水資源の危機ー渇く地球

2012年09月14日 12:09

最近の首都圏の渇水を気にされている方も多いだろう。 しかし、喉元過ぎれば熱さを忘れる、と言う様に、人間の常として、長期的な変化には気付きにくい。

私は、長年の自然観察を通じて、山が乾燥してきている、という感触を持っていたが、実際、湿度の長期変化をグラフでみると、成程、確かに、湿度が減少傾向にあるらしい。
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「気候の長期推移グラフ」<降水量、湿度>より転載)

日本の国土は、長期的に乾燥する傾向にあるのかもしれない((注)参照)。

気候変動の問題というと、とかく気温の上昇が話題になるが、ここでは、水という切り口で考えてみたい。


科学技術の進歩はどれだけのものか

人類の進歩は目覚ましい。情報通信の進歩で、瞬時に世界中の人たちと、情報交換ができ、半導体の集積度の向上で、電子機器はどんどん小型化し、バイオテクノロジーの進歩で、遺伝子操作した作物が作られた。 科学技術の進歩は、これからも、人類に降りかかる様々な問題を解決してくれるだろう。 

しかし、その一方で、科学技術の限界を意識せざるを得ない問題も持ち上がっている。

それが、水資源の問題である。

食糧生産に大量の水が必要だからである。 例えば小麦1トンを収穫するのに約2000トンの水が必要であり、牛丼一杯を作るのに、およそ2トンの水が必要だとの試算がある。エネルギー生産にも大量の水が必要だ。現代の生活は大量の水を使って成り立っている。
  
地球に存在する水の量はおよそ14億㎞3あるが、淡水は2・5%しかなく、淡水の多くは南極、北極に氷として存在し、その他はO・8%。さらに、そのO・8%のほとんどが地下水で、河川、湖沼などの水量はわずか0・01%に過ぎない。このように水資源は限られている。

必要量は増しているのに、気候変動、地下水の過剰な汲み上げによる地下水位の低下、降雪の減少などによる水資源の減少が懸念されている。温暖化により、降水量が増加すると見込まれる地域でも、雨の降り方が集中豪雨のような降り方であれば、表土の侵食や、実際に使える水資源の減少が懸念される。水資源は、今後、減少するだろう。

しかし、我々の科学技術をもってしても、水資源を大幅に拡大するような方法は、今後も見つからないだろう。

緑の革命の功罪

第二次大戦後、強力に推し進められた、緑の革命は、穀物の単収(単位面積当たりの収量)を約3倍にした。 このため、人口爆発が起こったにも関わらず、現在、70億もの世界人口を支えるだけの食糧を、一応手に入れている。 しかしながら、緑の革命は、必ずしも良いことだけではなかった。 緑の革命は、水資源の浪費を前提に成り立っていたからである。

「緑の革命とその暴力」を読むとインド、パンジャブ地方の農業を、緑の革命がどのように変えたのかが、良くわかる。

1960年代初頭、インド北西部パンジャブ地方に多収穫品種の小麦が導入され、その後、多収穫品種の稲が導入された。 これらは、収穫を従来の3倍にしたが、1980年代に入る頃には早くも稲と小麦の生産性は限界に達し、農民の収益は低下した。 

単収の増加の一方、それらの多収穫品種は、大量の化学肥料、農薬、従来の3倍の水を必要とした。 その結果、大量の水の汲み上げにより地下水位が下がり、大量の水と化学肥料を使い続けた結果、灌漑による湛水と塩害で農地を荒廃させてしまったという。 さらには、地下水の農薬や硝酸塩による汚染が深刻化している。

この事例をエネルギー収支の観点から見ると、単収の増加は、かなりの部分、大量の化学肥料、水、農薬の投入という外部からのエネルギー投入によって引き起こされていることが分かる。 

このように、エネルギーを外部から大量に投入して収穫を増加させる方法には、砂漠化や環境汚染などの副作用があり、持続可能性に問題がある。結局、持続可能な農業とは、伝統的な農法に近いものになる。 

実際、現在、飢餓が問題になっているサブサハラで農業の生産性が上がらないのは、急速に増えた人口を養うために、伝統的な農法を棄て、休耕地をつくらず、無理に収穫を増やそうとしたため、土地が痩せてしまったためだという。サブサハラの状況は、この記事の文節: 

「目先の食事と収入をとりあえず何とかしなくてはならないという要請に、農民は突き動かされている。その結果、アフリカの農民は自分たちの貴重な資源(肥沃な土壌)を掘りつくしてしまっている。自分たちの資産を使いきってしまって、かつ再投資もできない状態だ」

に集約されるだろう。

しかし、エネルギーや水の大量投入を止めると、作物そのものの光合成のエネルギー効率を飛躍的に増大させない限り、単収は現在の3分の1程度に落ち込むことなり、これは70億人の世界人口を飢えさせることになる。 

水資源の危機

このように食糧生産には大量のエネルギー投入が必要なので、エネルギーの問題もあるが、何より水資源が足りない。現在、水資源の7割を農業用水として使っており、水資源の確保は食糧生産において決定的に重要である。

最近発表されたストックホルム国際水研究所の報告書「Feeding a Thirsty World,Challenges and Opportunities for a Water and Food Secure Future」は衝撃的なものだ。

この報告書によれば、国連により、2050年に約90億人に達すると予測される世界人口を支えるために、穀物生産を現在より70%も増やさなければならないと予測されているが、今後、水資源は減少する傾向にあるため、とても達成できず、2050年には人類はベジタリアンにならざるを得ないというものだ(「2050年、人類はみな草食に?」に内容が解説されている)。 ここ60年、世界の耕地面積がほとんど増えていないことや、90年以降、単収の伸びが鈍化し、人口増加率を下回る傾向にある(「食糧生産と世界人口」参照)ことを考えれば、この報告書は信憑性が高い。

今後、水資源を巡る争奪戦は激しさを増すだろう。実際、過去を振り返ると「緑の革命とその暴力」によれば、パンジャブ地方での、緑の革命による多収穫品種の導入は、多収穫品種は、在来種よりも水を大量に必要とするため、1980年代、巨大ダムの建設を機に、パンジャブ州内での水の争奪がひどくなり、インディラ・ガンジー首相の暗殺にまで発展してしまった、という(パンジャブ危機)。

人間は科学の力で、自然を征服し、70億という世界人口に達し、空前の繁栄を築いたかのように見えるが、実は、この繁栄は、持続可能性を欠いている。今後、我々は、この行き過ぎた繁栄の後始末をしなくてはならないようだ。 

(注)これは都市化と関係があるのかもしれないが、東京から富士山が見える日数が増加していることもあり、どうも確かなことのように思われる。

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