中央銀行の独立性はなぜ重要か

池田 信夫

自民党が「日銀法改正の検討」を公約に入れるようだ。安倍氏のリフレ論は彼個人の暴走にとどまらず、選挙戦の最大の争点に浮上してきた。マクロ経済の問題は非常にわかりにくいので、まず正確な事実を理解することが重要だ。


高橋洋一氏はインフレ目標について「バーナンキ議長が中央銀行『目標の独立性』を否定した」と言っているが、これは嘘である。彼の日銀講演の原文はこうだ:

A broad consensus has emerged among policymakers, academics, and other informed observers around the world that the goals of monetary policy should be established by the political authorities, but that the conduct of monetary policy in pursuit of those goals should be free from political control. This conclusion is a consequence of the time frames over which monetary policy has its effects. To achieve both price stability and maximum sustainable employment, monetary policymakers must attempt to guide the economy over time toward a growth rate consistent with the expansion in its underlying productive capacity.

高校生の英文解釈で「このthe goals of monetary policyとは何か」という問題が出たら、答は”price stability and maximum sustainable employment”である。これは連邦準備法で定められたdual mandateだから、FRBはその目標から独立ではありえない。しかしインフレ目標は物価安定を実現するためのinstrumentの一つだから、FOMCで政府から独立に決めている。ここではバーナンキはそういう具体的な政策手段にはまったく言及していない。

この講演は重要なことを述べている。リフレ派の私訳を引用すると、

近視眼的な視野を持つ政治の影響下にある中央銀行は、短期的な生産と雇用を達成するために本来持つ生産力を超えて経済を過剰に刺激するという圧力を受けるかもしれません。それによって得られるものは、はじめは喝采を受けるかもしれず、選挙運動を助けるものになるかもしれませんが、こういった効果は持続するものではなく、すぐに消滅してしまい、単に経済の長期的見通しを悪化させるインフレ圧力のみを残すのです。ですから、金融政策における政治圧力は、最後には不安定かつ高インフレな経済をもたらす望まれぬ変動を生んでしまうのです

まさにこれが安倍氏のやっていることだ。彼をミスリードしている側近は、原文が無理なら私訳を読んで、バーナンキの警告をよく噛みしめてほしい。