「住民の被曝限度は年間1mSv」と定めた法律はない

2012年08月14日 11:55

一昨日の記事に橋下徹氏からコメントをいただいた。

このような立論は全く知りませんでした。専門家の皆さん、池田氏のICRP111号勧告を基にしたこの立論への反対論をお願いします。この立論が覆らなければ大きな政策変更が迫られます RT @ikedanob:1mSv/年は「被曝限度」ではない


この記事で私が引用した111号勧告でICRPでは、ICRPは緊急被曝状況現存被曝状況という概念を設定した。前者は原発事故の直後の高い放射線が出ている状況、後者は現在の福島のような事故後の復興途上の状況である。これについて勧告は次のように書いている:

(48)現存被曝状況の場合、[・・・]汚染レベルが持続可能な人間活動を妨げるほど高くない場合、当局は人々に汚染地域を放棄させるのではなく、むしろ汚染地域での生活を継続するために必要なすべての防護措置を実行しようとするであろう。これらを考慮すれば、適切な参考レベルは、できれば委員会によって提案された1~20mSvのバンドで選ばれるべきであると示唆される。

この線量は「参考レベル」であり、実際の規制は政府や自治体が決めてよい。原子力施設の労働者については、労働安全衛生法にもとづく電離放射線障害防止規則で「三月間につき一・三ミリシーベルトを超えるおそれのある区域」を放射線管理区域とすることが定められているが、一般住民の被爆限度についての法的な規制はない。

「年間1mSv」の根拠として武田邦彦氏は出所不明の「通達」を引用しているが、これは原子力安全基盤機構の解説にすぎない。ここに書かれている線量当量限度告示は規制ではなく、それを運用する基準だが、こう書かれている。

第三条 実用炉規則第一条第二項第六号及び貯蔵規則第一条第二項第三号の経済産業大臣の定める線量限度は、次のとおりとする。
一 実効線量については、一年間(四月一日を始期とする一年間をいう。以下同じ。)につき一ミリシーベルト

これを適用した規制としては原子炉等規制法にもとづく省令があるが、その第15条第4項にはこう書かれている。

排気口又は排気監視設備において排気中の放射性物質の濃度を監視することにより、周辺監視区域の外の空気中の放射性物質の濃度が経済産業大臣の定める濃度限度を超えないようにすること。

この「経済産業大臣の定める濃度限度」が上の線量当量限度告示だが、ここで法的に規制されているのは電力会社が排出する放射性物質の濃度であって、政府が住民を退避させる基準ではない。似たような科学技術庁告示も「放射線を放出する同位元素の数量等を定める」基準であって、被曝限度を定めたものではない。

つまり日本の法律では、発電所の外に排出する放射性物質の濃度を線源で規制しているだけで、一般住民の被曝限度についての事後的な規制はないのだ。たとえば「工場から出る排気中のダイオキシン濃度を*ppm以下にせよ」という規制は「住民が摂取するダイオキシンを*ppm以下にせよ」という規制とはまったく別だ。武田氏は、こんな初歩的な区別も知らないで原子力を語っているわけだ。

公衆被曝については、前の記事にも書いたようにICRPの「参考レベル」を勘案して地域ごとに決めることになっている。それは公衆被曝線量は線源で管理できないからだ。福島の場合は排出する線量が厳格に管理されているので、1mSvという原子炉等規制法の規定は無関係で、住民を帰宅させる基準はICRPが勧告するように1~20mSvの範囲で「最適化」すべきである。まさに橋下氏のいうように「大きな政策変更が迫られている」のだ。

追記:buvery氏の指摘で一部訂正した。

追記2:電力関係者からの指摘でマイナー修正した。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!
池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑