水資源の今後

2012年09月02日 08:51

現在、水を得る手段は、地下水のくみ上げ、ダムや川、湖沼からの取水以外になく、新たな技術革新は期待できない(海水の淡水化などもあるが高価であり量的にも問題にならない)。今後、食糧生産の限界と、水資源の有限性の問題が、エネルギー問題よりはるかに大きな問題になると考えられる。 

ここでは、今後の水資源の問題を、分かり易いように、シミュレーションを交えて考えたい。


森林の保水力のメカニズム

まず水資源を支える森林の、森林の保水力のメカニズムを簡単に紹介しよう。

日本の国土の約67%に当たる2,500万haは森林に覆われており、その多くは水源地帯にあり、その保水能力は日本の水資源を支えている。

森林の保水力のメカニズムは以下のように説明される。 森林に降った雨が、一部を除き土壌に到達し、土壌中に浸透した雨水は、土壌の孔隙に一時貯留され、植物に吸収されたり地表面から蒸発する部分を除いた残余分が徐々に移動流出すると考えられている。すなわち、森林の持つ保水機能の主役は「土壌」が担っていることになる。実際、植物は水の大量消費者という側面も持つため、渇水時に植生の豊かな地域の方が川の流量が少ないということも起こり得る。

しかし、降雨の受け入れ口として重要な働きを持つ最表層の土壌は、健全な森林によって保護されている。 実際、ヒノキなどの人工林で適切な間伐が行われず、林床植生が欠如して地表面が裸地化すると、雨滴衝撃によって降雨浸透能の高い表層土壌が流出したり目詰まりして、大雨の時に十分に降雨を土壌中に浸透できなくなるということが起こる。

従って、木の根が地上に露出するような、荒廃した森林では、降雨のたびに土砂が大量に流出するので土砂災害の温床となることもあり得るし、保水性という面でも健全な森林に比べて劣る。 日本の森林、特に人工林は手入れ不足が深刻で、土壌侵食が進んでいる場所も多く報告されている。また最近、シカの増加により、下草が食べ尽くされた荒廃した森林が多くみられるようになっている。

森林の荒廃による保水機能の低下や、土壌流出は、土壌の生成や成熟には、数百年から数千年オーダーの長期間を要することを考えると深刻な問題である。

今後、温暖化の進行と共に森林の荒廃が進むと思われるが、これは森林の保水メカニズムを通して、我々の生活に影響する。具体的には、保水機能の低下による、土壌流出、山崩れ、洪水の頻発、ダムへの土壌の流れ込みによる水質の悪化、貯水機能の低下や、やや長期では地下水位の低下などが考えられる。
 

降雨のパターンと森林の保水力

最近の雨の降り方は、異常だと気付かれている方も多いと思うが、これは実際データでも確かめられる。 

山崩れの中、表層だけでなく深層の地盤まで崩壊土塊に含まれる大規模なものを深層崩壊という。昨年の台風12号で起きた奈良県吉野川水系の大規模土石流がその一例であるが、それが近年増加している。

「近年、深層崩壊が目立つようになった」ということが専門家の間でも話題になっています。確かにここ10数年はほぼ毎年のように、豪雨または融雪による深層崩壊が発生しています(図2)。また、深層崩壊が大きな雨のときに発生することから考えて、気候変動等により降雨の規模が増大するに従い、深層崩壊の発生数が増大する可能性が高くなるといえると思います。しかし、長期的に見て深層崩壊は増加傾向なのか? 降雨規模の増大に伴いどの程度深層崩壊が増加するのか?などについては、もう少し研究が必要です。

「深層崩壊のメカニズム」 より引用)

日本での深層崩壊は、1990年代 13カ所 → 2000年代 21カ所と倍近くに増加している。 元々、深層崩壊は数百年に1度といった頻度でしか起こらない稀な災害と考えれていたが、異常気象がもたらす記録的な豪雨が、土砂災害を激化させた。

一般に森林の洪水防止機能は高いと考えられてきたが、小中規模の洪水の防止機能は高いが、短時間で大量の雨が降るような場合には、その機能は、ほとんど期待できないということが、最近の研究で判明している。

気候変動による、降雨パターンの変化は、山崩れを多発させる。また集中豪雨のような雨の降り方は、水資源の確保という意味でも効率が落ちる。

シミュレーション

しかしながら、都会に暮らす人間にとって、森林の荒廃、深層崩壊といった問題は身近なものとは、言い難い。 山が荒廃しても、深層崩壊が起こっても、都会に住む人には関係ないと思う人もいるだろう。

そこで、2050年前後に現在より1.5℃気温が上昇したと想定して、日記風にシミュレーションをしてみよう。

2月×日 今年の冬は富士山が毎日のように見えた。空気が乾燥しているためだそうだ。 また最近は春先の砂塵がひどい。森林が荒廃し、露出した地表の土が強い風で運ばれたものだそうだ。

3月×日 昔は花見の名所として有名だったそうだが、職場に近い上野公園の桜は、ここのところほとんど咲かなくなった上に、かなり枯れてしまった。暖冬のせいで花芽ができないのだそうだ。今では、奥多摩に行かないと花見はできなくなった。

6月×日 最近は梅雨の期間の雨量は、ここ100年の平均と変わらないものの、まとめて雨が降る。ニュースでは、今年もあちこちで、地滑りの被害が心配されている。今世紀、今までに、地滑りや、枯死で日本の森林面積の20%近くが失われたそうだ。尾根のように水はけのよいところから、枯死が拡がっている。気温の上昇でストレスを受けた木が、キクイムシに食害されどんどん枯れているそうだ。

7月×日 今年は梅雨らしい梅雨がないまま梅雨が明けた。 まとめて豪雨があるだけだ。 韓国は大水害のようだ。梅雨前線の位置が北にずれたためらしい。今日の最高気温は38℃だが、電力不足でエアコンが使えない。今日も、どのくらいの人が暑さで死ぬのだろうか。

8月×日 今日はついに最高気温が40℃を超えた。遠くに見える丹沢は茶色に見える。木が枯れ始めているのだろう。あちこちに地滑りの跡が見える。豪雨の爪痕だ。 今年もダムの水位が下がって、風呂には入れない。そもそも、水源林の荒廃のために土壌侵食がひどく、大雨の度に大量の土砂がダムに流れ込むために、ダムが土砂で埋まっている。 ニュースでは、タオルで体を拭くだけにしてくださいとの呼びかけがなされている。森林の枯死が進んで、ダムに表土を侵食した泥水が流れ込むために、水に細かい泥がまじるようになったので、ろ過装置を使わないと水が飲めない。

9月×日 大型の強い台風が九州を直撃した。ソーラーパネルがかなりやられたので、九州では停電が続いているところが多いようだ。 しかし、東京には、ここ一か月雨が降っていない。高温と渇水で、関東の田は殆ど収穫が期待できないらしい。これから先の食糧事情が心配だ。九州では、台風の影響で至るところで地滑りが起きている。

10月×日 まだ水の使用制限は続いている。今日のニュースによると今年の米の作柄は最悪のようだ。8月の干ばつでひび割れた田に枯れた稲の映像が報道されていたが、水不足で、稲からサツマイモへの転作が奨励されている。 今やサツマイモが主食になりつつある。

以上のシミュレーションは、あくまで私の主観に基づくものであるが、それほど外れてはいないだろう。

まとめ 

地球温暖化による気候変動は、実際に我々の生活を一変させる可能性が高い。温暖化の影響が顕在化した場合、上の水資源に関する影響の考察を見ても分かるように、何か、対策をとるということは、ほとんど不可能である。

追伸:今晩NHKスペシャルで午後9時から深層崩壊についての放送があります。興味のおありの方はご覧ください。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑