資源ピラミッド理論-There Will Be OIL?

2012年10月23日 10:38

我々の現代的な生活を支えているのは、エネルギーと水だ。 一人当たりのエネルギー消費をグラフで見ると次のようになる。
200-1-4

(エネルギー白書2011から転載)
現代人のエネルギー中毒ぶり、そして、その大部分を化石燃料に依存していることが良く分かる。  今後、我々のエネルギー事情はどうなるのだろうか。 化石燃料は、これからも潤沢に供給できるのだろうか? 

先の記事ででピークオイル(原油生産がピークをつけ生産減退に向かうこと)について言及したが、 IHS Cambridge Energy ResearchのDaniel Yergin氏は2011年9月のウォールストリートジャーナルの記事:There Will Be Oilの中で、ピークオイル論を否定し、2050年まで原油生産は伸び、そこから先は生産は定常状態になると主張している。 まだまだ石油はあるというのだ。 ここでは、このYergin氏の見解を考えてみたい。


Yergin氏の論理

一言で言えば、Yergin氏の主張の根拠は資源ピラミッド理論による。 つまり、資源量は採掘技術の進展に依存し、始めは簡単に採掘できる資源を掘る。やがて、簡単に掘れる資源が枯渇してくれば、価格が上昇し、それにより採掘技術が進歩すると共に、採掘が難しかった資源も価格の上昇により採掘コストに見合うようになるため、資源量が拡大する、という話である。つまり、価格の上昇と技術の進歩で下の図のピラミッドの下側まで採掘できるようになるということだ。
09-z-02

(ピークオイル説を検証するから転載)

これはYerginが

Activity goes up when prices go up; activity goes down when prices go down. Higher prices stimulate innovation and encourage people to figure out ingenious new ways to increase supply.

と述べている部分が、これに当たる。

これは先ごろ発表されたIMFのワーキングペーパー:The Future of Oil: Geology versus Technologyによる予測でも考慮されていて、悲観的なCampbell氏による予測:
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(地質学者Campbell氏による原油供給の予測、IMF論文から転載)

とは異なり、次のように上方修正された予測になっており
oil-output-forecast-with-error-bands-in-gigabarrels-per-year

(IMFによる原油供給の予測、IMF論文から転載)

2022年までピークオイルは起きないという予測になっている。しかしそれでも10年後の予測の原油価格の最尤値は1バレル180ドルになっている:
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(IMFによる原油価格の推移予測、IMF論文から転載)

Yergin氏はピークオイル説を否定するが、実は価格の上昇については述べていない。

資源ピラミッド理論はピークオイル論を否定するものか?

資源ピラミッド理論によれば、技術と金を掛ければ、資源量の豊かなピラミッドの下部まで採掘できるようになる。 さて、これで資源の枯渇は当分心配ないのだろうか。 

これに対する答えは、恐らくノーだ。 なぜなら、ピラミッドの下部にある資源を掘るには、多大の労力が必要だからだ。これは物理的には採掘に投入するエネルギーが増えることを意味する。これは、エネルギー収支比率EPR(産出エネルギー/投入エネルギー)が低下することに他ならない。 

例えば、カナダのオイルサンドは資源ピラミッドの下部に属する資源だが、これを採掘するには採掘するフィールドの森林を皆伐し、巨大な電動ショベルでオイルサンドを掘り出し、熱湯をかけて、砂に付着したタール状の油(ビチューメン)を抽出する。1バレル(約160リットル)の油をとるのに、オイルサンドを2トン採掘する必要がある。その後、数バレルの熱湯をかけてビチューメンを砂から分離し、改質する。 オイルサンドの採掘にはこのように膨大な水とエネルギー(主に天然ガスが使われる)を使い、大量の汚染水が出る。 

このように資源ピラミッド下部のエネルギーを手に入れるには、エネルギーをたくさん投入すればいい。 2010年におけるカナダのオイルサンド生産量は約147万バレル/日だが、EPRは1.5程度とされるので、正味の産出エネルギーは凡そ50万バレル/日ということになる。 このような、ネットの産出エネルギーの大幅な目減りは、同じ資源ピラミッドの下部に位置するシェール油、シェールガスも同じことだ。 原油1バレル相当のエネルギーを得るのに、何トンもの岩を砕いたり、熱したり採掘には膨大なエネルギーが必要だ。 Yergin氏は2020年以降、シェールオイルの生産が日量200万バレルになるというが、これが実現しても現在の1日の原油産出量の2%強、ネットエネルギーで見れば、恐らく60万バレル相当、つまり1%未満にしかならない(現在の原油の平均のEPRは10程度)。 

だからIMF予測のように今後10年ピークオイルが来ない場合でも、正味の産出エネルギーは低下する可能性がある。 実際、アメリカの原油はEPRの低下で、ネットのエネルギー産出はグロスの産出以上に減っている(現在の従来型油田のEPRは3程度、つまりネットエネルギーは2/3になる):

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Peak Silver and Mining by a Falling EROI から転載、赤い線がグロス、青い山がネット)

このように資源ピラミッド理論は、金やエネルギー(これらはほぼ等価だ!)を費やせば資源が手に入るということを言っているだけで、これは、我々の直面するエネルギー問題を解決してくれるわけではない。

本当に必要なのは、「安いエネルギー」だからだ。 

埋蔵量はあてにならない

よく、石炭の埋蔵量は100年分以上ある。 だから化石燃料は当分大丈夫だという意見をよく耳にする。 シェールガスを含めれば、天然ガスは250年は大丈夫という声もある。 だが、これは本当だろうか?

これは正しくない。 原油換算の埋蔵量が4兆バレルを超えると言われるオイルサンドを見ても分かるように、いくら埋蔵量が巨大でも生産性が低い資源は、頼りにならない。 極端な話、200年分の埋蔵量があっても掘り尽くすのに10000年掛かるのでは話にならない。

生産性が低下すれば、いくら量があっても供給できない。 アメリカの例に見るように、老朽化した油田から石油を採取するのは、生産性が相当落ちるだろう。 リビアの政変で、リビアの石油生産が停止したとき、OPECは、その穴、日量140万バレルを増産で埋められなかった。 これは石油そのものがなかったわけではなく、生産性に限界があったからだ。 ピークオイルは架空の話ではなく、北海油田、アメリカの油田などでは既に現実の話だ。 

資源は量よりも質が大事なのだ。

豊かになれば問題は解決するか?

Yergin氏と同じ考え方をする人にロンボルグがいる。  ロンボルグは、その著書「環境危機をあおってはいけない」で、やはり資源ピラミッド理論を持ちだして、化石燃料は膨大な量があり枯渇は心配する必要がないと説き、繁栄はまだまだ続くと説いた。 

彼の考え方は基本的に、貧困こそが問題で、豊かになれば、環境問題も水資源の問題も解決するというものだ。

たとえば、ロンボルグは、サハラ砂漠に太陽電池を敷き詰め、巨大な脱塩装置を建設すれば、水資源の問題は解消する、と主張する。

そうかもしれない。 だが、その費用をだれが負担するのか? そもそも出来た真水をどうやって輸送するのか? それには巨大なエネルギーが要るだろう。 豊かになり財力があれば、確かに多くの問題は解決する。だが、豊かになるということはどういうことか? それはエネルギーを豊富に使えるということと、ほとんど同じことだ。 これは巨大な電力を使って、海水の淡水化で水を作っているサウジアラビアを見れば明らかだ。

ロンボルグの論理は、エネルギー=豊かさが十分あれば、問題は解決するというトートロジーだ。 つまり豊かであれば豊かになれると言っているに過ぎない。 これは、エネルギーを投入すればエネルギーは得られるという資源ピラミッド理論と同じだ。   

必要な化石燃料からの脱却

少なくとも、今世紀中に化石燃料(石油、石炭、天然ガス)が完全に枯渇することはない。 しかし、早ければ10年以内にも、十分な量が手に入らなくなることは、全く確実だと思う。 それは化石燃料の著しい高騰という形で表れる。 ウラニウムにしても何れピークアウトする。 

従って、今の中から、十分な量の供給はあてにならなくても、再生可能エネルギーへの可能な限りのシフトは始めるのが合理的だ。 なぜなら、エネルギー転換は数世代に渡る時間が必要だからだ。 「竹内純子氏の記事」のように、コスト増は避けられないが、これは化石燃料の将来価格予測を元に長期的視点で決めるべき問題だろう。 

私の子供の頃は、21世紀には超音速旅客機が飛び、アメリカまで数時間で行けることになっていたし、庭から飛び立てる自家用飛行機が実用化され、ロボットが仕事をしてくれるので働かなくてもよい、といったバラ色の未来を思い描いていた。 

しかし、現実はどうか?  もしIMFの予測のように、原油価格が1バレル180ドルになったら、日本はどうなるのだろうか? 全ての化石燃料も連動して高騰し、恐らく、計画停電をしなくてはならないのではないか? 交通費、食糧の価格は2倍になるのかもしれない。 恐らく経常収支は赤字に転落するが、財政は大丈夫だろうか? 心配の種は尽きない。 世界は今よりずっと混沌としていることだろう。 この予測ミスの原因は、端的に言えば、我々が地球の有限性とエントロピーの増大を無視していたことにある。

Richard C. Duncan氏が:The life-expectancy of industrial civilization: The decline to global equilibriumという興味深い論文を書いている。
(サマリーがThe Olduvai Theory-Sliding Towards a Post-Industrial Stone Age にある)。 この論文によれば、エネルギー資源の枯渇により、我々は今世紀中に、現在のような現代的な生活を諦めなくてはならないことになる。彼のシナリオは、ピークオイル後にエネルギー不足から、先進国でも計画的に停電を行わないといけなくなり、社会システムが機能しなくなるというものだ。 

これはちょっと極端な話で真に受けることはないが、一面の真理も含んでるように思う。 恐らく現実はYergin氏とDuncan氏の中間、化石燃料の減耗(特に石油)により、世界経済が継続的に徐々に縮小することを余儀なくされるのだろう。 楽観的なEIAの予測でもピークオイルは2030年には来ることになっている。 今から、そのことを頭に入れて行動すべきだろう。 2030年までに、石油エネルギーからの脱却が必要だからだ。

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