【笹子トンネルの教訓】 社会資本の維持・更新の選別基準策定を

小黒 一正

アメリカの社会資本が1980年代に荒廃したのは有名である。この理由は単純で、社会資本の耐用年数=50年とすると、1920年-30年代のニューディール政策で構築された社会資本の多くがその耐用年数を過ぎ、老朽化したからである。

他方、図表1のとおり、日本では高度成長期を含む1950年-60年代に本格的な社会資本整備がスタートした。このため、日本の社会資本は2010年代から老朽化する。

アゴラ第51回(図表1)

これは、社会資本の荒廃が進んだアメリカの1980年代から30年後に相当するが、アメリカでは1983年にコネティカット州マイアナス橋が落橋する等の事件が発生しており、近々、日本の社会資本でも似た事件が起こる可能性が一部の専門家から指摘され始めていた。

このような状況の中、先般(2012年12月2日午前8時)、1977年12月の開通から35年が経過している「笹子トンネル」の事故が起こった。報道によると、突然トンネル内のコンクリート製の天井板が崩落し、数台の車がその下敷きとなり、9名が犠牲になった。

このため、国交省では「トンネル天井板の緊急点検」を実施するとともに、有識者で構成する調査・検討委員会(正式名称「トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会」)が急遽立上げられ、落下の発生原因の把握や再発防止策等について専門的見地から検討が本格的にスタートすることになった。

だが、老朽化する社会資本は、トンネル天井版のみの問題ではない。以下の図表2のとおり、建設後50年以上が経過する社会資本の割合は、2009年度で10%前後であるものの、下水道管渠を除き、2029年度には50%に達する見込みである。

アゴラ第51回(図表2)

その結果、「平成21 年度・国土交通白書」の試算では、2011 年度から2060 年度までの50 年間において、社会資本の維持・更新費は190 兆円(年間平均約4兆円)に達すると予測する。

このような状況において、社会資本の維持・更新費をどう賄っていくか、老朽化が急速に進む首都高や、社会資本が経済成長に及ぼす影響との関係も含め、大きな問題となっていくことは明らかである。

ただ、急速に少子高齢化が進む中、社会保障費は1兆円超のスピードで膨張しており、財政は今後も厳しい状況が続く可能性が高く、限られた予算を効率的に利用する視点も欠かせない。その際、選択と集中の観点から、都市部・過疎地等で、どの社会資本を維持・更新し、どの社会資本を破棄していくかを選別するための「基準」策定も、大きな課題となっていくはずである。

また、これから新たなに投資する社会資本の建設の判断については、一時点での建設コストのみでなく、その後の維持・更新費も含め、中長期的な視点でのコスト比較の義務付けや管理体制の構築も検討に値しよう。

今回の笹子トンネル事故を教訓に、今後の社会資本の維持・更新に関する議論が深まることを期待したい。

(一橋大学経済研究所准教授 小黒一正)