「原子力に依存しない社会」にむけて: 「移行期間」を設けて原子力政策の構造改革を

2012年11月28日 14:29

SUZUKITatsujiro

鈴木達治郎
内閣府原子力委員会委員長代理

(GEPR編集部より)アゴラ研究所は、インターネット上で専門家を集めてシンポジウム「エネルギー政策 新政権への提言」を開催した。そこに出演した鈴木達治郎内閣府原子力委員会委員長代理の寄稿を掲載する。鈴木氏は、「原子力に依存しない社会」へのための考え、方策を列挙。政府の原子力政策の中心的人物の一人である鈴木氏のこの論考は、「政府が原発推進」という決めつけとか、「原発の賛成、反対という二分論」が単純すぎるものであることを、を示すであろう。

本文
「国民の信頼失墜」が最大の課題

3・11の福島原子力事故は、日本のみならず世界の原子力市場に多大なる影響を及ぼした。日本では、原子力安全のみならず原子力行政そのものへの信頼が失墜した。原子力に従事してきた専門家として、また政府の一員として、深く反省するとともに、被災者・避難を余儀なくされている方たちに深くお詫び申し上げたい。


被災者の方々の気持ちをひと時も忘れることなく、原子力政策の信頼を回復していくために全力を尽くすことが政府にとっての最優先課題であると思う。

原子力発電の将来をめぐっては、「脱原発か、否か」で争われている。しかし、国民的議論に寄せられた多くの意見や世論調査の結果を見ると、そういった二者択一の議論を多くの国民は望んでいないと思われる。

国家戦略室が設置した「国民的議論に関する検証会合」では、3つの含意を提示している。第一が、過半数の国民は「原子力に依存しない社会の実現」を望んでいること、第二は、しかしその達成に向けての「実現可能性」や「スピード感」についてはまだ世論も定まっていないこと、第三に政府に対する不信と原発への不安が大きくその不安解消が最優先といえる、としている。

このような段階で必要な原子力政策は、国民の信頼回復を最優先に、実現可能でかつ具体的課題を着実に解決していく政策を示していく事である。そこで原子力委員会において、これまで優先的に議論を重ねてきた政策課題について、個人的見解を述べてみたい。

福島対応が最優先課題:
第三者機関の設置を

まず福島原発事故の安定化から廃止措置にむけての着実な進展、そして福島の復興にむけての被災者に寄り添った除染や賠償、健康管理対策などが、最優先課題である。

原子力委員会では、これらの課題についても議論を続けているが、委員会として特に専門部会を設けて検討をしたのは、福島第一原子力発電所の廃止措置に向けての取組、いわゆる「中・長期的措置」に対する提言である。

昨年12月に専門部会が提出した報告書に基づき、政府と東京電力は「政府・東京電力中長期対策会議を設立し、「東京電力(株)福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(概要版)を作成した。

その後、着実に取り組みは進んでいるものの、地域の住民の不安はいまだに大きく、また海外からもその運営の透明性について、一部で問題視する見解が見られている。そこで、専門部会のメンバーを中心に有識者からヒヤリングを実施し、11月27日には見解を発表した。(東京電力(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期にわたる取組の推進について(見解)

提言には、下請けも含めた作業員の被ばく管理の徹底や事故メカニズムの解明などが含まれているが、最も強調したいのは、こういった取り組みが適切に行われているかを検証し、国内外に対し取組の透明性を確保する「第三者機関」の設置である。最近、英国の国家監査局がセラフィールド施設の廃止措置について、これまでの成果と達成できていない点を明確に分析した監査結果を発表した。

日本に欠けているのは、このような客観的な立場からの監査機能である。これは昨年12月の提言にも含まれていたが、まだ実現していない。もう一つ、「地域住民に対するコミュニケ―ションの促進」も重要な提言である。さらに長期的には、専任の廃止機関の設置も含めて、体制の見直しを検討していくべきだと考える。

原子力に依存しない社会を目指した構造改革を進めよ:
ソフトランディングのための「政策移行期間」が必要

日本の原子力政策は、これまで拡大一辺倒で進められてきた。そのために、平和利用担保を条件に、原子力基本法の下、原子力委員会を設置し、長期計画を策定して、政府が中心となって計画的に研究開発を進め、その政策に則って産業界が原子力発電を導入してきた。74年には発電所立地地域への支援を目的とした電源三法を導入した。

原子力立地を受け入れた地方自治体も、核燃料税を導入したり、安全協定を事業者と結んだりするなど、原子力開発と地域社会を結びつける制度を導入してきた。そういった制度化に基づき、産業界(電力業界や原子力供給産業)や研究開発機関は、そのためのインフラを長年にわたって維持・拡大してきたことになる。実際、これらは、脱石油やエネルギー供給安定化、そして最近では温室効果ガス削減という、エネルギー環境政策の目標実現に多大な貢献をしてきたことは事実であり、きちんと評価されるべきである。

しかし、3・11を経て、今後「原子力に依存しない社会」を目指すとすれば、当然ながらそういった制度や産業インフラをすべて見直していく必要がある。そういった構造改革を急に実施すれば、これまでの制度に依存している地域社会や産業にも負の影響が出る可能性が高い。

したがって、そういった影響を緩和する制度や期間、いわゆるソフトランディング(軟着陸)のための「政策移行期間」が必要だ。政策移行期間は、政策変更を決定したうえで、その緩和策や実行計画のロードマップを作成するための期間であり、いわゆる「モラトリアム」とは異なる。今、この「政策移行期間」の実態が見えてこないことが、国民に不安をもたらしている最大の要因ではないか、と考えている。

エネルギー政策、特に原子力政策は巨大なタイタニック号を操るようなものだ。進路変更、特にUターンするにはとても時間がかかる。古川元国家戦略大臣が「面舵いっぱいをきった」と言われたようだが、すぐに進路変更ができないように見えても、確実に進路変更を進めていく事が今後氷山にぶつからないために大事なのである。

現実的で柔軟な核燃料サイクル政策:
再処理と直接処分の併存、中間貯蔵を戦略的に利用せよ

進路変更に時間がかかる政策の典型が「核燃料サイクル政策」である。日本の原子力政策は、核燃料サイクル確立と高速増殖炉(FBR)実用化を大きな柱としてきた。これを着実に進展させるべく、全量再処理とFBR開発を法制度で規定してきた。例えば、67年には動力炉・核燃料開発事業団(「動燃」)を設置し、核燃料サイクルとFBRの開発・実用化を国家プロジェクトとして制度化した。これは、67年に動燃が設立されて以来、核燃料サイクル開発機構、原子力研究開発機構と組織が変遷してきても変わってこなかった。

さらに、使用済み燃料の処分方法は、再処理か貯蔵(99年の法改正で「中間貯蔵」が可能となった)しか認められておらず、日本では使用済み燃料の「直接処分」は法制度上不可能とされてきた。中間貯蔵の実現も、その使用済み燃料が再処理されることが前提であり、再処理が進んでいなければ、中間貯蔵の立地も極めて困難とされてきたのである。

これでは、政策変更はかなり難しいのがわかっていただけるだろう。今後、原子力に依存しない社会を実現するのであれば、再処理はいずれ不要になり、核燃料サイクル政策も見直しは必至である。しかし急激な変更は、青森県をはじめとする立地地域との約束や電気事業等への影響などを考えると容易ではない。直接処分にも技術開発や制度変更が必要だ。

そこで、原子力委員会では、原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会での議論を踏まえ、「再処理か直接処分か」の二者択一の議論から脱却すべく、「再処理・直接処分併存政策」を提言した。まず、直接処分の技術開発を進めるとともに、制度として直接処分を可能とすることで、使用済み燃料の取扱いに柔軟性が生まれる。

今後、再処理を継続する場合でも、全量はできない可能性が高い。一方で、いきなり直接処分に移行するのも現実的ではない。今後どの程度再処理を実施すべきか、果たして日本で全量再処理を変更して、直接処分に移行するのにどのような課題があるのか。そういった判断をするためには、ある程度やはり「移行期間」が必要である。

その柔軟性を確保する最大の手段が「中間貯蔵」であり、その戦略的価値は極めて高い。経済面、安全面でもメリットが大きい「中間貯蔵」を核燃料サイクルの中心に据えていく事が最も現実的で戦略的な方向だ。

福島事故サイトにおいて、「乾式貯蔵」(金属キャスクで空冷式、電源不要)が津波にも安全であることが実証された。核セキュリティの面からもプール貯蔵より優位と考えられる。事実、世界のほとんどの国、再処理を継続する国も、また直接処分を基本とする国もが事実上「貯蔵」を重視する政策、特に「乾式貯蔵」方式に移っており、これは国際的な観点からも重要な政策である。

こういった核燃料サイクル、とくに乾式貯蔵や六ヶ所再処理事業に係る総合的な評価を数年以内に実施すべきであると、2012年6月21日の原子力委員会で決定している。(核燃料サイクルの選択肢について

高レベル放射性廃棄物処分政策の見直し:
原点に戻った取組を

これに続き、重要なのが「高レベル放射性廃棄物処分」政策である。日本学術会議が原子力委員会の要請にこたえて、今年9月11日に「回答 高レベル放射性廃棄物処分について」を発表した。この中で、学術会議は「これまでの政策方針や制度的枠組みを自明の前提にするのではなく、原点に立ち返って考え直すべき」と提言された。

原子力委員会では、この回答を真摯にかつ謙虚に受け止め、現在の政策の原点となっている、1998年の原子力委員会高レベル廃棄物処分懇談会の報告書「高レベル放射性廃棄物処分に向けての基本的考え方について」まで戻り、これまでの計画や基本方針の見直しを含めて、再検討することを骨子とした見解案を検討中である。

現在の処分政策も、上記報告書に基づいた「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」(2000年)に則って基本方針、基本計画が作られており、実施主体の原子力発電環境整備機構(NUMO)もこの法律に則って認可された法人である。ただ、これら法律や制度も、上記の核燃料サイクル政策をもとに作られてきているので、直接処分は考慮されていない。したがって、核燃料サイクル政策の変更に伴い、上記法律の変更は必要となる。

さらに、学術会議の回答を謙虚に受け止めれば、いわゆる「トイレなきマンション」として批判されてきた原子力政策を見直し、今後は廃棄物(使用済み燃料を含む)の取扱い(貯蔵管理、最終処分)と原子力発電を一体とした原子力政策に変えていく必要がある。そして、これまで以上に、幅広い国民との対話を通じて、広範な合意形成を図るプロセスを設計する必要がある。このためにも、やはりある程度の「移行期間」が必要とされる。

国際的視点を忘れるな

原子力政策は、単に日本国内の合意形成を図ればよいというものではない。特に、核燃料サイクルは、核兵器の潜在的保有能力に直結するものであり、国際政治上きわめて機微な技術・施設である。特に、日本は非核保有国として、唯一濃縮・再処理施設の両方を保有しており、再処理の結果、欧州に約35トン、日本国内に約10トン、合計で45トンものプルトニウム在庫量を抱えている。

今回、原発に依存しない社会を実現するとすれば、このプルトニウムをどうするのか、という課題に直面することになる。現在の計画では、15~18基の既存の軽水炉でMOX燃料として利用することとなっているが、これも将来FBRが実用化されることを前提としてきていた。

FBRが実用化されない可能性が出てくれば、使用済みMOX燃料の処分も考慮する必要があり、なによりも15~18基の軽水炉がMOX燃料用に使用可能かどうかも不透明となった以上、プルトニウムの処分計画も再検討を迫られる可能性が否定できない。

まずは、これ以上の在庫量を増やさないこと、そして着実に在庫量を削減できる見通しを立てることが必要であろう。そのためには、「核燃料サイクルの基本的考え方」として「利用目的のないプルトニウムは所有しない」原則を厳守し、再処理はプルトニウム利用(または処分)計画を明確にしたうえで進めていく事が必要である。

原子力委員会は、この基本政策に則り、電力業界から毎年提出される「プルトニウム利用計画」を確認してきているが、今後は国際政治の観点、とくに核不拡散・核セキュリティの観点から、この原則の厳守または強化が必要となろう。こういった国際的観点からのサイクル政策の重要性についても6月21日の原子力委決定で提言をさせていただいている。

ガバナンス改革を進めるべき

最後に、国民の信頼回復には、政策そのものに対する信頼性だけではなく、その決め方や、原子力行政の在り方、電力業界の体制など、これまでの原子力統治機構(ガバナンス)についても改革が必要である。原子力安全規制の改革は、そのもっとも大事なものであるが、これまで推進を担当してきた原子力委員会を筆頭に、経産省・文科省、そして外務省などを含めた官僚行政体制、さらには原子力研究開発機構、電力体制等も見直す必要があろう。

現在、国家戦略室にて「原子力委員会見直しのための有識者会議」が開催されており、年内には提言が提出されると期待されている。その提言の結果、さらに原子力委員会を含めた、原子力行政全体のガバナンス改革も必要とされるかもしれない。こういった改革にも時間が必要であり、「移行期間」を設けてじっくり検討していく事が必要と考える。

(11月28日掲載)

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