時間濃縮された資源利用の限界

2012年09月22日 18:16

スミナガシ
この写真のように、夏に山歩きをすると、チョウが肩に止まったり、人にまつわりついたりすることがある。また、水たまりや、動物の排泄物にチョウが多数集まって吸汁することがある。

これは何故だろうか? 


それは、チョウが人の汗や、水たまり、動物の排泄物から、ナトリウムやアンモニア、その他のミネラル分を摂取するからだと考えられている。

チョウにとって、こうやって、希少な栄養素を得ることは、生存や生殖のために欠かせないものらしい。 

実際、最近の広島大学名誉教授の本田計一氏らの研究によると、アゲハの一種が、アンモニアを摂取し、それを体内でタンパク質の合成に使うことで、精子の数が摂取しない場合と比較して3割増加し、生殖能力が増すという(多くのチョウの場合、ミネラルやアンモニアを吸汁するのは♂に限られる)。 自然界の生物にとって、窒素やミネラルといった自然界にありふれた物質であっても、効率的に摂取できる資源は限られており、それをこのように必死に探して命を繋いでいるわけである。

濃縮された資源の利用とエントロピーの増大

翻って、人間の生活を見ると、生存に必要な物質の多くを地下資源によって賄っている。これは、見方を変えると、濃縮された資源を使うことで、エントロピーを増大させていると捉えることができる。

リンは、それなしに生命は存在し得ない重要物質である。実際、人間の骨格はリン酸カルシウムが主成分であり、リンはATP(アデノシン3リン酸)の原料でもある。我々の命を支えるリンのかなりの部分は、年間1.4億トン採掘されているリン鉱石に由来する。一人当たり年間20キログラムのリン鉱石を消費している計算である。そしてそのリン鉱石は、生物が非常に長い時間を掛けて蓄積したリンの集まりである。つまり、我々は、生物が営々と蓄積してきた地下資源を大量に使うことで、命を繋いでいる。 

石油も同様にシアノバクテリアなどの生物の死骸が変性したものと考えられている。膨大な時間を掛けて蓄えられたエネルギーを人間は燃焼により一気に使ってしまっているわけだ。 石油エネルギーで空中窒素を固定することで、農業の生産性を上げ、我々の体を構成する窒素の2分の1は、化学的に合成されたにアンモニア由来するというまでになっている。
  

このように、現在の我々の生活は、膨大な時間を掛けて濃縮されたエネルギー、物質によって支えられている。 

はじめに挙げたチョウと人間の違いは、今、そこに生まれた資源を使うのか、あるいは、膨大な時間を掛けて濃縮された資源を使うのか、という違いである。

濃縮された資源の利用の限界

しかし、こういった(時間)濃縮された資源には限りがあるため、近い将来、濃縮されていないエネルギー、濃縮されていない資源を使った生活へと転換してゆかなくてはならない。実際にリンの産出量は、2030年から2040年にはピークに達し、その後、減少に転じると考えられている(ピークオイルに因んでピークリンといわれている)。 既に、鉱石のリンの含有量が下がってきている。 

リンのように至るところにあり、使っても循環するだけで総量は減らないものでも、濃縮されたものが、分散し、希薄化することで、資源量は減少するのである。 
リン資源

「食糧危機、リン鉱石の予測」から転載、3%の軌道は、今後、毎年3%の需要増があった場合の軌道)

濃縮された資源に頼った生活を続けることは、困難になりつつある。それは、気候変動の問題や、リンなど地下資源の有限性の問題の顕在化が理由である。

最近のニュースでも「北極海の海氷面積、最小面積を更に更新」とあるように地球温暖化は進行している。膨大な化石燃料を使い続けることで、気温が上昇し、貴重な水資源は、「水資源の危機ー渇く地球」に書いたように、確実に減少するだろう。現在、20世紀中に0.7℃の気温上昇で、これほどの影響があるのに、今世紀中にさらに3.0℃の気温上昇がIPCCにより予測されている。 この影響は、ちょっと想像できないくらい大きいだろう。

もう少し時間軸を短く取っても、2030年には、穀物生産を現在より50%も上昇させる必要性があるが、現実には不可能であり、その頃予想されるリン産出のピークアウトや、既に石油生産のピークアウトが起きていることを考えると、2030年前後には、世界的な飢餓がやってくると思われる。 

濃縮されていない資源を使うということ

持続可能な世界を作るには、地下資源といった膨大な時間を掛けて濃縮された資源に頼らない生活をしなくてはならない。

かつての日本人は、そういう生活をしていた。実際、江戸時代の生活は、循環型の農業であった。農地の他に、薪炭林を持ち、太陽エネルギーを用いて薪を取り、落ち葉で堆肥を作り、排泄物も肥料として有効利用していた。 

しかし、これを現在実行することは、たいへんに難しい。 

たとえば、リン肥料を鶏糞で代替するといっても、鶏糞を得るには、鶏を飼わなければならず、そのためには、トウモロコシなどの穀物が必要になり、そのトウモロコシを育てるのに、リン肥料が必要になるといった具合である。現在の日本人は、一人当たり、年間約3キログラムもリンを使って農業をしている計算である。これをリンの含有率が精々3%の鶏糞で代用するのには無理がある。 「戦略物資としてのリン鉱石」に書いたように、リン資源は偏在しているので、いつ手に入らなくなるか分からない。

結局、濃縮されていない資源を使うということは、非効率になるということであり、生活水準を落とす程度ではとても無理で、支えられる人口は非常に小さくなってしまうのである。言い換えれば、濃縮されたエネルギー、物質に依存することで、人口爆発が起きたのである。

有機農法で支えられる世界人口は、化学肥料を使わない場合、単収が3分の1以下になることを考えると、多く見積もっても30億人である。

従って、現在70億ある人口が、ただちに持続可能な生活、即ち、再生可能エネルギーと有機農法に基盤を置く生活に移行するのは不可能で、移行期には、長い時間が必要になる。 

しかし、気候変動や資源の枯渇状況をみると時間的な余裕は少なく、破滅的な飢餓は、世界政府が機能して食糧分配の最適化を実現するといったことがない限り、避けられそうにもない。 そうした中で、日本が現在のような食糧輸入、資源の輸入を続けられるのか、という点については非常に大きな懸念がある。 日本にも食糧危機はやってくるだろう(注)。

21世紀はサバイバルの時代

食糧価格の高騰は、人類の進歩を改めて問いなおすことになるだろう。食糧危機は、既に起こっているともいえるが、日本にやってくるまでに最大20年程度の時間がある。 

情報技術の革新は確かに世界を変えたが、今また、我々の生存基盤を見つめ直すときが来たといえるだろう。パラダイムを変えて、どのように生き残るか、どうやって飢餓人口を減らすことができるのか、真剣に考えるべき時だ。 

(注) 食糧自給率を上げようと思う人もいるかもしれないが、エネルギーやリン資源などを考えると、日本の国土の養える人口は、長期的には最大でも江戸時代の3000万人程度であり、限界がある。 上手く食いつないで、人口の自然減に期待するのが、現実的な選択だろう。 

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