21世紀は個の時代

2012年08月09日 06:57

今、京都での国際研究集会(Pacific Rim Complex Geometry Conference)に参加している。この研究集会は特に若手研究者を多く講演者に招くものだが、参加者の中には、世界を渡り歩いている研究者が多い。例えば、あるドイツ人若手研究者は、PhDはアメリカで中国人研究者の指導の下で取得し、ポスドクはイギリスでといった具合である。

こういった人たちに囲まれていたところ

という佐々木俊尚氏のツイートがあった。 ここでは、このツイートの意味するところを分析したい。
 


グローバル化による収斂現象

現在、世界の成長の中心は、完全に新興国に移っており、先進国は、これから長期に渡り、低成長が続く。 この主な理由は:

(1) 新興国へのアウトソーシングにより、ごく一部の高スキルの労働の価値が高まる一方で、大部分の労働の価値が下がる労働の二極化が進み、大部分の労働者の実質賃金の低下が起こっている。

(2) 新興国経済の発展により、一次産品の価格が上昇し、先進国の交易条件が悪化している。 その結果、先進国の実質賃金が低下している。

(3) 実質賃金が低下し続けるため、内需も飽和している。 

ということである。 

これはグローバル化による収斂現象であり、これは先進国内での格差を拡大する。 そして長期的には、個人の労働の価値は、グローバルスタンダードで評価されるようになる。 つまり、先進国、新興国、いずれの国民であるかに関わらず、個人の努力、才能で、得られる豊かさが決まるということだ。 これは全く正しいことであり、何の疑問もない。 

例えば、自然科学の論文を考えれば、良いものは良いのであり、どこの誰が書いたものであるかは関係ない。 これには一点の曇りもないだろう。

先進国の生活水準は低下する

しかし、新興国の人たちと同じ土俵で競い合うということは、先進国の多くの国民にとって、生活水準の低下をもたらす。 

このことについて、グローバル化の影響が顕在化している現在、先進国内で不満が高まっている(これをリフレや財政出動で、内需を大きくして解決するとか、一次産品の値上がりによる、インフレの惹起でデフレ脱却だ、といったおかしなことを言う人がいるが、無意味だ)。

しかし、グローバル化は不可逆であり、世界の人々が広大な未開の森に囲まれて暮らしているような状況ではないのだから、世界経済のパイは容易に大きくはならない。 IT化、金融工学は、エネルギー革命ではないのだから、パイの拡大には大きな効果はない。 ルールの変更と考えてよい。 パイの大きな拡大が望めない状況で、新興国の人々が、徐々に豊かになるのだから、先進国の生活水準は低下する。 

パラダイムを変えても競争は続く

こういった状況を、成長や拡大を求めるという価値観は、必ずしも豊かで幸せな社会を生み出してはいない、と見て、外面より内面、物質的豊かさよりも、心の豊かさを、と考える若者が増えているという(「失われた20年に育った世代」 参照)。 私は、こういった人生観の転換には賛成だ。

しかし、こういったパラダイムシフトで、心静かな人生が送れると、期待するのは不可能だ。 

なぜなら、現在の世界人口70億人が、皆、豊かな生活を求めており、地球のリソースを限度を超えて利用して生活しているからである。 その結果が、地球温暖化であり、一次産品の価格上昇である。 競争を避けて、生活できるような状況とは言えない。

それどころか、このような状況で、国家間の争いが起きることは、十分考えられることだ。南沙諸島、尖閣諸島問題など中国の海洋進出に見られるように、国家間の争いの兆候は既に現れている。

21世紀は個の時代

国家間の争いを避けるにはどうしたらよいだろうか。 少々理想主義的かも知れないが、私は、グローバル化が、一つの解を与えるだろうと思う。 

個人の評価をグローバルスタンダードで行うことが、世界で徹底されるなら、国家間の争いは意味がなくなるだろう。 国家間の争いを、個人間の競争という形に変えるのである。 国に拘らず、簡単に人が国境を越える状況の実現は、世界の安定化に寄与する。 温暖化などの環境問題も、国家間の対立が意味をなさなくなれば、解決するかも知れない。 

佐々木氏のツイートの意味するところは、国が個人の生活をある程度、保証してくれるような時代は、過ぎ去った、国という、頼れないものに頼っても仕方ない、ということなのだろう。

21世紀は個の時代だということだ。 

追伸 グローバル企業と政官が「国内労働者の絶対的窮乏化」路線を国策的に推し進めている、という、 内田樹氏の意見には、驚く。 好き好んで、自国民を窮乏化しているわけではない、ということが何故分からないのだろうか? 日本のソニー、シャープといったグローバル企業の苦境を目の当たりにしながら、こういった意見を述べることに、どういう理があるのか、私には分からない。

 

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