するチャンスとも言えます。そのチャンスにこの(新しい方法に見えますが実はごく基本的な)手法を用いてリテラシーが少しでも上がることを願うばかりである。

松本 公平 (MATSUMOTO Kohei Ph.D., Geoscientist)
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