在米のエンジニアに聞く米国スマートグリッド事情

2012年09月05日 07:00

GEPRの提携するNPO法人国際環境経済研究所(IEEI)のサイトから、電力改革研究会による報告を転載します。(IEEI版

(本文)
米国では発送電分離による電力自由化が進展している上に、スマートメーターやデマンドレスポンスの技術が普及するなどスマートグリッド化が進展しており、それに比べると日本の電力システムは立ち遅れている、あるいは日本では電力会社がガラバゴス的な電力システムを作りあげているなどの報道をよく耳にする。しかし米国内の事情通に聞くと、必ずしもそうではないようだ。実際のところはどうなのだろうか。今回は米国在住の若手電気系エンジニアからの報告を掲載する。


一般家庭まで自由化されているのは一部の州

私は現在テネシー州に住んでいるが、電力会社を選ぶことはできず自宅のある地区に電気を供給するLCUB社という名の小さな公営の電力会社と契約している。

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(図1)LCUB社の供給エリア

ここテネシー州では、大口の需要家も含めて電力の小売自由化は行われていないのだ。米国では州単位で電力自由化が進められており、一般家庭まで自由化されているのは、2011年12月時点で16州とワシントンD.Cにとどまっている(図2)。以前、一部の日本メディアが「自由化した結果、米国には3千を超える電力会社がある」と報じたらしいが、自由化する前からその数の電力会社が存在しているのであり、明らかな誤報である。

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(図2)米国各州の小売自由化状況

テキサスの小規模電力会社の料金体型

LCUB社の一般家庭向け料金メニューは、従量制(基本料金+使用電力量×従量料金)の1つだけであるが、一般家庭の平均的な電力使用量が1200kWh/月と日本の4倍程度多いにも係わらず、約$120(約9600円)と極めて安い(東京電力の場合、一般家庭の平均的な電力使用量は290kWh/月、電気料金は約7000円となる)。

当然ながらテネシー州では電気料金に対する不満は少なく、料金メニューの多様化や、電力自由化を進める要望や必要性が小さかった(なおテネシー州には連邦営のTVAという水力発電主体の卸電力会社があり、LCUBなどの小さな会社はそこから安価な電力を調達できる)。

電力自由化が進むと、安価な電源を有する電気代の安い地域から、電気代の高い地域に電気が送られてしまい、もともと電気代の安価な地域では逆に電気代が上昇する懸念があることも、小売自由化が進まない一因と考えられる。

●LCUB社の電気料金(2012年6月)
基本料金$15.26 従量料金$0.08899/kWh

ただLCUB社と契約している一般家庭が選べるオプションメニューが1つある。「グリーンパワースイッチ」といって、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの導入にかかるコストを負担するもので、150kWh/ブロックが$4で、合計8ブロックまで、一般家庭の平均的な電力使用量の1200kWhまで購入することができる。余分にコストを負担しても、再生可能エネルギーの電気を使いたいという需要家の声に応えるものだ。これは、日本のグリーン電力証書と同等の仕組みだろう。

日本でも2012年7月から再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度が始まったが、再生可能エネルギーの電気として既存電源の電気よりも高値で買い取ったコストは、全国の需要家が一律に電気料金の一部として負担することになっていると聞く。

しかし再生可能エネルギーの電気をもっと使いたいという需要家の声に応え、同時に、その需要家に応分のコストを負担してもらうためにも、日本でも同様のメニューを用意することは有用ではないだろうか。その方が全国の需要家に一律の負担を求めるよりもフェアなのではないか。

スマートメーターの普及状況

最近、日本の知人からメーターはどのようなものが設置されているかという質問を受けたが、わが家の電力メーターは電子式ではあるが、電力量しか表示しておらず、いわゆるスマートメーターではない(30分間隔など定期的な検針機能、双方向通信機能、遠隔開閉機能などを有する次世代のメーターをスマートメーターという)。

メーカーのホームページによれば、機能を拡張してスマートメーターとすることも可能のようだが、そもそも自由化されていない、料金メニューも従量制の1つしかない小さな電力会社にとっては、高いだけの余計な機能ということだろう(スマートメーターの設置コストは小売料金に転嫁されることになるため、導入にあたっては、電力の小売り料金の規制権限を有する州規制当局による費用対便益の審査と認可が必要となる)。

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(図3)LCBU社の電力メーター

なお、米国における私営電力会社の団体であるエジソン電気協会(EEI)によると、米国全体では2012年5月現在で一般家庭のおよそ1/3にあたる約3600万軒にスマートメーターが導入されており、2015年までに半数以上の約6500万軒まで拡大される見通しであるという。

しかし私には、LCUB社のような一地域の小さな電力会社が、莫大なコストをかけてスマートメーターを全需要家に導入するとは思えない。米国のスマートグリッドブームは、一部の地域や分野を除いて、政府の補助金がなくなれば終わるのではないか、実際、補助金による実証実験に過ぎないのではないか、と半信半疑に思っている人が少なくない。

デマンドレスポンス事情

最近の調査によると、時間帯別料金(TOU)や、クリティカルピーク料金をはじめとするダイナミック料金などの料金メニューを利用している一般家庭は、全米の約1%、約110万軒にすぎず、そのうちおよそ99%がTOUであるという。一方、日本でTOUを利用している一般家庭は、およそ8%、約600万軒であり、料金メニューの普及という点において、比率、軒数共に、実は日本の方が進んでいるといえる。

ただし米国では、直接需要家の機器を制御するデマンドレスポンス(Direct Load Control: DLC)が実用化され、効果を発揮している。メリーランド州ボルチモア市を中心に電力を供給するBGE社では、昨年7月の記録的猛暑日にデマンドレスポンスを発動し、約60万kWの需要を抑制して停電を回避した。同プログラムは、単方向の無線システムにより、加入者の主にセントラルエアコンを直接制御するもので、加入者は自らが選択したメニュー(1時間あたりの停止時間)に応じた対価を得ることができる。

単方向無線を利用しているため、正常に動作したか否かの確認はできないが、直接制御によるシンプルかつ費用対効果の高いシステムである。ただし、こちらのセントラルエアコンシステムは、室温がサーモスタットの設定温度に達すると、中央の熱源器の接点をオン・オフするだけのシンプルな仕組みで温度を制御しているため、このような直接制御が非常に容易であることは日本と事情が異なる。

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(図4)BGE社のデマンドレスポンスメニュー

なお、日米共に今後は、スマートメーターの普及にあわせ、デマンドレスポンスの活用がさらに進んでいくものと思われるが、両国のライフスタイルや主流となる使用機器などの相違により、効果的なデマンドレスポンスの手法も異なる可能性があることは認識しておくべきである。そもそも前述した通り日米では一般的な家庭の電力使用量が大きく異なる。

また、米国ではセントラル方式のエアコンが主流であり、日本のようなインバーター制御エアコンはごく僅か、留守中も入れっぱなしで設定温度も低いなど、生活スタイルの違いもある。日本では家電機器の省エネや節電が進んでおり、デマンドレスポンスによる需要抑制・需要シフトの余地も小さいことから、太陽光発電などの分散電源やEV、家庭用蓄電池やヒートポンプ式給湯機などの蓄エネルギー機器の普及を図りつつ、デマンドレスポンスを活用していくことが有効だと考える。

米国の電力会社はマイペース

最近ではそうでもないようだが、日本でスマートグリッドが盛り上がり始めた当初、日本の電力会社は、日本の電力システムはすでにスマートだといって、非常に後ろ向きであったと聞く。米国のスマートグリッド技術が日本より進んでいるという認識は誤りで、誤解を恐れずにいえば、米国のスマートグリッドとは、多くの場合、スマートメーター(基本的には遠隔検針機能だけ)と日本では既に普及済みの配電自動化を目指しているのが実態だ。しかし一部には先進的な取り組みを行っているプロジェクト・電力会社もあり、個別の事例からは日本もよく学ぶ必要がある。

米国では国立標準技術研究所(NIST)が規格化を主導しているが、スピードが速いだけでなく、細部を追うには内容が複雑なため、こちらの電力会社の多くはついていけていないように見える。ただし、NISTのいうことを聞いていれば補助金がもらえる可能性があり、電力事業を規制・監督する連邦エネルギー規制委員会(FERC)の規則になると面倒なので、最低限付き合っているのが現状だ。NISTもその点はよく理解しており、補助金をエサに電力会社を自分たちの方を向かせようとしている。
 

また、メーカーや情報通信会社などが商機と捉え、新技術の導入、データ開示などの様々な意見・提案を電力会社にしているが、「それはあなたが儲けたいだけでしょう」と冷静で、参考意見程度にしか見ていないようだ。ただし自分の利害に関係しそうな場合には、新しい技術・ビジネスモデルを取り入れることに比較的柔軟で、少なくとも「これまで問題がなかったからこのままで良い」という消極的な考え方ではない。日本の電力会社も見習うべきだろう。

一方で、電力会社の技術をサポートする、独立・中立の研究組織である米国電力研究所(EPRI)の技術者は、「メーカーからの技術提案を鵜呑みにしないために、電力会社はしっかりと技術を理解しないといけない」といっている。中小の電力会社が非常に多い米国ならではの問題を感じさせる話である。

なおEPRIの技術者は、電力会社に独自仕様ではなく、世界の標準・規格に合わせた設備を持つことを推奨している。それは結果的に、長い目で見て調達・運用コストが安くすむと考えられるためだ。これは何かにつけて独自仕様をつくりたがる日本の電力会社にも通じる話である。

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