「混乱」がきっかけで表現の自由は制限される --- 坂田 航

2012年09月30日 10:37

YouTubeに投稿された、ムハンマドを侮辱した映像作品「Innocence of Muslims」をきっかけに、アラブ地域では「アラブの春」以来の騒乱が起こっています。アメリカ大使を始めとして多くの死者が発生し、アメリカ・ドイツは大使館員を現地から避難させる事態にまで発展しています。アラブ地域の各国政府は騒乱を認めない考えを示し、事態の沈静化に向けて動いています。


そんな中、映像を国民が見ないようにし、これ以上騒乱の規模が拡大しないようにと、映像の検閲に乗り出した政府があります。エジプト、リビア、インド、インドネシア、パキスタン、バーレーンです。これらの国々は既にYouTubeへのアクセスが遮断されていますが、ロシアも同様のことを行う方針であると同国情報大臣は述べています。サウジアラビアも、YouTubeの親会社であるGoogleに同様の依頼をしています。

上に挙げた4ヶ国の中でも、私は特にロシアに注目しています。なぜなら、2009年現在でロシアの国民全体に占めるムスリムの割合は0.01%(約1万6480人)で、彼らは完全なマイノリティです。これまでチェチェンやグルジアなど、周辺国に対して人権侵害を繰り返し、マイノリティを追いやってきたロシア政府が0.01%のムスリムのためにYouTubeの遮断までするのはどうも怪しいのです。本当は何か他の目的があるのではないか?そう、外部からの情報の遮断です。なぜなら、少数勢力の影響力を過小評価してきたロシア政府がここまで大袈裟なことをするのは「マイノリティの騒乱防止」を建前として、単にネット検閲をしたいからに他ならないからです。

他の国々の動向も気になるところです。特にサウジアラビアとバーレーンは「アラブの春」を機に、王政への批判が高まったこともあり、政府は民衆の団結を非常に恐れています。ですから、今回のように混乱防止を理由に、インターネットを検閲することは彼らにとっても好都合であるし、理にかなっていることなのです。民衆を守るため、と言えば政府を憎むことはできなくなりますから、批判の矛先は欧米諸国に向くのです。

政府にはもちろん騒乱の拡大を防止する狙いもあるのでしょうが、外部からの情報によって再び国民が反政府感情を抱かないように予防することも目的のうちにあるのでしょう。もちろん、他のアラブ諸国も一度は何らかの形で「アラブの春」で国民の反発を経験していますから、インターネットの恐ろしさは重々承知しています。ですから、閉鎖は体制批判が広がらないための有効な手段に成りうるのです。

今のままでいれば騒乱が拡大し、政府が国民の保護を理由に様々な規制を導入し、落ち着いた頃には再び政府が強権的になって国民を抑圧している、ということも有りうるのです。こうしたケースは実はアラブだけではありません。日本も同じです。2010年11月に海上保安官だった一色正春氏が「sengoku38」というユーザー名で、尖閣諸島沖で中国漁船と海上保安庁の巡視船が衝突した様子を撮影した動画をYouTubeに投稿しました。これをきっかけに国内外では多くの議論を呼んだわけですが、この事件を機に審議が始まったのが「秘密保全法」です。

秘密保全法は、国家が機密事項と認めた情報に関しては、外に出さないように政府が命令をできることを定めた法律で、表現の自由を侵害する恐れがあるとされています。(日弁連がWebサイト上で分かりやすく秘密保全法について解説しています。 ) 当初はこうした動画のような日本が世界に知られたくない情報を外に出さないために審議が進んでいた法律ですが、これが情報の検閲を正当化する根拠になるとして議論を読んでいるのです。先日にはアメリカで民主党の前原誠司氏が秘密保全法の早期成立を目指すと発言し、今後秘密保全法に関する審議にますます拍車が掛かりそうな勢いです。これもエジプトやリビアでのYouTube遮断と同様に、危機に乗じて表現の自由を制限しようと国家が動いたパターンです。

これらはケースが違うとはいえ、構造が似通っていることに気がつくと思います。検閲といえば強権的な国家が行うことと勘違いされがちですが、日本やアメリカのような民主主義国家でも十分起こりうる、いや今現在起こっていることなのです。それを肝に銘じて、我々は政治と向かい合っていく必要があります。

<<参照資料>>
社会実情データ図録世界のイスラム人口
年推計
世界経済のネタ帳
ロシアの人口
雇用
失業率の推移

坂田 航
学生ブロガー 
Twitter@Watalogy
BlogBlog

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑