海外から「愚かで、無責任な政治家」と見做された、石原慎太郎知事と李明博大統領!

北村 隆司

久方振りにコロンビア大学の東北アジア研究所の公開講座に顔を出してみた。

会は、日米韓中の知識人によるパネリストの各10分程度のプレゼンで始まった。

各パネリストの主張は、予想した内容と余り変わらず、特に勉強にならなかったが、中韓の知識人の積極果敢な発言に比べ、日本から来たインテリのおどおど振りと、抽象的なお説教調のプレゼンには、説得力が殆ど感じられなかった。この調子は、学生が発言もせずノートを取るだけの日本の大学では通じても、白熱した討論が当たり前の米国では通じる訳がない。


結果として、日本の立場を弁護したのは米国の知識人の役割となってしまった。

韓国からのパネリストでは、コロンビア大学法律大学院を卒業し、米国の大手弁護士事務所に勤務した
後に、韓国で弁護士事務所に入り、現在は韓国統一省の法律顧問をしていると言う人物の歯切れの良いプレゼンが印象に残った。

彼は「何事もまとまり難い韓国だが、竹島(韓国流では独島)問題だけは、絶対に世論が割れる事はない。これは尖閣を巡る中国世論も同じである。韓国は、自国が長期に亘り実効支配している独島(竹島)には領土紛争はないと言う立場を堅持しており、国際司法裁判所への提訴に応じる理由はない。従い、日本が戦争でも始めない限り、竹島の現状を変えることは不可能である。それに比べ日本では、竹島・尖閣でも世論は必ず割れる事に我々は自信を持っている。日本は、この現実を認識して行動すべきだ」と流暢な英語で主張していた。

質疑応答に入ると、この種の公開講座には何時も顔を出して歴史認識問題を持ち出すソウル国立大学出身の老人が、議題とは直接関係ない慰安婦問題を取り上げて「日本の主張は未だに帝国主義時代と変わって居らず、実にけしからん」と強弁すると、司会者が「只今の発言は質問ではなく、ご意見だから」と次の質疑に移リ、一件落着と思いきや、次に日本から派遣された研究者が「只今の発言には私も同感で、日本は一日も早く贖罪して、日韓関係を正常化する責任がある」と発言したのには驚いた。

竹島問題は韓国の政治家にとっては死活問題かも知れないが、日本にとってはその政治的、経済的影響の大きさから見ても尖閣問題に比べれば取るに足らない問題である。

パネリストの一人として出席した、高名なジェラルド・カーテイス・コロンビア大学教授は「今回の問題で最も愚かで無責任な政治家は、韓国の李 明博大統領と日本の石原都知事である。自分の人気取りに外交を使う事は良くあるが、自国が実効支配している地域であのような行動を取る事は、国の利益に反するだけで、全く国益に貢献しない。この様な派手なパフォーマンスで、国益を損なうのは、とびきり愚かで無責任な政治家としかいい様がない。」と手厳しいコメントをしていた。

カーテイス教授のこのコメントは、大方米国の論調の線に沿っており、自国の実効支配に海外から疑問を招くだけのこの愚かな行動には、首をかしげるばかりである。

石原知事が大嫌いな米国の首都ワシントンに乗り込み「国がもたもたしているので、尖閣の地権者から都が島を買い取る事にした」と大見得を切った時は「さすが石原知事」と言う歓迎ムードで盛り上がり、丹羽駐中国大使が英紙フィナンシャル・タイムズのインタビューで、都による尖閣購入計画を「実行されれば日中関係に重大な危機をもたらす」と述べると、日本中が「大使の資格なし」「民間大使は役立たない」「売国奴」などと丹羽大使批判一色に染まった。

この時は、先述の韓国の弁護士の意見と異なり、日本の世論は「丹羽大使非難」で一致していた。

ところが、国有化後の中国の想像を絶する執拗な反発をうけ、残念ながら、丹羽前大使の懸念が的中して日中関係が重大な局面に突入すると、マスコミの論調は「本人は愛国者だと思っているかもしれないが、経済も外交もまったく音痴。今後を含めてわが国の経済的損失は多大だし、多くの国民にいらざる不安をかき立て、反中国意識を煽り立てた責任は大きい」と石原知事や政府の軽率さの批判に一転し「領土問題というのはいかに日本側に理があろうとも、本来もっと冷静慎重に対処すべき問題だ」などと言い出した。

こう見て来ると、多かれ少なかれ結果責任を問われる政治家に比べると、マスコミ稼業は誠に気軽なものだと呆れて仕舞う。

冷静な外交は当然だが、物には順番がある。「熟慮、断行」とは、行動前に熟慮しろと言う教えで、断行してから「冷静さ」を取り戻しても「後の祭り」に過ぎず、相手からは、逃げ腰に見られるのがせいぜいである。

私の以前の拙稿にも引用したキシンジャー氏の言葉をここでも引用してみたい。

石原知事は「自国の価値観を広めようと言う観点から戦おうとする人々には敬意を表する」と言う同氏の言葉に価する人物ではあるが、派手な人気取りに走った為に、我が国の実効支配の壁を突き崩せず苦慮していた中国に、領土紛争の口実を与え、「最も避けなければならない、外交政策の選択の幅を狭める」結果を招いた。

今回の竹島・尖閣騒動は「外交政策は目標と共に、そこにいたる手段をも定めなければならない。若し、その手段が国際的な枠組み、或いは自国の安全保障上の重要と考えられる外交関係の許容範囲を超えた時には、選択をしなければならない」と言うキッシンジャー氏の金言を無視した、李 明博、石原慎太郎と言う二人の愚かで無責任な政治家が引き起こした事件だと言う事をひしひしと感じさせた事件であった。

2012年10月25日
北村 隆司