ゲーム開発で福島に未来の種をまく~開催中の「福島ゲームジャム」から

2012年08月04日 15:13

避難しての家族で移った福島県二本松市の仮設住宅は寒い冬だった。高校一年生の眞田仁美さんは、南相馬市市内の小高工業高校の仮設校舎で学んでいる。入試の時には、3時間かかっていた。6月に南相馬市に仮設住宅ができたので、そこに移り、そこから通えるようになった。しかし、自宅のある浪江町は、福島原発の10キロ圏内の制限区域内で、まだ3.11が起きて避難して以来、自宅には戻ることができないでいる。

彼女にはお兄さんが二人いて、二人ともとてつもないゲーム好き。「バイオハザード」から、初音ミクのリズムゲーム「初音ミク-Project DIVA」まで、たくさんのゲームに囲まれてきた。「ファイナルファンタジー13」が好きな彼女は、自分の好きなゲームについて本当に楽しそうに話す。その彼女は、今ゲーム開発のプロ達と一緒にゲーム開発をしている。

Evernote 20120804 14:28:33
<眞田仁美さんは中央奥の白い服>

南相馬市で福島ゲームジャムを開催中


8月4日~8月5日の日程で、福島県南相馬市に、「福島ゲームジャム in 南相馬2012」というイベントが国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)と南相馬市の共催でされている(筆者も関わっている)。これは東京のゲーム開発者と、東北地方の学生たちを中心に、即興の開発チームを編成し、30時間でゲームを開発するイベントだ。誰とチームを組むのかは、その当日になるまでわからず、お題に合わせてゲームを作る。ジャズセッションのように、もてる能力の全力を使ってチームでゲーム開発を「Jamる」イベントだ。ゲームの開発に慣れたゲーム開発者と、プロと一緒にゲームを作るような経験を持たない学生達が、6人の8チームに分かれてゲームの開発に入っている。4日11時に始まったゲーム開発は、5日17時までと、全体で30時間の制限時間で進んでいる。マラソンのようにゲーム開発を行うイベントだ。

このイベントが行われている南相馬市の「ゆめはっと」というイベントホールは、福島第一原発から、25キロ地点で10分も車で行けば、現在の立ち入り制限区域である10キロ圏内にたどり着く。会場は、現在では、放射線量は安全な数値が出ており、町には子供達の姿も見かけるようになり、日常が少しずつ戻ってきている。

昨年の東日本大震災は、普段ゲームを作っている人達にとって、無力さを感じさせる災害だった。自分たちがゲームを作ることにどんな意味があるのかという問いに突きつけられた。ゲームというメディアは社会が安定しているからこそ、多くの人に楽しんでもらえる物ということが、鋭く突きつけられ、無力さを感じて開発者は、無気力のなかにあった。

ゲームに関わる人間として、何か自分たちにできないだろうかということを、議論しながら、一つの答えが福島でゲームジャムを行うことだった。南相馬市の市議会議員の一人との偶然の出会いから、実現に向けて多くの人の力を通じて、南相馬市のご協力を得ながら、実現にたどり着いた。ボランティアとして現地に入るだけの時間的な余裕を持たない人も多く、しかし、ゲーム関係者のなかには、何らかの形で復興の役に立てないかと考えていた人は多かったのだ。

ITによって作り出す物であれば、風評被害に悩まされることもない。全世界へも配信していくことができる。そして、全世界に状況を伝えていくことで、実際に起きている現状を伝えることができる。そして、未来を目指して人の成長を促すきっかけを作ることができる。そういう希望を夢見た。

即興のチームで「Jamる」イベントの意味

ゲーム開発のために、30時間という時間は短いようだが、得るものは多い。企画を立て、開発を進め、実際に自分たちが意図していたものと合っているかどうかを確認しながら、ゲームを作り、完成させなければならない。これは一般のゲーム開発のプロセスそのものだ。そして、この短い時間に、2年あまりのゲーム開発で起きる事象のすべてが起きる。プロにとっては、アマチュアの能力を勘案しながらチームマネジメントを行って能力を最大限引き出さなければならないし、アマは自分が持つ能力を最大限に発揮することが期待される。また、ゲーム開発は、実際に開発に関わってみないと伝わらない「暗黙知」の領域が多い。だからこそ、こうしたゲームジャムを通じて短期間に集中的に行われる開発は、未来の種になりうるのだ。

今年、ゲームジャムを想定し、東京工科大学が開発を行った大学生向けの教育プログラムを、高校生向けに簡易な形にカスタマイズした。そのプログラムを受けた、眞田仁美さんなど6人の高校生が、開発チームに混じって実際にゲーム開発に参加している。将来はデザインの仕事に就きたいと考えている。彼女はこの二日間で何を学ぶだろうか。

今回のイベントに関わるスタッフは、復興の可能性は、人を育てることにあると信じている。そして、ゲームというメディアを通じてITの可能性を垣間見る学生達はきっと、そうした未来を見つけてくれるだろう。

福島ゲームジャムは、南相馬市の本会場のみならず、東京、名古屋、福岡、台湾の台北、台北といった地域でも、同じ時間帯に開発を行っており、総勢で170名もの参加者を得て進められている。各地域は、Ustream中継でつなげられ、ゲーム開発状況を伝えつつ、復興の実情といったことを、現在もおこなっている。

福島ゲームジャム公式ページ
http://fgj12.ecloud.nii.ac.jp/

福島ゲームジャム公式Ustreamチャンネル
http://www.ustream.tv/channel/fgj2012

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