善良な市民は「つぶれる大学」を見破れない 田中真紀子よ東京女学館大学をどうするのか?

常見 陽平

共同通信社の47NEWSは「文科省が、創造学園大を運営し経営悪化の学校法人堀越学園に来年3月にも解散命令を出す方針」だと報道した。きっとまた「日本に大学は多すぎる」「大学も潰れる時代だ。これも一つの象徴」という議論が起こるだろう。

では、大学はなぜ潰れるのか?どうやったら潰れるのか?どのような大学が潰れるのか?これはより丁寧に議論しなければならない。特に約半年前から話題になっている東京女学館大学の閉校騒動は、大学経営について私たちに問いかけるものである。


東京女学館大学閉校問題については、これまでアゴラでも3度にわたってお伝えしてきた。

東京女学館大学閉校が物語るもの 学校経営のプロ登場待望論
https://agora-web.jp/archives/1452552.html

東京女学館大学閉校は「権力の暴走」であり「詐欺」である。
https://agora-web.jp/archives/1452636.html

東京女学館大学閉校問題のその後 美しい撤退とは?大学経営のプロ待望論
https://agora-web.jp/archives/1455668.html

詳しいことは以前のエントリーで述べたが、閉校問題が発覚した時点での論点は次の点である(以前のアゴラでのエントリーの要約である 詳しいことは特に3本目のエントリーにまとまっているのでご覧頂きたい)。

1.文科省への募集停止手続きの問題
平成25年度募集停止の文部科学省への報告用紙には「教学側」として教授会または評議会の決議を入れる項目があるのだが、学校法人は、「今後説明の予定です」と述べて4月24日に提出した。大学の評議会、大学教職員対象の説明会は提出の翌日の4月25日で、大学で教育の担う教職員には何も知らせずに黙って提出した。

2.赤字報道のウソ
学校側の資料では「累積赤字25億円」となっていた。閉校騒動が発覚した時点では日経もそう報じている。しかし、学校会計は学校法人全体でのみ行われており、大学開校以降も黒字基調で、内部留保を増やしており、約20億円の資産(現金預金と引当金)がある(処理していない累積赤字は0円)。

3.募集の問題
4月5日に入学式を行ない、その月末に募集停止。入学金、授業料の締め切りは4月末になっていた。その翌日に募集決定通知。徴収してからの即募集停止決定、発表は、ルールの範囲内と言えばそれまでだが、学生、保護者に対して誠意を欠いていないか?

4.雇用の問題
学校側の説明では、教職員は4年後に全員解雇。ある講師は他大学を辞めて4月より着任し4月5日に学長から、がんばってくださいと辞令を渡されたが、4月27日の全学教職員対象説明会で学長は「4月5日に入学生が52人だったので、募集停止を決断した」と言明。

5.学生・保証人への周知
GWの5月1日、2日という明らかに学生・保証人(主に保護者 以下、保証人と表記)が参加しにくい時期に説明会の実施告知。

これが5月の最初の時点で起きたことである。ここからは、その後、起きたことを報告する。

学生や保証人も黙っているわけがない。「東京女学館大学を存続させる会」が結成され、顧問弁護士に八代英輝氏(八代国際法律事務所)舛井一仁氏(芝綜合法律事務所)が就任した。
 
ホームページにはこれまでの経緯やメディア露出情報がまとめられている。メンバーの怒りがひしひしと感じられる一方、逆にやや客観性にかける部分があるとも感じられる。それでも、注目すべき情報がころがっている。

一つはある理事の過去についてである。過去にいくつかの企業の役員を歴任してきているが、その中の数社において経営者が背任容疑で逮捕されるという事件が起こっている。その経営者は同一人物である。
 
さらに、大学の土地売却についてのタレコミ情報も掲載されている。

情報提供者が明記されていないことや、理事会からのコメントがないという意味で、やや説得力がないとも言えるが、刺激的な事実ではある。

すでに5つの法人から経営肩代わりの提案があるにも関わらず、理事会は6月に2件は断ったという。この先もどう扱われるか不明である。普通なら「渡りに船」のはずなのだが。「理事会は土地を売却して儲けるために、大学を閉校にしようとしているのではないか」と穿った見方をしてしまうのは私だけだろうか?

このように、東京女学館大学の閉校騒動はよくある「大学は多すぎる」「定員割れの私学は山ほどある」「どんどんつぶれていい」とは同じようで違う。要するに経営陣が大学を続けたいかどうかという話だ。いや、私利私欲の話と言ってもいい。それもルールの範囲内といえば、そうなのだろうが。学生や保護者などが不在の議論になっていることは言うまでもない。

よくこの関連で、「つぶれない大学を見破る方法を教えてください」というテーマで取材を受けたが、入試における募集状況、財務状況などをみる手はあっても、前者は多くの私学は苦しんでいるし、後者も部分も素人が全てを理解できるわけではない。最後にはこのケースのように「やーめた」と言えば終わりなので、見破る方法はない。学生や保護者に「それくらい見破れ」というのはあまりに乱暴だろう。ここは文科省、いや消費者庁も「消費者保護」という観点で何らかの対策ができないものか。

もちろん文科省もスルーしているわけではない。平野前大臣は在任時の8月31日の会見で、この問題について「学校法人には、学生、関係者への丁寧な説明をしていただくよう求めていきます」とコメントしている。

その後、文部科学大臣は田中真紀子に交代した。

「時はきた、それだけだ」

多くの人はそう言うだろう。

田中真紀子よ、我が国に大学経営のあり方、および大学行政の実態について敬虔な反省を持ったことはあったのか?このような状態がなし崩し的に起こることに真摯に省みたことはあったのだろうか?ここは新任の彼女のパワーに期待したい。

今後の動向を激しく注目したい。このアゴラ上では「過激な傍観者」として通っている私もこの件は、熱心に直視せざるを得ない。

なお、最後に。10月27日(土)に同校で開催される学園祭において、大学のあり方について議論することになった。八代氏、舛井氏の他、私も登壇する。タブーなく議論する予定だ。テレビ局、新聞社を始め、マスコミも集結するようだ。いくつかの重大発表もありそうな予感だ。大学関係者、マスコミ関係者、教育ジャーナリスト、ブロガー、大学問題に関心がある方はぜひご来場頂きたい。

ちなみに同校の学園祭のタイトルは「団結~Never give up~」だ。これが女子大の学園祭のタイトルになってしまうこと自体、かわいそうだと言える。

大学のあり方については、秋入学、グローバル化に代表される「意識の高い話」ばかりがあふれるが、これも日本の大学の現実だ。ぜひ、虚心に直視したい。