シャープの本当の問題は、結局どこにあったのか?

2012年09月10日 08:59

シャープの話題で持ちきりだ。日本の物作りを代表する優良企業と見られていた家電メーカーが、台湾の下請けから成り上がった企業により、救済に近い形で出資を受ける・・・・・・この一件からはシャープ一社の問題にとどまらず、まるで日本経済の行く末を暗示するような気味の悪さを感じている人も少なくないだろう。

すでに様々な分析は出揃ったので、今更語るべきことはもう無いと思っていたが、先日ヤフーのトップニュースではある専門用語が使われていた。


それが「フリーキャッシュフロー」という会計用語だ。記事にはシャープは営業利益が過去最高を更新した2007年3月期ですらフリーキャッシュフロー(FCF)はマイナスだった、と書かれている。記事には用語の説明が全く無く、やや不親切だろう。

これまでに公表されたシャープに関する記事はいずれも過剰な設備投資と液晶テレビの価格下落という視点から書かれていたので、多少視点を変えてキャッシュフローという視点からシャープの問題を考えてみたい。

上場企業は、利益・資産・資金繰りに関する情報を公開することが義務付けられている。いわゆる決算書とか財務諸表と呼ばれるもので、正確に言うと決算書以外の情報も含めた有価証券報告書(アニュアルレポート)を決算日から45日以内に公表することが東京証券取引所より義務付けられている(45日ルール)。

会計に興味がある人ならば、キャッシュフロー(CF)が資金繰りに関する情報であることは何となく分かるはずだが、正確に意味を理解している人は多くないだろう。会計に疎い人ならばなおさらだ。これは上場企業にキャッシュフロー計算書の公開が義務付けられてからまだ10年程度と歴史が浅いことも関係している。そこからさらにフリーキャッシュフローなどといわれると、ほとんどの人は意味が分からないに違いない。

キャッシュフロー計算書は営業CF・投資CF・財務CFの3つで構成される。3つの数字の関係は、「営業」で得た現金を、店舗や工場など設備への「投資」に回して、残ったお金で借金の返済を行って配当にまわす、あるいはその逆に資金が足りない場合は借り入れや株の発行で資金を調達するといった「財務」で調整する、という形になる(かなり大雑把に説明しているので、ちゃんと勉強をしたい方は専門書を参考に)。

わざわざ利益とは別に営業CFを計算する理由は、会計ルール上では発生主義といって収益や費用の発生と現金のやり取りを分けて考えるからだ。企業の取引では売り上げは発生していても回収はこれから、費用は発生していても支払いはまだ、といった事が普通に起こりうる。つまり利益だけを見ていては現金の増減はわからないということだ。加えて、企業活動が続くには支払いが滞りなく行われる必要があるので、キャッシュフローが経営に大きな影響を与えることは理解できるだろう。

黒字倒産という言い方があるが、会計ルール上は利益が出ているのに売り上げの回収が出来なかったばかりに資金繰りが止まってつぶれてしまう、という状況はまさに利益とCFの違いを良くあらわしている。キャッシュフローの概念は損益と資産・負債にまたがる考え方になるので、簿記会計の感覚がある人でもわかりにくい。

フリーキャッシュフローの簡易的な計算方法は営業CFと投資CFの合計額となる(投資CFは使った金額の分だけ通常はマイナスになるので、差し引くのではなく合計で計算)。つまり、本業で得た現金で設備投資をまかなえればFCFはプラス、まかなえなければマイナス、という事になる。利益が出ていても継続的に巨額の設備投資が必要な事業であれば、いつまでたってもFCFはプラスにならず、株や借金で資金調達をせざるを得なくなる。資金の出し手である投資家や金融機関にとっては金食い虫だ。

sharp

シャープの場合は2002年3月期から2012年3月期までの11期で、FCFが6回もマイナスとなっている。当然の事ながら、それをまかなうためには借り入れか株の発行が必要なのだが、シャープは借金に頼った。

シャープが韓国勢に負けた理由と持ち家の未来」で引用した記事によれば、液晶パネルの工場は着工から完成まで2年かかるとある。実際、かの有名な亀山工場も堺工場も着工から稼動まで2年もかかっている。

物作り企業は売り上げが発生する前に大規模な設備投資を行うのは当然で、この部分を完全に否定するのは無理がある。とはいえ、工場を作るだけで2年もかかるのであれば、投じた金額を回収するまでは10年単位の時間がかかってもおかしくないだろう。このようなリスクのある投資を借り入れ金だけに頼った事は大きな判断ミスだ。

2005年3月期の時点では総資産に占める固定負債(支払いが1年以上先の負債)はわずか8.1%だったものが、2012年3月期には22%まで上昇している。金額で言うと4000億円ほど固定負債が増えているが、これを半分でも株式の発行でまかなっていれば、台湾企業に振り回されるような事態にはまだ陥っていなかったに違いない。堺工場に着工した2007年頃、シャープの株価は2000円を越えていた。当時2000億円を新株の発行で調達していれば、必要な発行株数は1億株でシャープの総発行株数(約10億株)の1割程度で済んでいた事になる(当時のPBR2倍で資金調達となれば非常に有利な条件だ)。

今2000億円を新株の発行で調達しようとすれば、現在の株価200円程度で計算すれば10億株も必要となる。これは現在の発行株数とほぼ同じ数だ。仮にこの案を実行すれば、発行株数は一気に2倍となる。第三者割り当て増資で一社から調達すれば保有割合50%の超大株主が突如出現して経営権を完全に握られる。実際にはこれだけ株を発行すれば株価は急落するので、50%以上の株数が必要となる。普通に考えてここまで無茶な増資は出来ない。

2002年3月期から2008年3月期まではシャープは6期連続で売り上げ・利益とも更新を続けた。2007年に着工した堺工場はまさに絶頂期に行われた設備投資であると言える。新株発行で2000億円も資金を集めれば当然のことながら波風も立つ。既存株主は株式の希薄化(ダイリューション)といって、一株あたりの利益が減ってしまうからだ。業績が絶好調の時にあえて株主を刺激するよりは銀行と交渉して融資を引き出す、あるいは社債やCP(コマーシャルペーパー)を発行する方が経営陣にとって抵抗が少なかった事は想像に難くない(あくまで業績が好調であれば、という但し書きがつくが)。

2005年時点での自己資本比率は42.1%と、決して低くは無い。借り入れが多過ぎるという事も無かった。あえて株を発行する必要はない、金利も低いのだから資金が必要ならば借り入れで、というのは当然の判断ではあるが、ありとあらゆる電子機器が生鮮食品のように値下がりするトレンドを甘く見ていたフシはあるだろう。

低価格化から抜け出すために、大型パネルを製造できる堺工場を作ったことも間違いとはいえないのだろうが、JEITA(電子情報技術産業協会)のデータによればテレビの国内出荷台数は2000年以降、毎年700~1000万台で安定している(薄型・ブラウン管の合計)。家電エコポイントや地デジ化に沸いた2010年・2011年は出荷台数がそれぞれ2519万台、1982万台と急激な増加を示したが、これは異常値として見るべきだろう。

したがって海外出荷の急激な増加を見込める状況でなければ2007年時点での巨額の設備投資はかなりハイリスクだった(実際に2009年3月期には一度1258億円の大赤字に陥っている)。これを借り入れ金だけでまかなった事は見通しを誤ったと見るべきだろう。株で調達した資金をリスクマネーとも言うが、長期かつハイリスクな事業への投資資金は株でまかなう、というセオリーを経営陣は守るべきだった。

シャープの問題は液晶テレビの価格が下がった事・売れなくなった事以上に、売れなかった時に破綻しかねないほど借り入れ金が増えていた事、逆に言えば株による資金調達をためらった事が原因では無いのか。過去の借り入れ金の推移を見るとそのように言わざるを得ない。

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せっかくキャッシュフローに関する説明したので、投資とキャッシュフローの関係については改めて説明したい。

中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー
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中嶋 よしふみ
ファイナンシャルプランナー シェアーズカフェ・オンライン編集長

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