景気が悪いのは何故か?

2012年12月01日 16:00

今回の衆議院議員選挙では、自民党を始めとして、「大胆な金融緩和によるデフレ脱却」を公約に掲げる政党が多い。また金が回っていないから景気が悪いと主張する人たちがいる。

しかし、数学を研究している私の立場から見ると、不可解である。数学の特徴は何かというと、現象を抽象化し、不必要な夾雑物を取り除いてモデル化して考えることである。 ここでは、金という2次的なもの極力捨象して考えてみよう。

なお、この記事は、小幡績氏の「単純な誤解」があまりに簡潔だったので、自分なりに補足したものです。


フラスコの中に日本を入れてみる

植物の成長に、どのような元素が重要であるかを見るには、特定の元素を除いて与え、成長が阻害されるかどうかを見ればよい。

今、仮に、日本をスケールダウンして、フラスコの中に入れ、外界との関係を遮断して、何が日本経済の成長に必要なのか、仮想実験してみよう。

すると、エネルギー、食糧、鉱物資源といったものを、殆ど産出しない日本は、これらの資源食糧を遮断されれば、ほぼ全員が死亡することが、直ちに理解されるだろう。そして、これら三つの要素は、全てエネルギー(と水)の姿を変えたものと理解し「エネルギー」と書くことにすれば、「エネルギー」をどれだけ輸入できるかが、我々の豊かさを決定していることが分かる。 

即ち、我々の豊かさは、海外から輸入される、「エネルギー」により支えられ、

(1) 物質的豊かさ = エネルギー量 × エネルギー効率

という恒等式は厳密な意味で成り立っている。

このように考えれば、我々の豊かさを押し上げようとすれば、つまり経済成長をするには、エネルギー効率を上げるか、より多くの「エネルギー」を輸入しなくてはならない。 このように「エネルギー」の自給率の極端に低いのが、日本の特徴である。

それでは「エネルギー」を日本は、どのようにして輸入しているかと言えば、自動車などの工業製品、電子部品といったものを輸出したり、サービスを輸出したり、海外で上げた企業の利益を還流したりして得た外貨を使って輸入しているのである。

従って、国内の資源、エネルギー産出、食糧生産(これもエネルギーの輸入に依存している)を無視すれば、エネルギー効率を一定として。

  (2)日本の物質的豊かさ ≒ 日本の海外への貢献

という近似式が成り立つ。

言い換えれば、日本は閉鎖系としては成り立たず、開放系であり、海外へ何らかの形で貢献することで、成り立っている国であり、貢献できなくなった時点で、成り立たなくなる国なのである。 。  

内向きの考え方の危険性

上のように整理すれば、日本において、公共事業を拡大しても、それで「エネルギー」の輸入は拡大しても、それは公共事業に消費され、日本の海外に対する貢献は拡大しない。 従って、(2)式から分かるように、自民党の提案する国土強靭化といった公共事業の拡大は、日本国の豊かさには全く寄与しない。 むしろ単なる資源、「エネルギー」の浪費に終わる可能性が高い。

国民の消費が落ち込んでいるから、景気が悪い、お金が十分回っていないから、不景気なのだ、という意見も根強いものがある。 これは小幡績氏が「単純な誤解」で指摘するように誤りである。

近似式(2)を見れば分かるように、海外への貢献が足りないのが不景気の原因である。

だから、極端な話、国民に金を配っても。長期的に我々は豊かになることはあり得ない。そもそも家電エコポイント打ち切りの反動による、電機業界の苦境を見れば、現在の消費は正に実力通りなのであって、何等かのショックで落ち込んでいるわけではない。 

以上のように、政府の経済政策の効果は、精々、景気の波を平準化するといった極めて限定的なものであることが理解されるだろう。

潜在成長率の低下の原因

日本経済が不調なのは、潜在成長率が低下しているからである。
それではその理由は何だろうか。これは主として以下の理由によると考えられる:

1. 高齢化(生産年齢人口の減少)
2. 教育の達成度の低下
3. 海外の企業と比較して技術力などの相対的な企業の競争力が低下
4. 要素価格均等化圧力による、雇用の海外流出、国内賃金の低迷
5. エネルギー価格、資源価格、食糧価格の高騰 

このうち、1,5は対処方法が存在しない上に、「エネルギー」(エネルギー、食糧、鉱物資源)の自給率が極端に低い日本は、5は豊かさ、そのものにダイレクトに響く。 

こういうことを言えば、円安にすればよい、という意見があるだろう。 しかし、それは成り立たない。 そもそも今、円高ではない。実際に、ヨーロッパやアメリカに出張に行けば、それは明らかだ。例えば、今年の9月に出張したパリの場合、ホテルは一泊100ユーロ(1万円ちょっと)はするし、サンドイッチとコーラで日本円で700円はする。 地方に行っても、ホテル代が少し安くなるだけだ。

このようにそもそも円高ではない上に、化石燃料の輸入が、今年度は24兆円前後にはなるだろう。これは、GDPの5%を上回る。従って、円安政策は、意味がない。輸入物価の上昇を通じて、生活が苦しくなるだけだ。

結局、グローバルに活躍する高スキルの人材、つまり、外貨の獲得に繋がる人材を優遇する一方。大部分の労働者の賃金を下げるということが必要だろうと思われるし、人材開国をして外国人労働者を移入することを考えないと成長することはできないだろう。

こういうことを言うのは、心苦しいが、残念ながら、日本全体で豊かになろうという時代は完全に過ぎ去った、と言えると思う。 

世界は一つの力学系として動いており、この流れに逆らっても、結局、大きな揺り戻しがあり、上手くゆかないことを肝に銘じるべきだ。 願望では世界は動かないのが現実だ。

また蛇足ながら、脱原発を短期間に成し遂げるというのは、(1)式を見れば、どんなに無謀なことか分かるだろう。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

関連記事

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑