高成長の終焉と低エネルギー、省資源社会への移行

2012年10月12日 09:01

先日、白川日銀総裁が、「潜在成長率を超える成長を維持しようとすると、不均衡が拡大する」と述べた(「高度成長永久に続けられない、無理な成長で不均衡発生=日銀総裁」)。これは、現在の先進国の状況を端的に表している。 

つまり、先進国の潜在成長率が低下している一方、持続不可能な高い成長を求める声が大きくなっている。

これは、我が国も例外ではなく、デフレ脱却を求める声が、民主党の前原経済相からも上がっているし、列島強靭化計画といった巨大公共事業による内需拡大策を自民党が主張している。  


高い成長を前提とした現行の社会システム

現在の先進国は、高い成長が可能であった80年代までの社会システムをそれほど変革せずに、現在に至っている。そのため、成長の低下は、取りも直さず、社会システムの機能不全を引き起こす。

たとえば企業年金の予定利率の問題は、その典型的なものだ。最近の日本の電機業界の不振から、過酷なリストラの様子が漏れ伝わるが(たとえば「私はこうして退職を強要された/NECリストラ 面談一問一答メモ」)、これも成長の低下が引き起こす問題の典型例である。 つまり経済全体が低成長もしくは縮小傾向に陥ると、会社を辞めても次の仕事が見つかりにくいという問題が生じる。

こういった背景もあり、先進各国は、正に潜在成長率を超える高成長を人為的に引き起こし、バブルを生み、それを破裂させてきたのである(ITバブル、ユーロバブル、リーマンショック等)。 

しかしながら、今日、日米欧が同時に、これほど大きな問題を抱え、新興国経済が台頭してきた今、高成長の夢よもう一度といっても現実味は全くないことはGordon氏の論文:Is US economic growth over? Faltering innovation confronts the six headwinds に教えられなくとも、バブル崩壊後20年以上も経済の緩慢な成長を経験してきた日本人なら十二分に理解しているはずである。 白川日銀総裁が無理な高成長を戒めているのも、こういった過去の経緯を観察してのことだろう。 
 
しかし、それでもなお、「成長戦略だ、日銀の金融緩和だ、不況の原因は増税至上主義の財務省の陰謀だ」といった声が巷に多く見られるのは、旧来の社会システムに根差した必要性に基づく主張と言えるだろう。  

エネルギーと水の問題

「エネルギーと水のゆくえ」で書いたように、エネルギー資源、水資源の総量は減少する一方(引用したChefurkaの論文によれば、2050年時点で、世界のエネルギー産出量は現在の約3分の2)、新興国の台頭により、エネルギーと水の必要量は増大する。従って、エネルギー価格は上昇し、水は希少化する。 これが、経済成長のボトルネックになる。

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(Chefurkaの上記論文から転載)

実際、原油価格は急上昇している:

原油価格(WTI)の推移(1980~2012年) - 世界経済のネタ帳

エネルギー価格の上昇は、以下の現象を引き起こす: 

(1) 経済成長の鈍化またはマイナス成長: エネルギー利用の効率が一定とすると 
             経済成長≒ エネルギー消費増 である。

(2) 食糧価格の高騰:食糧は水とエネルギーを変換したもの

(3) 政府債務の増大:景気悪化による税収減 + 景気刺激策への負担増 
  
(4) 失業率の上昇、賃金の減少:企業へのコスト削減圧力

石油、天然ガスとも資源の枯渇は顕著になりつつある。シェールガス、シェールオイルの採掘は来たるべきガス黄金時代の到来を告げるものではなく、シェールガス、シェールオイルといった低EPR(産出エネルギー/投入エネルギー)のエネルギー源に手を出さざるを得ない状況にまで追い込まれていると見るべきだ。 今年発刊されたIEAのレポート: Golden Rules for a Golden Age of Gasを見ても、課題は多い。一年前の報告書: Are we entering a golden age of gas ? からは、楽観論が著しく後退しており、非在来型ガス開発が進まないケースも同時に考察されている。 日本でも、ごく最近シェールオイル、シェールガスが試掘されたが、資源量、生産効率とも有望とは言い難い。 

紙数の関係で詳しくは書けないが、太陽光発電、風力、潮力、バイオマスなどの再生可能エネルギーも実際には、そのかなりの部分を化石エネルギーに依存しており(例えば、風力発電のプロペラは化石燃料なしには作れない)、化石燃料の枯渇を少し先延ばしすることができるかどうか、といったところではないか、と思われる。

一方、「経済成長と水資源の枯渇」に書いたように水資源の枯渇も著しい。たとえば中国の河川の35%が断流現象(河川の水が、河口まで達しない)を起こしている、と伝えられる。 

日本人の意識には、日本は水が豊かな国という固定観念があるが、これは誤りだ。実際には食糧の形で大量の水(ヴァーチャルウォーター)を輸入している:
virtual water

上の図を引用した環境省ホームページによると:

2005年において、海外から日本に輸入されたバーチャルウォーター量は、約800億m3(※1)であり、その大半は食料に起因しています。これは、日本国内で使用される年間水使用量と同程度です。

とされる。 我々の食生活は、深く海外の水資源に依存しているのである。   

低エネルギー省資源社会の実現

エネルギー資源、水資源といったものが、将来的に大きく減少することは、恐らく避けられない。そうした中で、世界経済は停滞せざるを得ないだろう。

その上、アメリカで現在「財政の崖」が議論されているように、先進諸国は、高成長の夢を追い求めたツケの、巨額の政府債務を抱え、財政再建も避けることができない。活気ある経済を失えば、財政破綻は避けられないだろう。我々に何ができるだろうか?

それは、我々が低成長(あるいはマイナス成長)、エネルギー、水の枯渇といった状況に適応することである。 

このためには、低エネルギー、省資源社会へと移行しなくてはならないし、低成長でも財政再建をするために、経済が停滞あるいは縮小しても、高い税金を払える社会を実現しなくてはならない。 目安として、2050年までにエネルギー消費量を現在の半分にする必要があるだろう。 

分かり易い例を挙げれば、自家用車はなくし、鉄道と自転車、電気自動車のカーシェアリングへと移行することである。稼働率が10%程度の自家用車に依存した社会は続けられない。

あるいは、リン資源の枯渇が懸念されているので(「時間濃縮された資源利用の限界」参照)、現在、ドナー制度などで、利用されている、死後の遺体の利用についても、もう一歩進めるべきだろう。抵抗感のある人は多いだろうが、骨壺に入れる骨は全部でなく、ごく一部にして、リン資源として活用すべきだろう(リン資源の一つグアノは、海鳥の糞の化石だが、これは海鳥の食べた魚の骨に含まれるリン酸カルシウムに起因する)。 エネルギー循環、物質循環という視点が、今後、一層大事になろう。

社会の秩序を保つために、社会の効率化によって、何とか豊かさを少しでも維持することを考えるべきだ。 その上で、世界人口をエネルギーの枯渇に対応したり、水資源の持続可能性を保てる規模に、計画的に縮小してゆくしかない。

ゼロないしマイナス成長を前提とした、経済などの社会システムも必要だが、成長なしに資本主義自由経済が機能するのかは、私には良く分からない。 そこは経済学者、社会学者の英知に期待したい。

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