相続増税は国富の流出を招きかねない --- 岡本 裕明

アゴラ

11月30日の日経新聞に目立たないほどの小さな記事にとんでもないことが書かれています。

「財務省は外国籍の子どもや孫に対する相続税と贈与税の課税対象拡大を検討する。外国にある資産を加える方針。現在は外国籍の子どもや孫の場合、国内にある資産だけが課税対象。外国にある資産への課税を逃れる事例があるため、課税の網を広げることを目指す」というのです。


一部の日本人富裕層は相続税対策から外国での永住権を取得し、資産を移し、更にその子供に資産を外国で引継がせるなどして相続税を回避することが手法として使われます。更に子供が外国籍を選択した場合、海外資産への課税はより難しくなると考えられていました。

その際たる例が武富士事件番外編となる武富士創業者の息子で元専務の武井俊樹氏が親から引継いだ武富士株にかかる贈与税でした。親はオランダ会社に株式を移し香港在住の息子がその贈与を受けたわけですが、国税は脱法と認定、1500億円あまりの追徴を含む課税に対し、武井家はその課税請求額を納付した上で裁判で争っていたものでした。結果は息子の勝訴で全額還付プラス利息が400億円ぐらいついた事件がありました。この裁判のキーは確か、息子が香港に本当に在住しているかどうかが争われ、在住の実績が認められたケースだったと記憶しています。

仮に財務省が今検討している海外在住の子息に課税権を拡大するとなればこのケースも当然変わってきますし、海外在住の子息が日本国籍を放棄し、その国の国籍を取得してもダメだ、と言うことになります。

となれば相続税逃れはより一層難しい仕組みになるかもしれません。

それにしてもここまで相続税にこだわる日本の役所は日本の長い歴史が物語っているものであります。つまり、日本の資産は神道的には神様から預かったものであり、死ぬときにはお返しする、ということなのだろうと推測しております。それは農家が先祖代々の田畑といい、大規模農家に転換しない一つの理由でもあるのですが、先祖代々とは神様からお預かりしたもので、それは売買という対象にはならないという考え方であります。

しかし、相続税がない国はずいぶんあるものでここカナダもありません。また、相続税があるアメリカなどでも控除額が4億円ぐらいあるわけで一般の人には余り縁がない話なのであります。ところが日本の場合は財政赤字の為、財務省は取れるところから取る、というスタンスを崩していません。一昨年ごろでしたか、法制化の動きがあった相続税の税率改悪で控除額が40%ぐらい悪化する予定でしたが一旦流れました。

しかし、確か、あと1、2年のうちに必ず復活するはずです。安倍総裁も相続税増税はたしか前向きの発言をしていたかと思いますので仮に自民が政権をとればこれは可決される公算が高いということです。

となれば、私は日本から起業家は逃げると思います。それは人材の流出であり、頭脳流出にも繋がるかもしれません。私は非常に懸念しております。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年12月4日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。