サイバーエージェント藤田社長の「採用しすぎた」発言は実に残念だ

2012年08月02日 08:00

実にがっかりである。何かというと、サイバーエージェント藤田社長の「採用しすぎた」発言と、それに対するネット上の反応だ。藤田社長は私の同世代のヒーローの一人であり、ブログや雑誌での連載も愛読してきたのだが、正直、この発言には失望してしまった。


このニュースを報じたのは、2012年7月27日付けの日本経済新聞朝刊だ。「サイバーエージェントが反省 大量採用で組織混乱 5人に1人新入社員」というタイトルで掲載された。この記事では「新入社員が増えすぎて異常事態」「急に採用しすぎた。特別優秀な人材以外はしばらく採るのを控える」というコメントが掲載されている。もともとは企業の決算に関する報道であり、26日に発表した2011年10月~12年6月期決算は、連結純利益が前年同期比24%増の69億円となったことを伝えている。ただ、技術者を中心に500人を採用し、全社員の5人に1人が新入社員となって、組織に混乱もあるという旨が伝えられている。

この報道のされ方と、それに対する反応は、なかなか興味深いケーススタディだと言える。まず、前述したようにこれは元々、決算に関する記事である。前年同期比24%増という業績とともに報じられた今回の採用数増加報道であるが、本来は攻めの戦略として報じられるはずだった。同記事でもスマートフォン向けSNSへの参入のために技術者を大量採用したとふれている。ただ、「新入社員が増えすぎて異常事態」「急に採用しすぎた」というコメントの威力は絶大で、この好業績、攻めの戦略は吹き飛び、この言葉だけがひとり歩きしてしまった。どのような取材のやり取りがあったかはわからないが、メディアとはそういうものなのである。ただ、藤田社長、及び同社の広報対応もやや脇が甘かったかもしれない。

「採り過ぎ」と報じられた500人の採用についても考えてみよう。まず、ネット上でのコメントでは「新人をこんなに採って・・・」という声があったが、これは厳密には「新卒社員」ではない。同社の関係者によると、500人の内訳は新卒が300人、中途が200人だ。この数字は元々の計画通りであり、想定の範囲内である。

さらに言うならば、メディアでの就職難報道とは裏腹に、企業側から言うと「採用難」の時代である。求めるレベル、タイプの人材となかなか出会えず、採用できない、「採りたい人と出会えない」ことが企業側の悩みだ。ましてや、技術者とその候補生の採用は極めて困難だ。同社が採用基準を落としたとは思えないので、今時、採りたいレベルの新入社員を500人入れることができたのは、同社が採用に力と魂をかけており採用力があるからであり、企業としてのブランド力も上がっているからである。

たしかに社内が混乱しているのは、事実のようで同社関係者だけでなく、取引先からもそんな話を聞く。新しい血が入ったことにより、通常の業務を遂行するだけでなく、企業文化にも揺らぎが起こる。ただ、これもまた想定の範囲内だったと言えるだろう。大量採用を行った企業では一時的に混乱が起きつつも、上手い方向に行けば各階層の社員が成長するし、企業文化もより強くなると言えるのだ。ひょっとすると、「採り過ぎた」発言は、混乱により迷惑をかけている取引先への配慮だったかもしれないのだが。また、採用数の増加は時に株主に理解されないこともあるので、やはりそこへの配慮だったかもしれない。

「21世紀を代表する会社を創る」これが同社のビジョンである。同社は事業面だけでなく、人材マネジメントの世界でも注目を集めてきた。同社の人事担当取締役である曽山哲人氏は人事担当者の間でもカリスマ視されている。若手社員の可能性にかけ、どんどんグループ会社の社長や役員にするなど大胆に抜擢を行なっている点などが特に注目されている。また、新卒採用を否定するわけでもなく、それに頼りすぎるわけでもなく、新卒中途含め、実にバランスのとれた、採用活動を行なっていると私は評価していた。今回の大量採用を実行したこと、実現できたことも21世紀を代表する会社だからと言い切って欲しかった。

それだけに今回の藤田社長の「採用しすぎた」発言は残念である。もちろん、経営者の立場からすると「採り過ぎた」という話になるのだろうが、500人と束で見ると大量ではあるものの、それは1人1人の意思決定の数なのだ。彼らの決意を何だと思っているのか。この発言の腰砕け感は何なのか(藤田社長、くれぐれも「腰」は大事にしなさい)。

「いまどき優秀な人材を500人も採れちゃったゾ(ドヤッ)」と力強く言い切ってもらいたかったのである。

かなりがっかりしたが、同社と、同世代のヒーローの一人である藤田社長を今後も激しく傍観することにしたい。

試みの水平線

追記:サイバーエージェント藤田社長より
次のようなエントリーがありました

大量採用の件
ここで指摘のある、決算発表の動画は私は見ていませんでした。
日経の報道をもとにしたエントリーでした。
報道をもとにしたエントリーでご迷惑をかけた点について、お詫びします。

とはいえ、500人採用は元々の計画であったことは関係者からも聞いた事実であり、混乱も元々、想定していたかと思います。

2012年8月5日10時37分 常見

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常見 陽平
千葉商科大学国際教養学部専任講師

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