2012年は有料電子コンテンツ元年となるか?

藤沢 数希

「AmazonのKindleやAppleのiBooksが日本でもスタートし、今年は電子書籍元年になる」などということが言われ始めてからすでに数年が経過したが、日本では未だに電子書籍は普及していない。楽天のkoboなど、Amazon、Apple以外からは、電子書籍端末が発売されているが、肝心のコンテンツの方が追いついていない。小説家などのテキスト・ベースの作家は依然として紙の書籍市場に依存しているし、実用書を書いている作家も紙の書籍市場がメインで、電子書籍の方は紙で本を出版した時におまけで出して実際に売上もほとんどない、というのが現状だ。日本の電子書籍が振るわない一方で、出版不況と言われて久しいが、本と雑誌の市場規模は未だに1兆8000億円もある。


アメリカでは電子書籍が普及しているようなことが言われているが、その市場規模は未だに1000億円もなく、大きくない。実は、日本の電子書籍の市場規模は約700億円と、アメリカに匹敵する規模である。これは、日本では携帯電話の通話料金といっしょに課金するパスを使って携帯向けのマンガがかなり売れているからだ。ビジネスモデルとしてはグリーやモバゲーの携帯ゲームと同じだ。また、著作権に問題のあるアダルト同人誌(既存のアニメの人気キャラクターなどを使ったポルノ)の電子書籍の市場もかなり大きいようだ。日本は、多くの人が想像する「電子書籍」とは違う種類の電子コンテンツの市場ができているのだが、おそらく筆者の記事を読んでいるようなビジネスマンは、こうした携帯マンガも携帯ゲームも同人誌も一度も買ったことがない、という人がほとんどだろう。筆者も買ったことがない。これらは市場規模こそそれなりに大きいが、パチンコといっしょで、特殊なユーザー層が大きな支出をしているだけなのだろう。

ということで、日本で、まともな電子コンテンツで課金がそれなりに上手く行ったのは、今のところ有料メルマガだけなのである。

ブログとツイッター、そして有料メルマガという、古典的ともいえるこれらのテクノロジーを駆使した「個人メディア」というジャンルを最初に確立したのは、ホリエモンこと堀江貴文氏である。堀江氏は、現在でも刑務所の中からメルマガを発行しており、メルマガだけで年商1億円以上を稼ぎ出しているといわれている。最近では、インターネットで活躍していた何人かの人気ブロガーが、堀江氏が確立したビジネスモデルをコピーし、それぞれが電子コンテンツの生産を続けている。筆者もそのひとりだ

有料メルマガがある程度普及するまでの間、ブロガーがまともなオリジナル・コンテンツで収入を得ようと思うと、GoogleやAmazonのアフィリエイトしかなく、会社員を辞めて生活できるほどの収入を安定的に得る、ということはかなり難しかった。また、GoogleのAd Senseはページビューをひたすら上げようという少し歪んだインセンティブが働くし、Amazonアソシエイトで稼ごうと思うと、当然だが本の紹介を頻繁にしないといけない。その点で、電子コンテンツの作者にとって、有料メルマガで収入を得るというのは、良いコンテンツを作って購読者数を増やすという、既存のアフィリエイトよりも、健全なインセンティブであると思う。

有料メルマガは以前からあったのだが、ホリエモン以前は、競馬の予想や株の予想、美容や自己啓発など、胡散臭い情報商材的なものが多かった。実は、有料メルマガで、まともな電子コンテンツが出回りだしたのは、この1、2年の話なのだ。そしてその市場規模は現在でも、おそらく10億円~20億円程度だ。筆者は、書籍や雑誌の市場規模が2兆円弱もあることを考えると、有料メルマガの市場規模は100億円程度までは簡単に成長すると思うのだが、どうだろうか。あるいは、個人のクリエイターが、有料メルマガ以外で、電子コンテンツに課金できる方法が出てくるのだろうか。

参考資料
「出版物販売額7年連続減少、書籍は下げ止まり」 JAGAT、2012年7月28日
「電子書籍市場の現在と電子書籍がもたらすビジネスチャンス」第161回NRIメディアフォーラム、2011年10月5日
「電子書籍市場全体は629億円、2016年度に2,000億円規模へ成長と予測」電子書籍ビジネス調査報告書2012、2012年7月3日
「伊藤直也さんのメルマガについてのコメントに関連して」isologue、2012年8月23日
「電子コンテンツ・ビジネス雑感」金融日記、2012年4月10日