戦略物資としてのリン鉱石

2012年09月18日 12:19

戦国の武将、武田信玄は山囲まれた甲斐(今の山梨県)を所領としていたため、今川氏らに、塩の供給を断たれ領民は苦しんだ。 それを見かねた、上杉謙信は、武田氏とは敵対関係にありながら、越後から信濃に塩を送り、塩の高騰を防いだという。これが「敵に塩を送る」の起こりである。

戦国時代において、塩は戦略的物資であったように、地理的に遍在する資源は、戦略物資となり得る。

現代においては、原油、天然ガスは戦略物資として、良く知られているが、あまり意識されない戦略物資としてリン鉱石がある。 ここでは「リン資源枯渇の危機予測とそれに対応したリン有効利用技術開発」(2005) の内容を元に、戦略物資としてのリン鉱石を考えたい。


リン鉱石はなぜ重要か

リン鉱石が重要なのは、肥料の原料として、欠かせないからである。

農作物が生育するするには、二酸化炭素、水、光による光合成と共に、土壌から養分を吸収する必要がある。 これらの養分は、作物を刈り取って、人間が食べ、その排泄物が、農地に戻されないと、土壌の中から次第に欠乏し、土壌が痩せてくる。

従って、土壌に欠乏する栄養素を、外から補ってやる必要があり、これが、肥料である。

植物の三大栄養素として、窒素、リン、カリウムが知られるが、これらの物質が農作物の生育にともない、土壌から欠乏しやすい物質として知られるようになったのは、19世紀のリービッヒの発見による。即ち、窒素、リン、カリウムを常に補わないと、農業は成り立たない。

窒素は、ハーバー・ボッシュ法により、エネルギーさえあれば大気中の窒素を水素と反応させてアンモニアを作ることで、いくらでも供給できる。しかし、リン、カリウムは、現在のところ、鉱物資源(リン鉱石、カリウム鉱石)に頼っており、これらの資源は世界に遍在している。

特に、リン鉱石は、中国、モロッコだけで全世界の3分の2の埋蔵量があり、資源が遍在している。 

CEEP(ヨーロッパ化学工学評議会とリン酸工業協会の主催する団体)の予測によると、過去のリン消費量の伸び率に従い,リン酸肥料の消費が年間 3 %ずつ増加すると仮定すると,2060年代には現在の約 5 倍の年間消費量 2 億トンを超えてしまい,経済的に採掘できるリン鉱石はすべて枯渇するとされる(実際、有力産地であったナウルは資源がほぼ枯渇したとされる。 なおこの予測には異論もあり、やや厳しめなものらしい)。

現在、リン鉱石産出第一位の、中国は2008年、化学肥料の輸出関税を100%と大幅に引き上げ、リン鉱石の関税も100%に引き上げ、囲い込みを行っており(このため化成肥料が大幅に値上がりした)、第二位の米国も、輸出を禁止している。一方、日本はというとリンの収支は次のようになっている:

わが国はリン鉱石を生産せず,100%輸入に依存している。リン資源有効利用技術の開発はわが国にとって重要な問題である。わが国に持ち込まれるリンの総量はリンとして年間約70万トンとされている。その内訳はリン鉱石や肥料が約35万トン,農畜産物や海産物として持ち込まれるリンが約31万トン,その他工業原料として輸入されるリンが約 4 万トンである(図 2 )。そして生活圏から排出されるリンは土壌蓄積に約53万トン,水域に流出するリンは約 9 万トン,汚泥等の廃棄物として出てくるリンが約 5 万トン,輸出に約 1 万トンとなっている

「リン資源枯渇の危機予測とそれに対応したリン有効利用技術開発」(2005)より)

畑地にまかれたリンの多くは土壌に固定される。酸性土壌中では,酸化アルミや水酸化アルミニウムに結合し,アルカリの土壌ではカルシウムに結合して固定され、固定されたリンはそのままでは植物に吸収されない。 固定されるリンの量は膨大である。

これを見ると、汚泥などの廃棄物から、リンを回収したとしても、現在肥料として輸入している量にはとても及ばない。

こうしてみると、リン鉱石の有限性は、いずれ、化学肥料を使わない(使えない)農業への移行が不可避であることを示唆しているようである。

予想されるシナリオ

今後、既に顕在化しているリン鉱石資源の囲い込みが、より一層激しくなると思われる。 現在、尖閣諸島をめぐり日中の対立が激化しているが、リン鉱石をめぐる問題は、農業という食糧生産の根幹に関わる正に死活問題であり、対立が激化すれば深刻な事態に発展するだろう。
 
対策といっても限られているが、土壌に固定化されたリンを植物が吸収できる形に変える微生物の研究や、汚泥からのリンの抽出など、限りあるリン資源を有効に使ってゆくことがまずもとめられよう。

化学肥料を使わなければ、単収は現在の3分の1以下に落ち込む。 将来的には、世界人口を現在の3分の1以下にしなくてはならないだろう。そして、それは、今世紀中にやってくる可能性が高い。 

リン資源の枯渇に備えて、世界人口を減少させてゆくことが、平和な世界の維持に、どうしても必要になっているといえよう。 現在、人類は食物連鎖の頂点に立ちながら、全動物の中で、異常に大きな重量比に達しているようである(人類の総重量は、現在約3億トン程度もあり、これに匹敵する重量をもつものというとオキアミやアリなどしかないとされる)。 少なくとも、人類が物質的繁栄を続けることは、最早限界に達したようだ。

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