「所有する」から「借りる」時代の到来 --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

高度成長期、車は買い換えるたびに車格が上がり、最後は「クラウン」が最高峰でした。一方、田中角栄元首相は不動産に対する魅力を国民に教えてくれました。我も我もと投資用不動産を買ったり、60歳からの資産活用、アパート経営と称して更に借金をしてアパート建設をして事業をする方も多かったと思います。

これらは「持つ資産」をベースに経済が廻っていることを意味しています。今でも結婚したら早いうちにマンション買ってローンは定年退職するより早く払い終わることを願っている家庭は多いことでしょう。そのために子供の教育費を捻出し、住宅ローンを払ったら給与は何も残らない、という家庭は多いのではないでしょうか?


私の知り合いが東京近郊で新築マンションを3500万円で買いましたが2年後には市場価値は3000万円を切っていました。住宅ローンの組み方次第では10年経ってもローン残高と住宅価値が同じ程度になる人も多いかと思います。

日経新聞で中古マンションの値引き実態という記事が出ていますが、これも恐ろしい内容で中古マンションを不動産業者を通じて売り出してから3ヶ月以内の成約ならば値引率は10%以内ですが、1年以上リスティングしていると値引きは2割以上に及ぶというのです。となれば机上計算の住宅価格も実勢となればもっと下がっている可能性があるということです。

理由は日本は世帯数より住宅戸数がはるかに多く、少子化で移民も厳しいですから不動産の絶対需要は生まれないということです。

要は今後、資産を持つことが必ずしも我々の生活を豊かにするわけではない、ということであります。ところで不動産価格が暴落したアメリカで不動産を買い漁る動きがあります。日本からもファンドが動いています。理由は持てる人と持てない人のギャップをついたビジネス。要は資金を持つ投資家、会社が資産を保有し、資産を持てない人が住宅を賃貸をすることで双方の欲求を満たすというわけです。

この流れは今後、不動産に限らず、自動車や、自転車、家財道具に至るまで浸透していくはずです。例えば訪米人はバカンスが好きですが、宿泊代はバカになりません。そこで流行ったのがハウスエクスチェンジ。例えば8月の2週間、バンクーバーにいるA家とパリに住むB家が家をスワップするのです。これは旅行までシェアをすると言ってもよいでしょう。

もっとあります。私の会社で所有するマリーナ内でボートシェアのビジネスをしている会社が入っています。45LFのクルーザーとなれば購入すれば3000万円は下りません。更に高額の維持管理費、航海に出ればガソリンは捨てて走っているようなものです。とてつもないコストがかかるのに年間にクルーズするのはせいぜい4、5回。いくら富裕層でもたまらない浪費とわかっています。そこで一艘のクルーザーを4人でシェアし、エージェントはいつもボートをピカピカの状態でボートシェアをしていると感じさせないことをビジネスとしているのです。

人々の価値観は長期的に所有する喜びや独占的所有から借りたりシェアしたりする喜びに代わっていくのでしょうか? そうであるとすれば所有し、貸し出すビジネスは今後更に花咲くということになりそうです。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年8月31日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。