ロケット打ち上げは北朝鮮崩壊の序曲 --- 岡本 裕明

アゴラ

北朝鮮のロケット打ち上げが刻々と迫っています。今年4月に四回目の打ち上げを行い、見事に失敗した際、韓国などの一部のメディアでは直ちに次の発射準備を行うだろうと報道していました。私は「直ちに」ということはないだろうとコメントしていましたが、理由はその大きな支出ゆえの北朝鮮経済に与える影響が大きすぎるからです。ですが、ほぼ8ヶ月を経て再挑戦を挑むということです。


金正恩体制になってから噂では指導力などでほとんど功績がないとされており、本人を始め、指導部は焦りがあることは事実でしょう。ではこの場合の功績は何かといえば国民が正恩氏に「偉大な人である」と思わせる行動であり、軍が大きな影響を持つこの国においてロケット発射の成功は国民感情を高揚させるためには絶好であると指導層は信じていると思えます。

ですが既に正恩体制の下で一度失敗しているロケット打ち上げが今回、再び失敗するならば正恩体制の威信は大きく崩れる可能性も秘めています。よって、この打ち上げは正恩氏にも指導部にも北朝鮮にもあまりにも大きな賭けであり、この成否により、今後の北朝鮮をめぐる外交、政策動きは大きく変わってくる可能性があるのです。

今回の打ち上げ予告に対して注目すべきはそれまで「お仲間」であった中国も反対姿勢をとっていることです。この理由を探ることは非常に重要な意味があるように思えます。ひとつは中国の指導部が変わったばかりであることによる「準備不足」から打ち上げを婉曲に延期せよという意味にもとれます。

しかし、私はそうではなくて、中国はこのロケット発射は失敗するだろうと読んでいるのではないかと見ています。仮に失敗すれば北朝鮮の体制崩壊に一歩近づくことになりますが、その場合、一番影響を受けるのは中国北東部であると見られています。それは大量の難民受け入れから経済的支援まで大きな負担となるわけですが、今、中国にはそんな余裕がない、というのが正直なところなのだろうと思います。事実、中国はロケット打ち上げには反対しながら経済制裁にも反対してます。経済制裁は直ちに北朝鮮のクビを絞める促進剤となってしまい、中国にとって不都合なシナリオだと考えられます。

ご承知のとおり、中国経済は徐々にその経済成長高度を低下させています。しかも一部には根強い統計数字の改ざん説もあり実態としてどれぐらい経済が病んでいるのか、把握しにくい状況にあります。つまり、中国新指導部としてはこんな状況の時に新たに問題を発生させてくれるな、という解釈をしたほうが良いのだろうと思います。

同時に韓国側も経済的には厳しい状況です。とても今、北朝鮮に十分な経済支援が出来る状況にありません。

ですから、経済的にもあまりにも危険すぎる今回の打ち上げは関係各国が真剣に心配している所以とみえます。ちなみに一回の打ち上げで700億円程度の支出になると思いますが、北朝鮮のGDPはわずか2兆円規模です。だいたいヤマダ電機の売り上げと一緒でトヨタの売り上げの10分の一程度とお考えになっていただければ700億円がどれだけの負担になるかお分かりになるかと思います。しかも今年で二度目の発射実験なのです。

アメリカ、韓国、日本の包囲網も固く、実験を成功と証する状態に持っていくのは厳しいのではないかとみています。

ところで、日本は北朝鮮情報をどこから入手しているかといえばほとんどが中国北東部の在中国の日本の領事館あたりのはずです。日本の韓国からの情報は限定的だと理解しています。中国北東部のほうには北朝鮮の生の声が聞こえやすいということもあるのでしょう。韓国経由は「情報の解釈」をする必要があるのだろうと推測しています。

いづれにせよ、発射時期今月10日から20日と日本の衆議院総選挙の16日、金正日の一周忌の17日、韓国の大統領選挙の19日を含む時期にしていますので北朝鮮指導部としてはそのあたりの政治的駆け引きも一応は試みているのだろうと思いますが、個人的にはどう見ても勝算がない賭けのような気がいたします。

2013年の大きなテーマのひとつに北朝鮮というワードが上がってくる可能性も否定できなくなってきたということでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年12月5日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。