日銀の複雑な思いと「アコード」の意味 --- 長谷川 公敏

2012年11月15日 08:15

10月30日に開催された日本銀行の金融政策決定会合では、追加の金融緩和策として、「資産買入れ等の基金」を従来の80兆円程度から91兆円程度に増額することを決定した。リーマンショック後、先進各国の中央銀行は、いわば「金融緩和競争」をしており、このところ政府からも「金融緩和すべき」とのプレッシャーがかかっていた。


先進各国では既に政策金利が所謂「ゼロ金利」に近いため、中央銀行の金融緩和策は政策金利の引き下げではなく、主に「量的緩和策」になっている。そのため市場では、中央銀行による金融緩和の度合いをマネタリー・ベース(ベース・マネー)で見ている。

■マネタリー・ベースとは

マネタリー・ベースは現金通貨の残高と、市中金融機関の中央銀行への預金残高(当座預金残高)を合計したものだ。

まず現金通貨(日本では日銀が発行する紙幣と財務省が発行する硬貨)だが、基本的には経済成長に伴う需要の増加で増えるものの、クレジットカードなどの普及で現金需要は増えにくくなっている。

次に当座預金だが、当座預金は市中金融機関の預金残高に対応した準備預金と、市中金融機関の余剰資金の合計だ。このうち、準備預金は市中金融機関への預金の増え方が緩慢なのでさほど増えない。

一方、リーマンショックの後遺症で、押しなべて企業などの資金需要が低迷していることから、金融緩和策で中央銀行から市中金融機関へ供給されたおカネの大部分は、余剰資金として中央銀行の当座預金口座に積み上がることになる。

■量的金融緩和の効果

このように見てくると、マネタリー・ベース残高の増減は、概ね金融緩和に伴う市中金融機関の余剰資金動向に左右されることになる。もちろん、中央銀行による資金供給の増加は、政策金利の影響が及びにくい期間が長めの市場金利を押し下げる効果があり、景気を押し上げる心理的な効果もある。だが冷静に考えれば、資金需要がない中で、主に余剰資金を増やすことになる金融政策は、さほど意味がないように見える。

しかし繰り返すが、市場は中央銀行の金融緩和の度合いをマネタリー・ベースの増減(≒余剰資金の増減)で見ている。特に為替市場では、日本の「マネタリー・ベースの増え方が鈍い」ことを円高の理由にしているため、円高の悪影響が大いに懸念されている中で、日銀としては「意味がないので、金融緩和は不要」という立場は取りにくい。

■「アコード」の意味

ところで、今回の金融政策決定会合では、政府と日銀による「デフレ脱却に向けた取り組みについて」と題した共同声明文が出され、政府や日銀の「デフレ脱却への決意」が表明された。共同声明文には、主にこれまでの政府や日銀の主張が述べられており、特に目新しいことが書かれているわけではない。

しかし市場では、共同の声明文が初めて出されたこと自体に意味があり、共同声明文が今後、更なる金融緩和を促すことになると受けとめている。

■日銀の思い

なお、金融政策決定会合後の記者会見で、「この声明文はアコード(政府と日銀の政策協定)か」と尋ねられた白川日銀総裁は、1951年の米国の例あげて、「アコードは中央銀行の独立性回復の証」である旨、返答している。(注)

白川総裁の言葉には、日銀の複雑な思いが滲み出ているように思われる。

(注)白川日銀総裁は記者会見で、次のように述べている。

「アコード」としてよく知られているのは、中央銀行の独立性に対する意識が高まる中、円滑な戦費調達のためにFRBが行ってきた国債金利上限維持政策の終了を宣言するため、1951年に米国財務省とFRBが公表した共同声明文です。要するに、FRBの独立性を回復した共同声明文がいわゆる「アコード」です。

(日銀のホームページより)

なお日本では、共同声明文ではないものの、2003年に当時の竹中経済財政政策担当相と福井日銀総裁の「政府の意向を汲んで金融政策を行う」という趣旨の会談が、「アコード」として知られている。

長谷川 公敏
(株)第一生命経済研究所
代表取締役社長


編集部より:この記事は「先見創意の会」2012年11月14日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった先見創意の会様に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は先見創意の会コラムをご覧ください。

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