大銀行を分解すべきか --- 中谷 孝夫

2012年07月28日 06:00

昨日考えられないことが起った。7月25日のCNBCとの会見で、元Citi GroupのCEOであったSandy Weillが「今の大銀行は規模が膨大になりすぎ、誰もが悪感情を持っているので、銀行と証券会社を分離すべきだ」と発言したからだ。Sandyは、もともとFinancial supermarketの信奉者で、かつてのCiti BankとTravelersを合併させた張本人だからである。


この合併は、銀行と証券を分離させるGlass-Steagall法の廃止を予想して、遂行されたものだった。Glass-Steagall法は、1930年代に起こった大不況の中で発生した過度の投機を規制するために作られた法律だった。1970年代に入り、経済の自由化の機運に乗って、次第に銀行と証券の垣根が低くなった結果、1990年代に廃止されたものだった。この自由化の最前線に立って、企業合併を遂行してきたSandyが、突然これまでやってきたことと正反対の提案をしたのだから、金融業界、メディア、政界が驚いたのも無理はないところである。

SandyがGlass-Steagall法の復活を提案した背景には、現在実施に移されようとしているDodd-Frank法案―金融業界規制法案にたいする警戒感があると考えられる。このDodd-Frank法案の内容は、Volker Ruleを基本的な手段として、銀行の自己勘定による投機を規制しようとするものである。

ところが、この法案は二千頁以上もある膨大なもので、この詳細な法案が実施されると、金融機関に大きな負担になることは明白である。これは、金融機関の個々の業務を通じて投機を規制しようとするものである。それならば、いっそのこと、組織別規制をするGlass-Steagall法を復活させて、その領域内で、銀行は本来の預金の預かりや貸し出しに専念し、証券会社は金融のリスクの高い取引に専念する方が良いと思っているようだ。即ちSimple is better!という考え方だ。彼も私生活では、この考え方を実践に移して、セントラルパークに面した八千万ドルのコンドー、九千万ドルのヨットと自家用のジエットを売却して、自分の生活もDown-sizingしているようだ。

インターネットによる世論調査も賛成が85%で、反対が15%と圧倒的に、この案を支持している。政界も、例えば共和党の有力者であるPaul Ryan下院予算委員長も賛意を表明している。実業界でも、M&Aの分野で一番の権威者であるコーエン弁護士も、Glass-Steagall法の再導入は、理論的には可能との見解を表明している。

歴史的に考えれば、「経済活動は、出来るだけ制約がない方が良い」という自由主義の方向に突き進んでいたが、無制約に近い自由主義は、過剰投機の弊害が出て、やっと行き過ぎだととう反省の時期に入ってきたと思われる。アメリカの銀行業も、完全に大銀行とcommunity bankの二重構造になっており、10大銀行が業界の総資産の三分の二を支配下に置き、世界中に活動の範囲を広めている。

これに反して、八千あると言われているcommunity bankは200年来の預金の受領と企業融資や不動産の貸付という、伝統的な商業銀行の活動を続けている。ところが、2008年に発生した信用恐慌では、”Too big to fail”の懸念から、政府の銀行救済処置が取られた。もしGlass-Steagall法が再導入されれば、政府の銀行救済の可能性は無くなるだろう。

もしGlass-Steagall法が再導入されれは、Bank of AmericaはMerrill Lynchを、JPMorganはBear Stearnsを、Citi CorpはSmith Bearneyの分離に取り掛からざるを得ないだろう。

これは日本にとっても、他人事ではない。今日の金融業界はGlobalizationが行きつくしているので、日本も同じ処置をしなければならなくなるだろう。この発展は、日本の業界も「海の向こう側の出来事だ」と、無関心ではいられないだろう。日本の政府も、いずれ同じ処置を取るだろう。

協同組合のウェッブ・サイト

2012年7月26日 ミネソタ州にて
中谷 孝夫(なかたに たかお)
View from Lake Minnetonka ミネトンカ湖畔からの日本観察記
在米45年の元ウォール街の証券アナリスト
著書「アメリカ発21世紀の信用恐慌」2009年刊行

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