サービスとしてのFacebook、上場企業としてのFacebook、その狭間で揺れる経営陣 --- 楠木 秀憲

2012年08月19日 13:01

Facebookの株価がまた下落しています。ニューヨーク時間の17日16時、19.07ドルで引け、昨日からさらに4%の下落となりました。上場時の株価が38ドルだったことを考えれば、この3ヶ月で企業価値の半分の約4兆円が吹き飛んだことになります。


ここ数日のFacebook株価下落は、上場前からFacebook株を保持していた一部のインサイダー株主のロックアップ(株式売却禁止)期間が終了し、彼らが株を売却したことが原因だと言われています。上場時の半分の価格にも関わらず、インサイダー株主が大量に株を放出したのを見るにつけ、Facebookの株価がまだ割高であるという認識は内部の人間にとっても共通のものなのでしょう。

以前に投稿した「FacebookのIPOは確実に失敗した。では、IT業界はバブルなのか?」の中でも触れましたがSNSはマネタイズが難しく、SNSのもう一人の巨人であるTwitterもまた、確固たる収益源を確立できていません。FacebookもTwitterも、なんとかユーザー間の交流に企業広告を潜り込ませようと試行錯誤していますが、やり過ぎるとユーザー離れを起こすため大胆な方策が打てていないのが現状でしょう。

しかしそうは言っても、株式上場してしまい利益の追及という責任を負ったFacebookは、株主たちに還元するための利益を追求しなくてはなりません。今、Facebookの経営陣はユーザビリティを追求するサービスとしてのFacebookと、利益を追求する上場企業としてのFacebookの二兎を追わなくてはいけないのです。

さて、では何故Facebookはここまで世界にインパクトを与え数々の常識を覆しつつも、利益の追及という企業本来の使命に苦しんでいるのでしょうか。ここには大きく2つの理由があります。

1つは、ユーザーにとってFacebookを含めたITサービスがもはや社会インフラ化しお金を払う対象としての価値がゼロになったから。そしてもう1つは、SNSというビジネスモデルがまだ未熟で、関連企業(特に広告主)にとって価値がないサービスだからです。ユーザーと関連企業、そのどちらからも価値を見出されにくいからこそ、Facebookは収益化に苦しんでいるのです。

前者について説明します。もはやプログラミングが読み書き算数と並んで教養の一つになったと言っても過言ではない現在、ITサービス業界は競争過多に苦しんでいます。というのも、ITサービスは製作コストが低いため参入障壁が低く、また著作権関係の法律も整備されていないこともあって簡単にアイデを真似することができ、さらにはユーザーがサービスを切り替える時のスイッチングコストも低くなっています。

加えて、趣味でプログラミングを嗜む人が無料で良いサービスを提供してしまうことも年々増えており、どんな斬新なサービスを提供しても圧倒的な安価(もしくは無料)で追随してくる競合がすぐに現れるのです。Facebookについても同様で、万が一Facebookが既存のユーザーに対して月額の定額課金を求めた場合にはユーザーは何のためらいもなくFacebook離れを起こし、同業他社はここぞとばかりにあの手この手を使ってユーザーの獲得に走るでしょう。もちろん、無料のサービスとして。

SNSがユーザーにとって価値あるサービスであるためには、ハンゲームやモバゲー、GREEのようにゲーム性を持たせアバターやアイテム課金で収入を得るのが手っ取り早い手段ですが、この役割は現在ジンガが担っており、Facebook自身はあくまで一般的な交流を目的としたSNSとしての立場を崩さないでしょう。となるとユーザーからの収益を期待するのは急に難しくなります。

次に関連企業にとっての価値ですが、これはやはり広告が最も容易に想像がつく収入源となります。そしてSNSと広告の相性の悪さも、もはや語り尽くされた議論です。

しかし、ここにはまだまだ可能性が隠されているように思えます。というのも、企業はマーケティング戦略としてSNSにただ広告を打つだけではなく、Facebook、Twitter、YoutTubeのアカウントを駆使してユーザーとコミュニケーションをとるようになっているのです。WIRED JAPANの「【2012年版】世界トップ企業のソーシャルマーケティング事情」という記事に書かれていますが、SAMUSUNGやTOYOTA、ヒューレット・パッカード等のソーシャルマーケティングを得意とする企業においてこの傾向が顕著なようです。

僕はよくSNSにおける企業広告を「バーで友達と楽しく飲んでる時に車のビラを渡されるようなもの」と例えるのですが、要は興味の無い商品を、しかもただ見せるだけの広告をしているから誰も買ってくれないのです。それがもし現在購入を検討している商品、あるいはその類似品で、しかもキャンペーンガールみたいな人が薦めてきたらどうでしょう? 少なくとも、これまでよりは話を聞いてみようかな、という気になるはずです。

これはあくまで一例ですが、このようにSNS上において購買活動を推進することは不可能ではないはずです。そしてFacebokは、間違いなくこの道を模索している真っ最中でしょう。

以上に見たように、Facebookの経営陣はサービスとしてのFacebookと上場企業としてのFacebookを両立するために奮闘しています。果たして、ザッカーバーグはその折り合いをつけ成長を続けられるのか。もしそれが可能になれば、Facebookはただのユーザー間交流の場から、企業も含めたあらゆる情報が行き交う場として独自の地位を築くことになるでしょう。今後も、Facebookの動向から目が離せません。

楠木 秀憲(くすのき ひでのり)
京都大学経済学部

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