核燃料サイクルへのアプローチ

2012年11月14日 07:00

photo-1国際環境経済研究所所長
澤昭裕

原子力問題の本丸—バックエンド問題

原子力問題のアキレス腱は、バックエンド(使用済核燃料への対応)にあると言われて久しい。実際、高レベル放射性廃棄物の最終処分地は決まっておらず、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」はトラブル続きであり、六ヶ所再処理工場もガラス固化体製造工程の不具合等によって竣工が延期に延期を重ねてきている。

原発反対の世論に押されて原発を停止しても、既に相当の使用済み核燃料が発生している現状では、バックエンドの解決に至らない。むしろ、逆に問題を複雑化するだけに終わる危険性が高い。


これまで、原子力委員会はもとより、学術会議その他さまざまな場でこれらの問題について議論されてきている。しかし、これまでの政策方針の積み上げや歴史的背景、外交・安全保障関連の制約、政策転換に伴う政治的・経済的コスト等を真剣に考慮すればするほど、現時点で取りうるオプションは限られている。多くの制度や約束事が相互に絡み合っているため(いわゆる「制度的補完性」)、どこか一つの部分を変更しようとしても、別の制度や約束事も同時並行的かつ整合的に改革する必要が出てくるのである。

例えば、「核燃料サイクルを放棄して、直接処分に舵を切るべし」としたところで、その実現に当たっては青森県との約束(「再処理事業が見込めないのであれば、使用済み核燃料を施設外に搬出する」との趣旨)をどうするか、事業主体をどうするか、安全性に係る技術評価の不足をどうするのか、またこれまでの再処理等積立金の扱いをどうするかなどの問題を、連立方程式の解を求めるような困難さの中で取り扱っていく必要があるのだ。

この問題に取り組むアプローチは、大きく分けて三つある。まず、これまで政策の分岐点になってきた時点に針を戻し、その際に検討されたが捨てられたオプションを再度検討することである。第二に、現在までに積み重なってきた事実を全て制約として受け入れ、その前提のもとで完全ではないにしても、漸進的な改善を見込める解を求めることだ。第三のアプローチは、現状の制約要因自体を緩和するよう積極的に働きかけて、解が存在する範囲を拡大することを目指す方法である。

第一のアプローチ「技術面に着目した再検討」

第一のアプローチは、例えば次のような見直しが可能ではないか、再検討することである。高レベル放射性廃棄物の処分方法は、現在世界的に地層処分が最善と見なされている。しかし、これまでの非管理型処分方法の検討の歴史の中では、宇宙処分、海洋底処分、氷床処分が検討されてきている。

こうした技術的選択肢について、最近の技術の進展を踏まえてそのメリット・デメリットを白地から再評価することは、結果的には地層処分以外の選択肢が棄却されることになるとしても、いまや原子力問題についての関心が大きく高まった国民の間で、やはり地層処分が必要かつ最善の方法なのだとの共通認識を醸成するという意義があるだろう。

その点、英国で行われた放射性廃棄物管理委員会(CoRWM 監督官庁である当時の環境・食糧・農村地域省が設置した独立の委員会組織)による高レベル放射性廃棄物処分プログラムの具体的制度検討プロセスでは同様の再評価が行われているが、こうした事例を参考にすることは有用だ。

また、核燃料サイクル、特に高速増殖炉については、その政策的位置づけが諸状況の変化に応じて変遷してきている。もともとは、エネルギー自給率向上によるエネルギー安全保障のために、「増殖」に焦点を当てた意義を強調し、そのためには相当のコストをかけてでも基礎から研究開発すべき炉として考えられてきた。そのため、開発を担当したのも旧科学技術庁及びその研究機関であり、事業者は従の役割しか果たしていなかった。

1990年代後半に始まった電力自由化議論や旧ソ連の核兵器からの回収プルトニウムによる供給過剰を背景として、それまでより「経済性」に重点が置かれた結果、高速増殖炉も、下記の引用にある如く、軽水炉その他の電源と競争することを目標とすることが明示されたのである。その時点で、ナトリウム事故のために稼働していなかった原型炉「もんじゅ」の役割は一層曖昧化したが、この時点でも開発主体には大きな変化はなかったし、開発継続の意思決定がなされている。

しかし、この時点に戻ってみれば、経済性を重視する事業者や経済産業省が開発主体をテイクオーバーし、炉も「もんじゅ」やその延長線上の型にこだわらず、すべてのオプションをオープンに評価することは可能だったのではないだろうか。今後に高速増殖炉を実用化まで研究開発を継続するのであれば、事業主体の変更や実証炉・商業炉の炉型選択について再検討することも有意義である。その文脈で、現状の高速増殖炉サイクル実用化研究開発(通称FaCTプロジェクト)の進め方も、時間軸や体制を見直す必要がある。

以下「原子力開発利用長期計画」(2000年策定)より引用

高速増殖炉サイクル技術の研究開発に当たっても、その実用化段階において、安全性の一層の追求と併せて軽水炉や他電源と比肩し得る経済性を達成するという究極の目標を設定しておくことが重要である。また、研究開発に当たっては、幅広い選択肢を検討し、柔軟に取り組む。技術的に核兵器拡散につながり難い選択肢を開発する。

『もんじゅ』については、発電プラントとしての信頼性の実証とその運転経験を通じたナトリウム取扱技術の確立という「もんじゅ」の所期の目的を達成することは他の選択肢との比較評価のベースとなるから、同目的の達成にまず優先して取り組むことが特に重要である。このため、早期の運転再開を目指す。
 
第二のアプローチ「再処理、高速増殖炉を併用する漸進策」

2005年に策定された原子力政策大綱では、今後の使用済燃料の取扱いに関して次の4つのシナリオを定め、それぞれについて、安全性、技術的成立性、経済性、エネルギー安定供給、環境適合性、核不拡散性、海外の動向、政策変更に 伴う課題及び社会的受容性、選択肢の確保(将来の不確実性への対応能力) という10項目の視点からの評価が行われた。

シナリオ1: 使用済み核燃料は、適切な期間貯蔵した後、再処理する。なお、将来の有力な技術的選択肢として高速増殖炉サイクルを開発中であり、適宜に利用することが可能になる。

シナリオ2: 使用済み核燃料は再処理するが、利用可能な再処理能力を超えるものは直接処分する。

シナリオ3: 使用済み核燃料は直接処分する。

シナリオ4: 使用済み核燃料は、当面全て貯蔵し、将来のある時点において再処理するか、直接処分するかのいずれかを選択する。

この評価作業の結果、基本的にはシナリオ1が選ばれたが、2年程前に始まった本大綱見直しの作業のプロセス中に福島第一原発の事故が起こったため、その後の議論は紆余曲折し、原子力委員会が廃止されることが既定路線となる中で、今後直接処分オプションがどうなるのか不明である。

さらに、先日政府が決めた「革新的エネルギー・環境戦略」では、原発30年代ゼロを目指すとする一方で再処理事業の継続を打ち出したため、その不合理性が各方面から批判を浴び、事態は全く混沌としている状態だ。

日本は英仏から返還される予定のものも含めれば、既に約30トンの核分裂性分離プルトニウムを所有している。2003年8月5日の原子力委員会決定で、日本は利用目的のない余剰のプルトニウムは持たないとの方針を内外に明らかにしているが、使用済み核燃料を再処理して回収されるプルトニウムは当面MOX燃料にして既存の原発で使用しつつ、将来的には高速増殖炉で燃やす以外に、正当な所有目的を探すことは難しい。さらに、再処理せずに直接処分するとなれば、より問題は複雑化する。

米国が、上記の革新的エネルギー・環境戦略の方針について強い懸念を示したのは、同戦略を遂行した場合に不可避的に発生する余剰プルトニウムを日本はどうするつもりなのか不明であること、日本が厳しい査察を受けつつ、核燃料サイクルを目指すことを条件に、米国が非核保有国で唯一再処理の包括同意を与えている日米原子力協定の基礎が崩壊することが、その理由である。

先述した青森県との約束に加え、こうした外交的な信頼関係を維持するという観点からは、そう簡単に核燃料サイクルを放棄するとは言えないのが現状だ。特に、2018年に期限が来る日米原子力協定の延長を考えれば、ここ数年で確固たる方針を決定する必要がある。

動かない現実を前に新しい漸進策が必要

しかし、「もんじゅ」も六ヶ所再処理工場も順調に稼働しているわけではない。こうした八方ふさがりの状況の中で、漸進的アプローチを取るとするならば、以下のようになろう。

1)高速増殖炉は「増殖」を主としたり、軽水炉並みの競争電源とするような開発目標を立てるのではなく、「高速燃焼炉」開発として、当面「軽水炉が残してしまうプルトニウム等の放射性物質の燃焼による有害度の低減」を主目的とする。

2)再処理工場の意義も、高レベル放射性廃棄物の減容化や潜在的有害度低減に焦点を当てたものとする。(第一)再処理工場は40年稼働が前提であり、たとえ30年代稼働ゼロが実現するとしても、今後約30年程度稼働することが見込まれる原発から発生する使用済み核燃料とこれまで既に発生しているものをトータルに再処理することは不可能。

したがって、第二再処理工場の建設についての検討を進めること必要となる。しかし、今後原発の新増設が困難になる状況の中では、工場の能力に対する処理量が不足し、高速炉を積極的に進めることにしない限り、回収するプルトニウムの使用先も見込まれなくなるため、経済性を確保することは不可能であり、政府による支援・関与を検討する必要がある。

3)上記の検討に当たっては、使用済み核燃料の発生量、MOX燃料使用可能量、回収プルトニウム量等を正確に把握し、定量的なバランスがどのようになるのか、そして余剰プルトニウムが発生することを避けるためには、どのような条件が必要かについて、関係者にとどまらず、広く国民一般の間で認識を共有する必要がある。いずれにせよ、「原発稼働ゼロ」、「再処理の継続又は直接処分」、「高速炉開発」、は、相互に密接に関連しており、部分的に解決することは極めて難しい。

4)また、中間貯蔵に関しても、今後そのキャパシティ拡大やドライ・キャスクによる保管について、その事業体制を含め、使用済み核燃料対策の一環として検討していくことが必要となる。

ただし、中間貯蔵を分散的に行う案については、管理主体の分散に伴うリスクの増加や、貯蔵地点の立地問題、ドライ・キャスクの長期健全性に伴う技術的問題などに留意する必要がある。

その際、再処理事業に関する困難な問題を避けるための時間稼ぎ的な目的で「中間貯蔵」推進が取りざたされるようになっては、問題の先送りにしかならなくなる。その点には、十分な注意が必要である。

5)高レベル放射性廃棄物の最終処分については、処分地を公募その他の方法で探索しつつも、学術会議の提言のように「暫定保管」(注)の概念を導入するという考え方も提示されている。しかし、この案は次世代に責任を押しつけることにもなりかねず、また、「回収可能性を備えるということは、一定期間の「管理」が必要となり、その分安全性や防御性に問題が生じるデメリットも大きい。

こうしたことから、廃棄物を発生させた現世代の責任についてけじめをつけ、「管理」に伴う諸々のリスクを除去するために、エンドポイントとしての「地層処分」が最適な処分方法として選択されてきたことを忘れてはならない。歴史的に積み重ねられてきた議論や技術的な評価、そして国際的に検討されてきた結果(OECD/NEAやIAEA)を軽視することにもなりかねない。

また、実際に地層処分を進めようとしている国もある中で、今後近い将来に地層処分以外の処分技術・方法にそれほど多くの資源を割くことは難しく、現実的には近い将来画期的な技術開発が出てくることを期待できない中で、「暫定保管」を進めることは、またしても結果的に問題の先送りになる可能性が高い。

注:「高レベル放射性廃棄物の処分について」平成24年9月日本学術会議より

:暫定保管(暫定責任保管)
高レベル放射性廃棄物を、一定の暫定的期間に限って、その後のより長期的機関における責任ある対処方法を検討し決定する時間を確保しつつ、回収可能性を備えた形で、安全性に厳重な配慮をしつつ保管することを意味する。

6)ただ、一方で、これまで地層処分の必要性や安全性についての一般的理解が進んでいるかと言えば、疑問なしとしないし、他の技術について基礎研究を続けていくことの意義も小さくないことも事実である。高速炉や消滅処理など、廃棄物の処分や取り扱いをより容易にするための研究開発にも投資しながら、同時に、福島原発の事故以降原子力技術に懸念が急速に高まった一般国民の関心を喚起する形で、現時点における最適な処分方法としての地層処分についての意義づけを行っていくことが必要である。

第三のアプローチ「国際的枠組みの構築とゼロからの再検討」

第三のアプローチは、この際すべての制約要因を白地から問い直すことである。特に、核燃料サイクルの国際的な枠組み構築を構想する中で、これまでの制約を緩和する方策を考えることになろう。

特に、今後成長する発展途上国でのエネルギー確保にとって、原発がますます重要な選択肢になっていく中で、廃棄物の処分の問題や燃料供給の安定性の問題などは、各国の大きな課題となる。これまでのように、こうした問題は先進国だけにとどまらないのであり、既存の制度的枠組みについての再検討が行われる必要があろう。

例えば、日本は、これまでの実績をもとに、核不拡散上の課題に関して、東アジアにおける保障措置実施のための規制や体制づくりに、重要な貢献を行っていける能力を有している。こうした日本の実績を背景に、六ヶ所再処理工場(第二も含む)の事業を国際的に展開することを構想することは可能だろう。

その際過激な方法になるかもしれないが、使用済み核燃料の国際間移動を円滑化するような国際条約を構想し、廃棄物は発生した国内で処理をするという原則のバーゼル条約と違背しない範囲で、核燃料の供給、発電、再処理を国際的に構築することはどうだろうか。

さらに、地層的に適地が限定されるうえ、対テロなどに強力な防御性を備えなければならないような放射性廃棄物の処分施設は、どの国でも可能というわけではない。その意味で他の産業廃棄物とは別の国際的な枠組みを検討していくことも、将来の課題とすべきだろう。

総合的な検討と取り組みの必要性

こうしたアプローチはそれぞれお互いに排除するものではなく、同時並行的に検討することが可能である。ただし、その際には次の三つの原則を守らなければならない。

1)整合性
政府の革新的エネルギー・環境戦略のように、論理的整合性が欠如したり、これまでの歴史的経緯や積み重ねを無視したりすると、現実的な解決策にならない。さまざまな論点でオプションはオープンに議論されるべきだが、その組み合わせは論理的・時間軸的に整合性をもったものでなければならない。

2)柔軟性

例えば「もんじゅ」の開発に見られるように、核燃料サイクルにはそれぞれの工程において巨額の設備投資や研究開発費が必要になることから、いったん走り始めたら方向転換することが極めて難しくなる。その点を十分意識して、一定の方針を固めるまでには、さまざまなオプションを広く検討することと、組織や人材が一定のプロジェクトや制度に硬直的に貼り付かないような工夫を行う(例えば人事異動)ことが重要である。

3)総合性

これまで、政府・民間とも、原子力を巡っての戦略や計画を策定する場が、様々存在していたため、自治体や諸外国には、場合によって国全体としての方向性が不明確に見えることがあったのでないか。特に2001年の省庁再編、民主党政権での意思決定システムの混乱など、原子力に限らず、国全体の意思決定システムが揺らいできた。

しかし、こと原子力については、国の安全保障、エネルギーインフラ、国民の生命・財産にかかわる安全性問題など、極めて重要な政策イシューである。今後、核燃料サイクルを検討する場をどこに設置し、どういったメンバーで議論していくのか、そして議論の結果をどう実施していくのか。総合的な視点での検討と取組みを実現できるよう配意すべきである。

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