封建党と君主党

池田 信夫

選挙戦は、離合集散で大混乱だ。太陽の党がわずか4日で消滅して日本維新の会に合流したと思ったら、今度は維新の会に振られた減税日本が亀井静香氏と合流し、民主党を離党したTPP反対派や国民の生活が第一や社民党まで入れた「中道リベラル」の党をつくるという。これはマンガみたいだが、意外に日本のサイレント・マジョリティを代弁しているかもしれない。


右翼対左翼とか、保守対リベラルといった対立軸は、日本ではリアリティがない。アメリカのように民主党と共和党の対立が日常生活まで浸透している国とは違って、日本にはそういう理念の対立がなく、民主党も自民党も世界の基準からみれば「大きな政府」の社民勢力だ。

これに対して維新の会などの勢力は競争原理を理念とし、小さな政府を掲げている。これはマスコミ的には支持を受けているが、私以上の世代は、本音では「もう逃げ切れるからこのままでいい」と思っている。それは大っぴらにいえないので「グローバリズム」とか「新自由主義」をたたいてTPPに反対しているのだが、これは偽の対立である。

本当の対立は、戦後ずっと続いてきた江戸時代型システムを守るかどうかなのだ。自民党は改革といいながら実際には江戸時代だし、民主党はそれを変えようとしてはいるが変える力がない。それに対して今度の新党は、反TPP・反原発・反増税を掲げ、「長い江戸時代」をできる限り延長しようという立場だ。

これは意味のある対立である。幸福度はGDPとまったく相関がない。競争的で変化が激しい市場経済は、成長率が高いがストレスが大きく、勝ち組には快適だが弱者には苛酷である。そこから撤退して安定した生活を守りたいという欲望は、特に高齢者には根強い。日本の有権者の年齢のメディアンは51歳であり、高齢者は投票率でも一票の重みでも有利だ。

こうした固い支持基盤をバックにして、正面きって江戸時代型システムを守る政党が出てきてもいい。名前は「江戸時代党」でもいいが、封建党のほうがわかりやすい。これは蔑称ではなく、歴史的には近代社会より封建社会のほうがはるかに長く、日本は西洋と似た封建制が生まれた数少ない社会だ。弱いリーダーをみこしとしてかつぎ、分散的で軍事的には弱く、所得再分配を重視する構造は、日本人の「古層」に適応している。

他方、維新の会を極北とする勢力は、強いリーダーが憲法を改正し、統治機構を集権型に変えようとしている。TPPにも原発にも賛成で「国防軍」をもち、分配より効率を重視する。これは政策より一君万民の統治システムが売り物なので、君主党と名づけよう。これも蔑称ではなく、歴史的には民主制より君主制のほうが圧倒的な多数派である。

日本が成長局面から成熟局面に移行するに際して、欧米から輸入した思想ではなく自前の価値観をもてば、貧しくても心豊かに生きてゆく道もあるかもしれない。この対立を軸にして民主・自民も含めて再編すれば、有権者にとって意味のある選択が可能になろう。