石油を食べる人々

2012年09月07日 09:44

我々の体に含まれる窒素の中、半分は石油エネルギーを使って、工業的に生成されたアンモニアに由来する、と知ったら驚く人も多いだろうが、これは本当のことだ。 

また、現在、我々は、収穫物から食物として得られるエネルギーよりも遥かに多くのエネルギーを農地に投入している。 

即ち、我々は膨大な石油エネルギーを食糧に変えて生活している。この持続不可能な生活から抜け出すことはできるだろうか?


石油を浪費する農業

20世紀に食糧生産が増加し、人口爆発が起こったのは、20世紀初めに空中窒素固定法(ハーバー・ボッシュ法)が発見されたことが原因である。即ち、工業的に製造された窒素肥料の投入によって、単収(単位面積当たりの収穫量)が飛躍的に増加した。 実際、世界穀物生産は、1950年6億3100万トンから2011年23億1000万トンへと3.5倍に増加している。食糧生産に消費される肥料の量は窒素肥料で年8000万トン(1995)、リン酸肥料、カリ肥料を合わせると1億3000万トンにもなる。 これは全耕地面積1ha当り約90kgに相当する。 カリウム、リン資源はそれぞれ数か国に局在し、囲い込みや争奪戦が起こっている。

エネルギー収支をみると、我々は、化学肥料、農業機械など農業に大量のエネルギーを投入している。日本の稲作の場合、産出エネルギー/投入エネルギーは、1970年の時点で0.466となっている( 「有機農業と途上国の農業」参照)。 これは、有機農業に近かった1950年の1.269を大幅に下回っている。 即ち、1ha当りの投入エネルギーは1950年から1970年にかけて4倍に増加し、これに伴って産出エネルギーは約1.5倍に増加しているが、その結果、投入エネルギーが産出エネルギーを上回っている。つまり、現在の農業は、石油を農産物に変えていると言っても過言ではない。

農業は、光合成を用いてCO2を吸収するどころか、巨大なCO2排出源なのである。

その上、加工食品ともなれば、包装、冷蔵、調理などに大量のエネルギーが必要なので、我々は化石エネルギーを食べているといってもよい状態である(この意味で、日本が自給率向上を目指すというのはナンセンスである)。

しかし、現在、中国、インドといった国でも化学肥料投下の増加による収穫の拡大は頭打ちになってきており、投入エネルギーの増加は収穫量の増加に結びつかなくなりつつあるし、人為的に生成された窒素化合物が深刻な環境汚染を引き起こしつつある。 

2050年には約90億人に達するという世界人口を支えるのは極めて困難だ。現在一人あたり一日約3800キロカロリー分の穀物が生産されているが、これは一人当たり2000キロカロリーという必要量より多い。しかし、牛肉1キロを生産するのに約20キロの穀物が必要で、現在の日本人の食生活は、一人当たり一日5400キロカロリー分の穀物を消費している計算になる(「篠原氏の論説」参照)。国際標準の3800キロカロリー分の穀物消費ではかなり貧しい食事となる。例えば、牛肉に換算すると、50グラムの牛肉を食べたら、その日は他の食事は採れない計算だ。 

石油がピークアウトしているが、天然ガス(シェールガス)に転換すればよいというほど問題は単純ではない。 温暖化の問題や、水資源の問題などもある。 

現代の農業は、いろいろな意味で持続可能ではない:

(1) 石油生産のピークアウト
(2) 水資源の枯渇  
(3) 気候変動による異常気象
(4) 土壌の劣化

といった問題がある。

このうち(2),(3)については既に「食糧生産と世界人口」「水資源の今後」などで述べているので、(4)について述べよう。

表土という資源

有機肥料を用いず、化学肥料だけを用いた土は粘土質になり、固くなり易い。特に、豪雨の後で、乾燥すると、粘土化した土は、作物の根を窒息させる。堆肥など有機物を常に補充しないと、空隙が維持できない。化学肥料を長期に渡って使用し続けると土壌は酸性化し、作物が栄養を吸収しにくくなる。 また農地の土壌は、草や木で覆われていないため、水や風の侵食により失われる。現在、世界中の農地で土壌の劣化が進んでいる。

次の記事(の抜粋)が参考になるだろう:

土壌劣化の原因は、土の性質が多種多様なのと同じくらい、実に多様だ。米国では、連邦政府が農地を保護しないわけにはいかなくなった1930年代以降、土は守られてきた。しかしそれでも北米の農家は毎年1%ずつのペースで表土を失っているのだ。地質学者で「Dirt: The Erosion of Civilisations(土、文明の劣化)」という著書のあるデビッド・モンゴメリ氏は、そう指摘する。土壌劣化は多くの場合、水による浸食が原因だ。降る雨のせいで、あるいは時には灌漑(かんがい)までもが原因となって、表土が川やダムに流出してしまうのだ。1990年代に科学雑誌「サイエンス」に掲載された論文によると、土壌浸食が米国経済にもたらす損失は年間440億ドル(約4.8兆円)にもなるという。

世界主要の小麦生産国オーストラリアでは、土壌の塩害が深刻な問題だ。農家が地下の帯水層からどんどん水をくみ上げ、また長年にわたり大量の化学肥料や殺虫剤を使ってきたことが、土地を痛めつけているのだ。

欧州連合(EU)は問題に取り組むため、「土壌保護令」を検討している。EUの共同研究センター(JRC)は2005年、「土壌地図帳」を発表。これによると南部ヨーロッパでは75%もの農地で土の有機成分量(肥沃かどうかの指標になる)が、懸念されるほど不足しているという。「土壌地図帳」の筆者のひとりでJRCの研究者アーウィン・ジョーンズ氏は「土というのは、再生不可能な資源だ。守るために行動しなくてはならない」と話す。

深さ約1メートルの表土は、人間文明の礎(いしずえ)を象徴するものだ。90億人もの人口を食べさせ続けなくてはならないというプレッシャーは、この貴重な資源をギリギリまで試すことになるだろう。

土がきしむ、やせ細る命の土壌に危機感――フィナンシャル・タイムズ

土壌を守ることは、我々の生存にとって死活的に重要だ。
なぜなら、土壌の生成や熟成には数百年から数千年という時間が必要だからだ。 土壌という面から見ても現在の農業は持続可能ではない。 土壌を持続可能にするのには、化学肥料を使わない有機農法を行うしかない。

持続可能な世界

このように、現在、我々は、何千年、何万年を掛けて蓄積された、大量の化石燃料を食糧に変えて暮らしているが、これは持続可能ではない。

現代農業と有機農法の違いは、化石燃料エネルギーと再生可能エネルギーの違いと同じである。持続可能性のあるのは、もちろん有機農法であるし、再生可能エネルギーなのだが、有機農法での単収は、現在の3分の1ほどである。 現在の世界人口70億人は有機農法で支えられる限界を遥かに超えている。 ここに大きな矛盾がある。つまり、再生可能エネルギーや、有機農法に依存した社会に転換するには、我々の人口は巨大過ぎるのだ。 

実際、化学肥料を使わなければ、30億人が世界人口の限界である。日本の場合は、3000万人が限度となる。環境の悪化を考えれば、今世紀末までに世界人口を10億人程度に減らす必要がある。

我々は、持続可能な生活のために、人口を減らさなくてはならないことは明らかだ。
少子化を嘆くのではなく、今こそ、世界人口を現在の10分の1程度にゆるやかに減少させる計画に着手すべきだ。

現在、原発事故や、二酸化炭素削減の必要性から再生可能エネルギーが注目されているが、農業も含めた広い視野を持つなら、世界人口の減少を同時に視野に入れなければ、持続可能な世界の実現可能性はない。

追伸 いつも暗い話で申し訳ありませんが、世の中の矛盾を指摘するのも、学者の役割だと思います。我々は本能を乗り越えないといけないと思います。

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